KubeConChinaのキーノートにMS、IBM、Rancher Labsが登壇
KubeCon+CloudNativeCon Chinaの初日、午後のキーノートは全部で約45分、その時間をMicrosoftのBrendan Burns氏、Rancher Labsが紹介する中国の風力発電会社の事例プレゼンテーション、そしてIBMのオープンソースソフトウェアのトップであるTodd Moore氏の3者が分け合う形となった。
Kubernetesとサーバーレス
最初に登壇したMicrosoftのBrendan Burns氏は、11月13日のMicrosoft Serverless Dayで語られた「Kubernetesのサーバーレス化」に関する短いプレゼンテーションを行った。
前日のMicrosoft Serverless Dayでも語っていたように、Burns氏はKubernetesの未来がサーバーレスにあると信じているようで、ここでも「インフラストラクチャーとアプリケーションが分離されているようで実は分離されていない」という現状に対して、Kubernetesとしての回答という形でサーバーレスの紹介を行った。
アプリケーションとインフラストラクチャー、つまりハードウェアが分離していないという部分に関しては、Kubernetesは依然としてNodeを意識しなくてはならないから、というのがBurns氏の意見だ。そしてもうひとつのポイントは、「サーバーレスは誰にとってのプラットフォームか?」という視点だ。
インフラストラクチャーエンジニアにとってサーバーレスは、ハードウェアが抽象化される、つまりハードウェアを意識しなくても運用ができるという意味になる。一方Microsoftにとっては、最終的にAzureというパブリッククラウドにインフラストラクチャーを着地させたいということを考えると、多分にポジショントークに思える。
しかしアプリケーションデベロッパーにすれば、ノードや仮想マシンを意識せずに実行したいファンクションだけを書けるというプログラミングモデルの話であれば、サーバーレスはパブリッククラウドの境界を超え、オンプレミスのインフラストラクチャーも視野に入れた大きな方向性の話になる。
ここではNodeを必要とするPodを管理するKubernetesクラスターとは別に、Kubeletを介してNodeを必要としないPodを実行する方法を紹介した。これはすでに、Azure上でAzure Container Instancesとして実装されている。
またBurns氏はAKS(Azure Kubernetes Services)についても紹介し、中国のリージョンにおいてもPrivate Betaとして公開が始まったことを紹介。これはMicrosoftのAzureの宣伝としては最適なタイミングだろう。
参考:Microsoftのリリース:Azure Kubernetes Service now in private preview in Azure China
Burns氏のVirtual Kubeletの実装案には、拡張としてIoTのデバイス上でのPodの実行が可能になるというものがあるようだ。
そしてVirtual Kubeletに関しては、Azure以外にもAlibaba Cloud Elastic Container Instances、Amazon Fargate、Hyper.shなどで利用が進んでいるとして、Microsoftだけが先行しているわけではないことをさり気なく主張した。
ただし、まだ解決しなければいけない問題が多くあることも認識しているという。特に「スケジューラーの役割は?」「サーバーレスで何が変わる?」といった問題や、マイクロサービスとして粒度が細かくなった際のネットワーク構成をどうやって実装、運用管理するのか?」という問題について、引き続き議論を重ねていることを紹介して、ステージを降りた。
中国市場で存在感を示すRancher Labs
次に登壇したのは、Rancher LabsのCEOであるSheng Liang氏と、Goldwind Smart EnergyのVPとチーフアーキテクトだ。Liang氏は短い英語による挨拶の後、中国語でプレゼンテーションを開始。ここからは中国語がメインのプレゼンテーションとなった。事例として挙げられていたのは、中国の風力発電会社GoldwindにおけるKubernetes、およびRancher Labsのユースケースである。発想は風力発電のユニット側にKubernetesが稼働するクラスターを持たせて、それをエッジとして運用するというものだ。これは、AT&TやVerizonが支局や顧客側に設置したクラスターで仮想マシンをOpenStack上で運用している方法のコンテナ版と言ったものだろうか。Rancher Labsは中国では成功しているようで、前日に開催されたHuaweiとの共同イベントでも多くの参加者を集めて盛り上がっていたようだ。
デモとして、中国語のUIを持つポータルサイトを見せることで実際に稼働していることをアピールしたようだ。余談だが、中国国内においては専門用語であっても中国語に翻訳するということがIT業界においても当たり前のようだ。実際、ユーザーインターフェースだけでなく、展示用パネルからリーフレットまで、日本であればそのまま英字表記もしくはカタカナで表記されるものが、全て中国語に置き換えられているのが興味深いところだ。
IBMとオープンソースソフトウェアの関わり
初日のキーノートの最後に登壇したのは、IBMのTodd Moore氏だ。
IBMによるRed Hat買収発表の直後ということもあって、どんなメッセージが発せられるのかと思ったが、ひたすらIBMがLinuxやApache、CloudFoundry、そしてOpenStackなどに対して貢献を行ってきた企業であるというアピールであった。買収発表を行っただけで、まだ実質的に完了していない事案に対して当事者がコメントできることは少ないだろう。「Red Hat」という名称が一度も出てこないのも頷けるが、それでも「これからはRed Hatと一緒にオープンソースソフトウェアを盛り上げていきます」くらいは言っても良かったのではないかと思わせるプレゼンテーションだった。
また世界中で発生する自然災害に対する対策を、ソフトウェアで対応しようとするコンペティションであるCal for Codeに関する解説を行い、IBMが強力にバックアップするプログラムへの参加を呼びかけた。
そして最後にIBMが誇るWatsonについても言及。ここではBluemix上で稼働するWatson Developer Cloudが、仮想マシンベースから徐々にコンテナとKubernetesに移行していくという意向表明というレベルのもので、すでにMicrosoftがサーバーレスに向かって走り始めていることから比べると、少し動きが遅いと思われても仕方がない内容となった。
午前中のキーノートが中国をプッシュするものだったとことは、先日レポートしたとおりだ。
参考:KubeCon China初日のキーノートは中国を持ち上げるセッションが連発
それに対して午後の部は、Virtual Kubeletによるサーバーレスを推進するMicrosoft、中国市場で躍進するRancher Labs、そして控え目にオープンソースソフトウェアとの関わりを訴求するIBMと、三者三様と言ったキーノートとなった。
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