SEO、その前に

2009年2月2日(月)
中島 公平

集客はできたものの…

 別の声に耳を傾けてみます。今度は「自社サイトに多くのユーザーを呼び込むことはできたが、成果がなかなか伸びない」という問い合わせです。

 アクセスログの数字を見てみると確かにサイト全体の訪問者数は増えており、一見するとSEO施策としては成功したかのように見えます。しかし、企業側の成果が伸びていないという現実がある以上、一概に喜べる結果ではありません。なぜこのような結果になってしまったのでしょうか。

 原因として、Webサイト側の受け入れ態勢がまったくできていなかったという点が挙げられます。外部のSEO施策を用いて集客のみを行い、ユーザーの受け入れ先であるWebサイトにおいて成果を伸ばすための施策を何も行っていなかったのです。

 多くのユーザーをWebサイトに呼び込むという姿勢は決して間違いではありません。しかし、テレビのように一方向的に情報を発信し、多くの人々にただ見てもらえば良いものというものでもありません。

 Webサイトはユーザーに利用されることによって初めて有効に機能し、ユーザーの目的が達成されることによって初めて企業に成果をもたらします。単純に訪問者を増やせば成果につながるというものではなく、増えた訪問者をいかに効率的に成果へと落とし込むか、この複合的なアプローチがWebサイトには求められます。コンバージョンレート、つまり訪問者数全体に対する成果の割合がSEO施策においては重要な評価基準となります。

 今回のケースをコンバージョンレートの観点から見ていくと、全体の訪問者数が増えているにも関わらず、成果がほとんど伸びていないため、その割合自体は下がっているということが言えます。ユーザーの動きを推測するに、SEO施策を通じてWebサイトに訪れたものの、目的の情報が存在しなかった、あるいは探し出すことができなかったために、1、2ページを見てすぐにサイトを離れてしまったということが考えられます。

SEOがもたらす影響

 なぜこのようなことが起こるのでしょうか。その背景として、ほとんどのユーザーが検索エンジンをインターネットの入り口として利用しているという現実があります。

 巨大なデータベースであるインターネット上から目的の情報を探すという行動はもはや、検索エンジンなしには考えられません。検索エンジンを活用すれば、あっという間に目的の情報に対するインデックスが返されるため、最も効率よく情報を探す方法として広く一般化しています。そして、広く利用されているだけに、もたらす影響も小さいものではありません。

 例えば「特定の情報を求めて検索エンジンにキーワードを入力し、検索結果上位のリンクをクリックしてページを開くと、まったく的外れの情報が表示された」というような経験をしたことがあると思います。これはユーザーにとって極めて不愉快な体験です。わざわざ時間とお金を使って必要な情報を探しているのに、邪魔をされたような気分になるものです。

 このような体験を繰り返し与えられた場合、ユーザーはこの企業のWebサイトは自分にとって不必要な情報しか提供してくれない、と記憶にとどめることでしょう。同時にWebサイトに掲載された企業名やロゴマーク、URLを無意識のうちに覚え、結果的にその企業に対する悪い印象だけを記憶の中に蓄積していくという、企業にとってありがたくない状況を生んでしまう可能性があります。

 さらに言えば、来訪者の増加に伴ってサーバーへの負荷が増え、サイト全体のパフォーマンスを落としてしまう場合があります。その結果、本当にそのWebサイトの情報を必要とするユーザーへのレスポンスが低下してしまい、満足なサービスを提供できなくなり、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまうという、企業にとって極めて不利益な状況を生み出す可能性もあるのです。

 ちまたでもてはやされているSEOですが、何の考えもなしに手をつけると悪い影響をもたらしかねないという危険性を十分に理解する必要があります。

株式会社キノトロープ
広島大学教育学部卒業。デジタルハリウッド福岡校の講師を経て、2005年にキノトロープ入社。開発部にてECサイトやコーポレートサイトの構築ディレクション、業務系システムのインターフェース設計等に従事。2008年より営業・広報部副部長としてグループ全体の営業窓口・ブランド戦略を担当。http://www.kinotrope.co.jp/

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