de:code 2017開催、基調講演はAIがテーマに
日本マイクロソフトは2017年5月23〜24日に、技術者向けイベント「de:code 2017」を開催した。
23日午前の基調講演では、同月に米国で開催されたMicrosoftのイベント「Build 2017」で発表された内容を中心に、Microsoftの最新技術ビジョンが語られた。「The New Age of Intelligence」と題されたとおり、AIが大々的にフィーチャーされ、AIを利用した技術や、AIを実現するための技術が紹介された。その中で日本独自の発表として、日本のPreferred Networks社とのディープラーニングにおける協業も発表された。
また、Microsoftが推進するMixed Reality(MX)技術も取り上げられ、HoloLensの開発者Alex Kipman氏が登場した。
AI、データプラットフォーム、クライアントの3部構成
3時間弱にわたる基調講演は3部構成で進行した。第1部ではSteven Guggenheimer氏(Corporate Vice President & Chief Evangelist)が、AIにより新しいことを実現する技術を見せた。第2部ではJoseph Sirosh氏(Corporate Vice President of the Data Group)が、AIなどの大規模データを支える技術を解説した。第3部では平野拓也氏(代表取締役社長)と榊原彰氏(CTO)が、エンドユーザーが直接触れるWindowsの最新機能について紹介した。
オープニングに登場した伊藤かつら氏(執行役員 デベロッパー エバンジェリズム統括本部長)は、Microsoftのミッション「すべての人と組織をempowerする」に言及し、「そのためには技術者のみなさんのempowerが必要」と呼び掛けた。
また、近年言い続けてきた「Mobile-first」「Cloud-first」に加えて、新たに「Intelligent Cloud」と「Intelligent Edge」という言葉を掲げた。この言葉は以後の講演でも何度か繰り返し使われた。
AIで人間の能力を増幅する
Guggenheimer氏のパートは「Artificial Intelligence @ Microsoft」と題して、AIを使った技術について語った。Guggenheimer氏は冒頭で、「去年のde:codeでもAIの話をした。1年でどれだけ変わったかを見てみたい」と話し始めた。
氏はマイクロソフトのこれまでについて、クライアントのソフトウェアから始まり、サーバーやインターネットに広がり、最近ではモバイルファーストやクラウドファーストを唱えていると語った。さらに新しい要素として、エージェント(ボット)や、NUI(Natural UI)、MR、AI、IoTを挙げ、「開発パターンがこれからも進化する」と説いた。
こうした最新のビジョンが「Intelligent Cloud」(インテリジェントなクラウド)と「Intelligent Edge」(インテリジェントなクライアント)だ。「中心になるのがAIだ。AIは長く研究されてきたが、現在のようなインフラが整うことで、ようやく普通のプログラマーでも扱えるようになった。AIによって人間の能力を増幅したい」とGuggenheimer氏は語った。
AIのためのインフラには、巨大な処理能力、パワフルなアルゴリズム、大規模なデータがある。ちなみに、Microsoftのデータへの取り組みの一つとして、同社が2016年に買収したLinkedInが複数回言及されていたのが印象的だった。
「りんな」の限定版「りんお」をデモ
エージェントへの応用例として、女子高生AI「りんな」と、その4月限定版で俺様キャラの「りんお」が紹介された。ローソンからは同じ技術を使った「あきこちゃん」もLINEに登場している。坪井一菜氏は、限定キャラということで「りんお」とLINE上で対話するところをデモした。
コグニティブサービスで木の葉の種類を当てる
Guggenheimer氏は、画像認識や音声認識などの「コグニティブ」のために、Microsoftは27のサービスを提供していることを紹介した。動画からメタデータを作る「VideoIndexer」なども新しく追加された。
画像認識への応用として、木の葉の写真から木の種類を当てるシンプルなスマートフォンアプリの例を、Drew Robbins氏(Director Technical Evangelist)がデモした。デモでは、1枚の写真からアプリで木の種類を当てるところや、クラウドサービスのポータルから予測の情報や修正をするところ、ペタバイト級のデータをAzure Data Lakeでクエリをかけるところを見せた。
