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| はじめに | ||||||||||||
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金融市場では投資先の財務諸表、ビジネス内容、競争優位などの情報の信頼性について関心が高まっているようだ。ライブドア事件や米国のエンロンやワールドコム事件などがまだ記憶に鮮明に残っている。 これからも、こうした事件が再び発生する危険性がある中で、現在、中立的な監査制度の強化やIT業界に大きくインパクトを与えているSOXの動きなど、投資情報の透明性を向上するための努力がはかられている。 透明性が不足すれば、買い手と売り手の「情報非対称性」が生じる。それを買い手と売り手のどちらかが悪用すると、市場や社会に悪影響をおよぼす。 こうした情報の非対称性や偏在性を解消し、より効率的な市場や調達の仕組みの確立に、ITが効果を発揮すると期待されている。 中でも、筆者が注目するのはITの調達プロセスだ。ITの調達プロセスは情報の非対称性がもっともはびこっている仕組みの1つだと考えているからだ。 モノづくりのプロセスにおいては、トヨタあるいはデルの部品調達プロセスのように、ベンダーとの効率的な情報共有によって、サプライチェーンのスリム化に成功した事例もある。だが、システムづくりのIT調達プロセスにおけるほとんどの場合には、情報の非対称性を解消しようとする努力が、今ひとつ見えてこないように感じる。 |
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| 「逆選択」と「モラルハザード」が発生しやすいIT業界 | ||||||||||||
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現在の日本のIT調達プロセスは、情報の非対称性により生じる「逆選択」や「モラルハザード」が非常に起きやすいと状況だと筆者は考える(下記コラム参照)。 |
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情報の非対称性によって逆選択とモラルハザードが発生する 経済学の言葉で説明すると、情報の非対称性を使った不正な操作には「逆選択」と「モラルハザード」の2種類がある。エンロンやライブドア事件のような粉飾決算は本来、情報の非対称性を抑制するはずの仕組みである会計をごまかすことだ。エンロンの場合は、この仕組み上、本来中立であるべき立場の監査法人アーサー・アンダセンまでが巻き込まれ、倒産にまで至ってしまった。 「逆選択」とは、こうした粉飾決算のように実際のビジネス状況の情報を隠す行為によって、本来の正常な選択ができず、結果的にその逆の選択をしてしまうことを指す。一方、情報非対称性を解消する仕組みが存在しない、または中立な監査が働かない場合は「モラルハザード」が発生しやすくなる。 1997年のアジア通貨危機の引き金の1つはモラルハザードだった。当時は、アジア諸国の銀行で貸出決定権を持っている担当者たちに、返済リスクの責任(Accountability)を持たせる仕組みが存在しておらず、不良債権が膨大に隠されている疑いが表面化した。このため、タイから数日間で被害が広がり、アジア全体の通貨の信頼性をぐら付かせ、ヘッジファンドの空売り対象となった。 このように銀行の担当者たちは、現場と関連するステークホルダの間に発生する情報非対称を使って、経営者やステークホルダの利益と一致しない行為を行なったのだ。これを経済学者は「モラルハザード」と呼んでいる。 |
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理由はいくつかある。まず、システムそのものが見えない。また、定義が曖昧な横文字が並び、技術変化が激しい。さらに、効果をはかりにくい性格を持っている。にも関わらず、企業の組織上、ITの責任分担が曖昧なところが多く、しかも中立の監査・評価制度があまり発展していないからだ(図1)。 事例を1つ紹介しよう。 筆者の仕事上、ユーザ企業にしばしば提案する機会がある。数年前、ある大手メーカーA社から国内では稀な、大規模トレーサビリティシステムのRFPを受けた。そこには、評価期間は6ヶ月で競合入札により決定すると明記されていた。 当時、筆者が勤めていたソフト会社は大規模分散化に耐えられるトレーサビリティシステムのパッケージソリューションを提供していた。また、A社の担当者はこのソリューションが他社の手作り主体のソリューションと比べて優位性があることを認めていた。 6ヶ月の評価プロセスを経て、A社には7社の候補からのソリューション提案が集まった。これを受けて、A社ではデモを見たりディスカッションを重ねた。ところが、最後の週にいきなり評価プロセスに入っていなかった第8社が受注してしまった。 後日この第8社から次のような連絡が入った。「弊社には最近請け負った仕事に適切なソリューションがないので、貴社との協業を相談させていただけませんか」というものだった。 ユーザ企業におけるRFPの評価では、勝てそうで勝てないケースは珍しくない。ベンダーを選別する基準は企業の自由であり、ソリューション提案の良し悪し以外に価格やベンダーの信頼性、政治関係などの要素にも大きく左右することはわかっている。 それにしても、7社からのソリューション提案に対し、6カ月間をかけてデュー・デリジェンス(プロフェッショナルかつ適正な評価)を実施した上で、いきなりソリューションを持っていないベンダーが選ばれたのはどう考えてもおかしい。 その1年後、ベンダー選別プロセスに積極的に参加してなかった事業部長の意向で第8社を選んだということを、A社の担当者から聞いた。その事業部長はIT部門担当者のシステム評価の詳細な説明を理解できなかったのだという。一方で、事業部長は前職から第8社の社長と付き合いがあったため、第8社に任せればうまくいくということでIT部門を説得したという。 これは、一種の「逆選択」ともいえるだろう。第8社の社長がA社の経営層とIT現場の情報非対称性を使って、ソリューションを持っていないにもかかわらずA社の事業部長に選択させたわけだ。 |
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