自動運転車は「雪道」でもスリップせず走れるか
米国の70%は降雪地帯にあり、毎年の降雪量は平均5インチになる。連邦高速道路管理局によれば、米国の70%はそういったところに居住しているという。週末には各地で記録的な大雪をもたらした大寒波が日本を襲い、慣れない地域ではスリップ事故も多発。土地勘のない観光客が道路の縁石に乗り上げるなど、多くの人が改めて雪道における自動車走行の厳しさを体験したことだろう。
さて、自動運転車が雪道を運転できるようにならない限り、雪の怖さを知る彼らには見向きもされないに違いない。雪になじみ深い人々にとっては、雪道を走れない車など選択肢にも上らないはずだ。
最近になって、ようやく「自動運転車は台風や吹雪の時にどうするのか」という話題が上るようになってきた。だが技術は常に進歩しており、エンジニアたちは自動運転車が荒天の中でどうすべきか答えを探している最中だ。
今日の技術でわかっていること
冬の路上は雪や氷でグリップが失われ、見通しが遮られる。冬の交通事故で年間1300人が死亡し、116000人の負傷者が出ている。
自動運転車がこれらの命を救う可能性は十分ある。だがそれも自動運転車が私たちより雪道運転が上手ければの話だ。自動運転車は、我々が冬に体験している多種多様な状況に直面することだろう。凍った路上での減速やコーナリング、停止はスノータイヤや4Dでようやくできていることだ。スリップやスピンなどが起こる可能性は大きい。
自動運転車に積もる雪や氷はさらなる危機をもたらす。システムはセンサーによって周りを認知するのだが、荒天の場合はどうだろうか。
ドライバーは視認性を意識するべきなのだが、自動運転の場合に雪や氷を意識することはない。気になるのはワイパーがきっちり機能しているかどうかだろう。レーダーやカメラが同時に雪に覆われたとしたら自動運転車の視認性はもはやゼロだが、幸いにも現在こういったケースへのソリューションは存在する。
自動運転車はいかにして雪道に向き合うのか
自動運転車はどのようにして、人間のできるそれ以上に雪道で走行できるようになるだろう?
雪道における安全運転は経験によるところもある。スリップやスピンを経験したドライバーと比べ、新人ドライバーが雪道を運転することはより一層難しいだろう。だが、それは技術が解決できる。自動運転車のセンサーはどれも単体では安全と言えないが、連動することで正確性は確保できる。以下に挙げる4つの技術が、雪道での自動運転車の安全運転の可否を握る。
- 自動運転車に取り付けられている「3Dマップ」によって、道をどう安全に走るかに備えることができる。多くの自動運転車メーカーは木の位置や標識、車線やカーブなどの詳細なマッピング技術を持っている。車が走っているところをよりよく知ることで、他の車や通行人などの障害物により集中できる。これら3Dマップは晴天下で有効な技術だが、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging:「光検出と測距」ないし「レーザー画像検出と測距」)など他の技術と組み合わさることで雪天下でも機能する。
- 「LIDAR」は、ビームで障害物を検知することで機能する。非常に正確な技術で雨粒や雪、木や標識の識別が可能だ。雪天下では3Dマップとの組み合わせで、晴天時のマップ情報と実際の路面状況を比較する。例えば道が雪に覆われていてもLIDARは車線の検知が可能だ。ビームによる検知で車は停止標識やビルなどの距離を計測し、それから覆われた車線の場所を割り出すことが出来る。フォードはこの車を自社の自動運転車に導入したが、他社もこれに続くだろう。さらに言うと、3DマッピングとLIDAR技術は雨粒や雪が障害物かどうかの判定もできる。レーザーが雨や雪を通過する際、最初はこれを障害物だと判断するかもしれない。
だが、アルゴリズムによって、それがどれだけの時間同じ場所にあるかチェックされる。レーザーが同じ雨粒を2度通過することはないため、これは障害物ではないと判断されるのだ。 - レーダーは電磁波を使って物体を検知する。LIDARと違い光の反射を伴わないことから、雪や雨の影響をより受けにくい。荒天でも走っている車や通行人、ビルの検知のできるレーダーは自動運転車が安全に走行するのに役立つ。しかし、多くの製造業者はレーダーをフロントガラスの裏に設置している。センサーが車の外に取り付けられた場合、凍りついて使い物にならなくなるためだ。
- 車体に取り付けられたカメラも路上の障害物検知に役立つ。今後、製造業者はカメラをフロントガラスの裏に取り付けるか、冬でも凍りつかないよう解凍装置を開発するだろう。複数のセンサーを使うことで、あるセンサーが雪に覆われた時の危険性を最小化することができる。マッピングアルゴリズムやレーダー、LIDARとカメラの組み合わせで安全性が提供される。
さらに多くのセンサーを使おうとしているところもあり、メルセデスベンツはクルマに23ものセンサーを搭載し、ガードレールや周りの交通状況、木々などを検知し、車線なしでも車が走れるようにしようと試みている。
多くの技術は未だ中途半端な状態だ
自動運転車があらゆる天候に対応できるようになるまでに克服されなければならない課題は多い。技術は進歩しているが、冬でも自動運転車が安全に運行できるためのいくつかの要素は依然として不明瞭である。凍結した路面は自動運転の問題であり続け、スノータイヤは当面必要だろう。
荒天において安全に運転できるか否かの判断を人間はおこなうが、こういった経験に基づく判断を自動運転車がどう下すのかについては明らかでない。車に乗って家を出ようというときに、自動車が「安全ではないため運転できません」とでも言うのだろうか? 走行中に雪が降ってきたとき、車はどんな判断をおこなうのだろう?
自動運転車向けの保険が冬には重要になるだろう。技術が進歩したとはいえ、路面凍結が問題であることは変わりない。横滑りやスピン、衝突などはなくならないだろう。センサーの雪かぶり対策は必須であり、自動車は危険な天候で先を見越したプランニングが求められる。
また人間のドライバーを助けている技術が自動運転車にも搭載されることになるだろうか? 人が運転するためのABS(Antilock Brake System:車輪のロックによる滑走発生低減装置)やESC(Electronic Stability Control:横滑り防止装置)といった機能は備わっているが、自動運転車向けのものとなるとサードパーティ製の物になるため、揃っていないソフトウェアも存在する。自動運転車の雪道運転は向上しているものの、まだまだ道のりが遠いことは明らかだ。
自動運転車が吹雪の中あなたを乗せて走るという未来は、まだまだ先の話になりそうである。
SETH BIRNBAUM
[原文4]
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- フェイスブックが「脳波でVRデバイス操作」を見送り、今後はリストバンド型にシフト
- RT+ITで新しいロボットサービスの世界へ
- 車が「1日4000GBの情報を生み出す」新時代のために我々がすべきこと
- HTCの新型VRデバイスVIVE Cosmos Eliteが約11万円で発売
- “渋滞のない世界” 20年後の高速道路をつくる3つの技術とは
- 自動運転、ロボット、GPUサーバーまで多様なエコシステムを体感できたGTC2019
- GTC 2019ではFacebook、Google、Walmartなどによる人工知能関連のセッションが満載
- Uberが自動運転トラックのスタートアップOttoを6億8000万ドルで買収、その狙いとは
- 自動運転車は“新たな犯罪の温床”になる
- 部品メーカーDelphi、アクティブセーフティ技術「ライダー」で躍進を狙う