また、Microsoft Bot Frameworkを使ったボットによってSkypeチャットからレストラン情報を検索するところもデモした。Microsoft Bot Frameworkに新しく追加されたカード表示フレームワーク「Adaptive Cards」も紹介された。
Preferred Networksとの協業を発表
ここでGuggenheimer氏が、Preferred Networks社との協業を発表し、「Preferred Networksやその他の会社と協力して、AIの民主化を進める」と語った。
ステージにはPreferred Networks社の西川徹氏(代表取締役社長)が登場し、同社の技術を紹介した。まず、自動運転の模型自動車が走る間を、人間が操作する模型自動車が邪魔をしても、自動運転車がうまく対応する動画を見せた。
また、同社が公開しているディープラーニングフレームワーク「Chainer」と、5月に正式発表された並列分散版「Chainer MN」を紹介した。Chainer MNは大きくスケールし、ほかのフレームワークより学習時間が短くなるという。
西川氏はMicrosoftとの協業を「大きなチャンス」と語り、AzureやWindowsなどエンタープライズの技術やソリューションと組み合わせて、多くの産業に向けて開拓していきたいと語った。また、ディープラーニングの技術者が足りないため、協力して多くの技術者を教育していく活動もしていきたいと語った。
Microsoft OfficeにもAIを
続いてGuggenheimer氏は、「AIでMicrosoft製品をリニューアル」という言葉を掲げた。「Officeがいい例で、スペルチェックや自動生成などがすでに使われている」(Guggenheimer氏)。
OfficeからのAI利用の例として、PowerPointからの翻訳の例を、戸倉彩氏とGuggenheimer氏、Guadalupe Casuso氏の3人でデモした。PowerPointからMicrosoft Translatorを呼出し、プレゼンの内容を翻訳。さらにiPhoneをまじえて、日本語(戸倉氏)、英語(Guggenheimer氏)、スペイン語(Casuso氏)と3か国語でリアルタイム翻訳しながらメッセージで会話する様子を見せた。
チャットボットとCRM、BIをつなげる
最後は、AIをビジネスプロセスに活かす例として、仮想の自動車保険会社の業務にAIを使うところを、Josh Holmes氏がデモした。AIによる対話ボットと、Dynamics CRMなどによる顧客管理が連動する例だ。まず、英語、スペイン語、日本語(言葉はBing翻訳からコピーした)で挨拶して、それぞれの言語で返事をするところを見せた。
続いて、ボットによる質問形式で、所有車の車種や年式などを尋ねられ、自動車の写真を送ると、自動的に保険が見積られた。ここで「高すぎる」と返事すると、代わって人間が登場する。ここで保険会社側のDynamics CRMのダッシュボードを見ると、AIによって「この人はよそに行く可能性がある。ディスカウントをすれば残るかもしれない」と予測結果が表示されていた。
さらにBIツールのPowerBIを見ると、オーストラリアで競合会社のシェアが伸びていて、キャンペーンの必要があることがわかった。
このデモを受けてGuggenheimer氏は「AIをどのように使っていくかというデモだった」とコメントし、アラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という言葉を掲げた。
「AIの特異点」を実現するデータプラットフォーム
Sirosh氏のパートは、「Serving AI with Data」と題して、AIなどの大規模データを扱うためのプラットフォームを解説した。氏は「40年前のAIはプログラムだったが、今のAIはデータから学ぶことが中心だ」と最初に語った。
Sirosh氏は、地球が40億歳のとき、進化の特異点「カンブリア爆発」が起き、目を持った動物が登場して競争や進化が活発化した。それに対してSirosh氏は現在を「AIの特異点」であるとして、「AIがデータを見ることが可能になり、データを解釈して世界を変える」と論じた。そして、それを実現したのが、クラウド、データ、インテリジェンスの3つであり、「すべてのビジネスがAIビジネスになろうとしている」と氏は主張した。
