RT+ITで新しいロボットサービスの世界へ

2009年6月25日(木)
長瀬 雅之

RTCを実際のロボットに当てはめる

 レーザーレンジファインダーRTCは、一般の研究者に公開するとともに、セック自らのロボット試作にも使っています。セックのRTシステムの構成は至って単純です。第1回(http://thinkit.jp/article/950/2/)でお話ししたRTシステムの定義を思い出してください。

 「何かを検知し」「検知した実態に何らかの処理を施し」「結果を実世界にフィードバックする」もの、これを広義のロボット=RTとする

 ということでしたね。この定義に当てはめて、セックのシステムは以下の構成で作られています。

1)「何かを検知する」……レーザーレンジファインダーで物体を検知する
2)「検知した実態に何らかの処理を施す」……検知した物体の中から人物を抽出する
3)「処理結果を実世界にフィードバックする」……抽出した人物にカメラを向ける

 これを図で表したのが図2-1のシステムです。

1)「何かを検知する」部分は、図中のセンサーRTCです。レーザーレンジファインダーを包んだ前ページのRTCを使っていますので、北陽電機社製センサーとSICK社製センサーを、プログラムを変更することなく入れ替えることができます。

2)「検知した実態に何らかの処理を施す」部分は、図中のコントローラRTCです。レーザーレンジファインダーで検知した物体から人物を抽出します。1/10秒間隔で人物の位置を抽出できますので、移動している人物を追跡することができます。

 このコントローラRTCの核となる、人物を追跡するロジックは、九州大学の倉爪教授に師事し、「パーティクルフィルター」というアルゴリズムで実装しています。追跡の精度を高めるために、これまで少しずつロジックの改善を行ってきましたが、センサーとアクチュエータとのインターフェースをRTCできれいに切り分けることで、ロジック部分の修正に注力することが可能となっています。

3)「処理結果を実世界にフィードバックする」部分は、図中のアクチュエータRTCです。アクチュエータにはサーボモーターを使っていますが、ここもセンサー部と同様の考え方でRTC化しているため、サーボモーターの入れ替えの際にも、コントローラRTCのプログラム修正は不要です。

RTCの流用性を高め、システムを進化させる

 セックのRTシステムは、当初は、「ロボット防犯システム」と命名していました。しかし、RTCとRTミドルウエアがシステムのカスタム化を容易にしているため、今では防犯用途以外の使い道も出てきています。現在は、以下の3つの用途で考えています。

・ロボット防犯システム
・観光案内ロボットシステム
・動線計測ロボットシステム

 図2-2は、2009年5月に行われたロボティクス・メカトロニクス講演会'09(http://www.jsme.or.jp/rmd/robomec2009/)での発表内容です。この発表では、指向性の高いパラメトリックスピーカを搭載し、新たに音声サービスを付加しましたが、機能追加にともなうシステムの変更は容易でした。

 また、学会だけでなく実ビジネスにおいても、本システムのカスタムで対応した事例があります。本システムを核にして、レーザーレンジファインダーに加え、お客さまご指定のセンサーを接続し、画面出力もお客さま仕様に変更して提供しました。

 既存資産を有効活用することで、費用を最小限に抑えながら要求に応え、結果としてお客さまに満足していただくことができたのです。私はこの事例を通じて、RTCでシステムを作り上げることがシステムの短納期化、コストダウンにつながることをあらためて実感し、RTCの有用性に自信を持ちました。

 上記のように、RTCの流用が容易になり、システムを進化させ続けるには、おのおののRTCの責任範囲が適切に設計されていることが前提となります。これは、皆さんが普段のソフトウエア設計で行っているモジュール化(ソフトウエア分割)の工夫による流用性の向上と同様です。

 少し異なるのは、RTCの場合には、あらかじめコンポーネントの型が決まっていて、コンポーネント単位で流用することを想定しているため、通常のソフトウエアよりも格段に流用性が高くなるという点です。

 流用性の高いRTCを作成するための考え方については、拙著『はじめてのコンポーネント指向ロボットアプリケーション RTミドルウェア超入門』の中でご紹介しています。ソフトウエア開発の奥義であり難しい部分ではありますが、大学で学生に講義させていただいた時に使った内容も盛り込んでいますので、ご参考になるかと思います。

株式会社セック
1985年株式会社セック入社。入社以来、ネットワーク関連、宇宙関連システムを多く手がける。特に、人工衛星搭載ソフトウエアの開発に永く従事。2002年から、ロボットシステムでのビジネス立ち上げのために活動。特にRTミドルウエアを中心とした標準化活動から、ITとRTの接点を探っている。

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