使って分かった国産クラウド「K5」のメリットとは
富士通のクラウド「FUJITSU Cloud Service K5(以降、K5)」は、オープンソース技術のOpenStackやCloud Foundryを採用しているのが一つの特長であり、富士通のノウハウとオープンな技術が組み合わされている。
K5は何がよいのか? 複数のクラウド利用経験を持つエンジニアが、K5を実際に使ってみてわかったことを語った。
データ転送量無償かつ国内マルチリージョンが魅力
ST-WORKSは仙台を中心に活動している企業で、受託のソフト開発から、ITコンサルティング、スマートフォン向けアプリケーション開発、インフラ構築などを手掛けている。ほかに水沼氏が創業した関連会社に株式会社RAPiCがあり、こちらではソフトウェアやWEBアプリケーションなどの新規サービス開発などを行なっている。
自らを「インフラエンジニア」だという水沼氏がK5に触れたのは、2017年5月に開催されたコミュニティイベント「K5 Tech Talk」第1回に参加したのがきっかけだった。OpenStackがベースになっていることもK5を使いはじめる一つの動機だったという。「OpenStackは構築が難しいとよく言われますが、K5ならすでに構築済みの環境が簡単に利用できます」(水沼氏)。
まず同社がパートナー企業と共同開発したホームページ改ざん検知システム「DEFACE FINDER」を、試験的にK5のIaaS上で稼動させてみた。DEFACE FINDERは、サーバから監視対象サイトに定期的にリクエストを発行して改ざんを検知する仕組みで、ネットワークのインバウンドもアウトバウンドも負荷が高いという。
いくつかのクラウドサービスをベンチマークしたなかで、水沼氏がK5のメリットとして挙げたのが、安定したネットワークをインバウンドもアウトバウンドもデータ転送量無償で利用できる点だ。それだけでなく、国内でマルチリージョンが使えるところも災害対策の観点から大きなメリットだと同氏は語る。
また、API実行フォームがデフォルトで使えるようになっていることも良かった点として挙げられた。「操作に慣れるとAPIを叩くだけでサーバを使える。ここはもっと宣伝してもいいのではないかと思う」と水沼氏は語った。
一方で苦労したことに、整理された情報がまだまだ少ない点だった。「ドキュメントは豊富に用意されていて助かります。ただし情報が多すぎるため、まったくの初心者にも分かりやすいシンプルなHOW-TOがあると助かります」(水沼氏)。
機能が豊富すぎて、どの機能を使えばよいのかベストプラクティスが分からなかったところは、富士通のセミナーで同社の技術者へ直接相談し、教えてもらったという。また、コンソールを操作しているとK5ではなくOpenStack側のAPIエラーが表示され、何がエラーになったかわからないという場面に遭遇したこともしばしばあった。
そうした部分を埋めるためにも、「ユーザー間でオープンに情報交換する場所がほしい」と水沼氏は語った。大手クラウドサービスでは、ユーザーコミュニティが活発に活動しているところも多い。「ちょっとしたエラーが出たときなど、気軽に相談できる場があると助かる。そういった意味でもK5 Tech Talkがもっと盛り上がっていくといいですね」(水沼氏)と今後の期待を述べた。
IaaS以外の機能も多数搭載、海外リージョンを活用して自社サービスの世界展開も狙える
限られた時間だったこともあり水沼氏が検証できたのはK5のほんの一部の機能に過ぎない。
今後のK5の可能性としてまず海外リージョン展開を水沼氏は挙げた。日本語サポートなど国内ベンダーの利点をもちつつ、海外リージョンにも展開していることで、日本からの海外向けサービスを展開しやすくなるのでないかと語った。米国はもちろんのこと、欧州にも4リージョンと他社クラウドに比べても積極的だ。
また、K5のPaaSプラットフォームについても可能性を語った。IaaSの機能が一般化しマネージドサービスが増えてくる中で、今後はすばやく開発できるPaaSが重要になってくる。その中で、K5ではCloud Foundryをベースとした「CF」と呼ばれるアプリケーションの実行基盤だけでなくビジネスやデータ活用をサポートする各種サービスや、AI基盤「FUJITSU Cloud Service K5 Zinraiプラットフォームサービス」なども用意しており、「新しいサービス提供基盤となる可能性を持っているのではないか」と水沼氏は語った。
「例えば、受託開発のスマートフォンアプリなどのプラットフォームにK5を使っていけるのではないかと考えています」と水沼氏。また「AIを使った分析など、プラスαの機能があるので活用の幅が広がります」とK5への今後の期待を語った。
◇ ◇ ◇
冒頭でも述べたように、K5はOpenStackやCloud Foundryというグローバル標準のクラウド基盤ソフトウェアをベースとしながらも、自社の業務システムのクラウド移行などで培った富士通のノウハウがふんだんに取り込まれている。また、実際に2019年度末までに国内海外の富士通の全社内システムを移行し、機能を強化しながらお客様に提供していくという。それは非常に分かりやすい信頼の証だ。
エンジニア視点で考えても、自社の技術をコミュニティに還元することでOSS自体の開発に貢献していく富士通の姿勢には、共感できるだろう。また、OSSの開発を主導するメンバーに富士通が含まれているため、いざというときにもコードベースで修正が効くのは大きい。
定量的かつ具体的なメリットとしてあげられた、ネットワークトラフィックのデータ転送量が無償である点は、サービス設計がし易く予算を組む上でも適している。他社クラウドのように青天井になる心配もない。国産クラウドの雄として、K5は安心・安全を体現した有数のクラウドサービスではないだろうか。
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