こうした、クラウド、データ、インテリジェンスからなるアプリケーションを構築するためのプラットフォームとして、Sirosh氏は、「Intelligence DB」「Intelligent Lake」「Deep Intelligence」の3つのパターンを解説し、対応するMicrosoftの製品やサービスを紹介した。
AIを組み込んだSQL Server 2017
1つめのパターン「Intelligence DB」は、アプリケーション側ではなくデータのあるデータベース側に知性を持たせるというものだ。HadoopやSparkなどがこのパターンにあたる。
これに該当するMicrosoft製品として、4月に発表された「SQL Server 2017」をSirosh氏は紹介した。「AIを組み込んだ初めての商用RDBMS」とのことで、AIのストアドプロシージャや、Graphモデルをサポートしているという。同時に発表された「R Server 9.1」を機械学習のカーネルとして、組み合わせて利用できる。
SQL Server 2017とR Server 9.1をすでに採用した事例として、亀田総合病院のケースが紹介された。患者の入院期間を予測するのは困難という問題に機械学習で取り組むという。
ここで畠山大有氏が、SQL Server 2017のデモを行なった。CTスキャンの画像解析により肺ガンの可能性をパーセンテージで表示するアプリだ。畠山氏はソースコードを表示し、データベースのストアドプロシージャからディープラーニングフレームワークのMicrosoft Cognitive Toolkit(CNTK)を利用しているとことを見せた。また、同じくディープラーニングフレームワークであるPreferred NetworksのChainerを利用する例も見せ、「使い慣れたDNNフレームワークを使える」と語った。
地球規模で分散する「Azure Cosmos DB」
ここで話がSirosh氏に戻り、Azureのデータベースサービスが紹介された。5月のBuild 2017では、SQL Serverと同様にマネージドなデータベースとしてMySQLとPostgreSQLが追加された(プレビュー版)。
Build 2017では同時に、地球規模で分散する「Azure Cosmos DB」が発表された。Cosmos DBでは地球規模の分散をサポートしつつ、SLAの対象となっている(可用性、スループット、遅延に対して)。また、SQLのほかにJSONやグラフなどいろいろなデータベースモデルをサポートする。
ここでLeslie Lamport博士(Microsoft Research)がCosmos DBを解説する動画が再生された。これまでは分散データベースの整合性のモデルとして「Strong consistency」と「Eventual consistency」の2種類があったが、Cosmos DBではその中間に3種類を設け、Strong、Bounded-Staleness、Session、Consistent-Prefix、Eventualの5種類の整合性モデルに対応したという。
Cosmos DBのデモは廣瀬一海氏が行なった。グラフ問い合わせ言語のGremlinを使い、マーベルヒーローの人物相関図にクエリーを行なった。また、チャット上で、アイアンマンのチャットボットに対して、「友達は誰?」「ヒドラにいる敵は誰?」と尋ねて、人物相関図にもとづいて回答が返ってくるところを見せた。
ペタバイト級のデータをコグニションに使える「Azure Data Lake」
2つめのパターン「Intelligent Lake」は、いろいろなソースに入っているペタバイト級のデータからクエリーするものだ。Sirosh氏はAzureの2つのデータレイクとして、Hadoopベースの「Azure HDinsight」と、独自の「Azure Data Lake」を紹介した。
Azure Data Lakeでは、6種類のコグニティブ機能が使える。ペタバイト以上のデータをコグニションに使えるAzure Data Lakeの機能を、Sirosh氏は「Big Cognition」と呼んだ。
データ分析や機械学習のためのツールをプリインストールしたDSVM
3つめのパターン「Deep Intelligence」は、ディープラーニングによる機械学習を実装するものだ。そのためのプラットフォームとしてSirosh氏は、データサイエンス仮想マシン(Azure Data Science Virtual Machine:DSVM)を紹介した。データ分析や機械学習のためのツールをプリインストールしたAzureの仮想マシンイメージだ。
DSVMについては、Preferred Networksの齋藤俊太氏がChainerを使ってデモした。仮想マシンにログインしてpipコマンドでChainerをインストールし、手書き数字のMNISTデータセットで学習を実行した。
また、Chainerを使って線画に色を付けるアプリ「PaintsChainer」がデモされた。齋藤氏は「このようなサービスはChainerとAzureで簡単に開始できる」とコメントした。
Windows 10 Fall Creators Updateの新機能
平野氏と榊原氏のパートは、エンドユーザーが直接触れるWindowsの部分について解説した。榊原氏は、これまでのAIの発表と合わせて「全製品、全サービスにインテリジェンスを組み込む」と説明した。
具体的には、Windows 10で2017年秋リリースを予定されているFall Creators Updateで注目される新機能を紹介した。まず、Story Remix。ビデオにペンで文字を書き込むところや、特定の人を中心にリミックスするところ、3Dモデルを合成するところなどを、デモ動画で見せた。また、作業を遡れるTimelineや、iOS・Android・Linuxの開発環境の強化を紹介した。
そのほか、PCでコピーした店名をスマートフォンで地図アプリにペーストしてみせるデモ動画で、クリップボードの強化も紹介された。このようなデバイスをまたがった機能を実現する「Project Rome SDK」が、WindowsとAndroidに続いてiOS版も公開されたことも語られた。
Kipman氏「MRこそがコンピューティングの将来」
平野氏はまた、HoloLensが提供開始となり、開発者や法人の関心を集めていることを紹介した。そしてそのまま、HoloLens開発者のAlex Kipman氏が登場し、場内の喝采を浴びた。Kipman氏のメッセージは「MRこそがコンピューティングの将来」というものだった。
Kipman氏はまず、「HoloLensを使ったアイデアが世界中からたくさん登場したが、いちばん感銘をうけたものは日本からだった。日本ではすでに最速でMRの市場が伸びている。MRのハッカソンも開かれ、企業がMRを採用する事例も出ている」と、日本での盛り上りを喜んだ。
その例として、HoloLensを使って建物設計の計画から検査、納品までMRで済ませる小柳建設の事例が紹介された。テーブルの上に模型をCGで表示して打ち合わせたり、建物の中をMRで歩きながらその場で壁を変更したり、MRの中で見積りを表示したりするところがビデオで描かれた。
また、世界中のパートナーと協力している一つとして、日本のgumiの子会社であるTokyo VR StartupsおよびSeoul VR Startupsとのパートナーシップをアナウンスした。
Kipman氏は、世界各地のハッカソンの模様や、建設現場でのクリアランス確認などへの応用を取り上げた動画を流し、「何回見ても鳥肌が立つ」とコメントした。
Kipman氏は、「MRを使うことで、現実の人、物、場所をバーチャルと混在させられる」として、未来のコンピューティングのコンセプトを描いてみせた。まず物理的なオフィスに机があり人がいる写真を示した。そしてMRの世界に入り、子犬が現れ、アプリのウィンドウを表示し、人をアバターにしてみせた。さらに場所もバーチャルにしてみつつ、その中に現実のオフィスの構造を反映して安全に歩けるところを示した。
「MRによって、仕事も、遊びも、学びも、すべて変わる。公共も交通もハリウッドも変わる」とKipman氏。
Kipman氏は「MRこそがコンピューティングの将来」として、2〜3年先を想定した一連のスケッチを見せた。これまでの「パーソナルコンピューティング」ではデバイス(PCやスマートフォンなど)を中心にしていた。それに対して、コンテンツがデバイスや人に固定されず、「場所」にあるというビジョンだ。
「デバイスはレンズにすぎない」とKipman氏は語る。イラストでは、複数人がMRで共同作業しているところに、MRデバイスを持っていない人がPCから参加したり、X-BOXから参加したりと、それぞれ違う種類のデバイスから1つの場所に参加している様子を示した。さらに、Pinterestのサイトから椅子をMR空間に引き出して3Dで表示するところも説明した。
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