スマートフォン選択のための市場考察

2011年1月12日(水)
永井 一美

日本でのモバイルの進化とスマートフォン

今回から3回にわたって、"業務"に利用することを前提に、"スマートフォン"と"UI"について考察していく。第1回の今回は、モバイルの進化とスマートフォン登場の背景を示しつつ、"業務利用"のためにスマートフォンを選択する際の前提知識である、スマートフォン市場の競争について解説する。

1970年代に商用携帯電話サービスとして登場したのは、自動車搭載モデルである。重さは7kgあった。1980年代後半には、"肩にかける(ショルダーホン)"形ではあるものの持ち運べるものが現れる。そして1999年、重要な転機と言える新サービスが始まった。携帯電話を使ったインターネット・サービスの、iモード(NTTドコモ)とEZweb(au)である。

また、当初は固定電話同様に必要になっていた保証金+レンタル制度は、1990年に入って買い取りとなった。さらに、端末メーカーへの奨励金などのモデルによって、ユーザーの初期導入費が低下した。こうした低価格化、多様なサービス、軽量化、通信の高速化によって、それまで家庭に1台であった電話機は個人に1台のものとなっていった。

今回のテーマであるスマートフォンは、さかのぼれば1990年代前半のPDA(Personal Digital Assistant)に端を発する。PDAの一般的な定義は「情報端末」である。代表的なものとして、Zaurus(ザウルス)(シャープ)、カシオペア(カシオ計算機)、シグマリオン(NTTドコモ)などがある。筆者はザウルスPI-7000を利用していた。

ザウルスPI-7000は、電子手帳の延長として進化したものだったが、カスタマイズが可能であった。利用形態は、PIM(Personal Information Management、個人情報管理)であり、スケジュール、メモ、辞書としての利用が主体だった。ザウルスのOSがLinuxに変更された後の機種を「リナザウ」と呼んでいたのが懐かしい。

筆者が所属するアクシスソフトのモバイル版リッチ・クライアント製品「Biz/Browser Mobile」も、2004年の発売時は「Biz/Browser for PDA」と命名していた。PDAは携帯電話の高機能化の影響も受けて衰退していったが、こうした中で現れたのが、2005年のW-ZERO3(ウィルコム)である。

W-ZERO3は、発売初日は長蛇の列ができるほどの爆発的な人気を得た端末であり、日本で最初のスマートフォンといってよい。当時は「今後はスマートフォンが大きく伸びるだろう」と誰もが予感したものだ。筆者も、スマートフォンの夜明けやモバイル市場の成長とともに、ビジネス・パーソンのワーク・スタイルが大きく変わるだろうとの期待感を持ったものだった。

図1: 左から、ショルダーホン(NTT: 100型)、ザウルス(シャープ: PI-7000)、iPhone(米Apple: 3GS)

図1: 左から、ショルダーホン(NTT: 100型)、ザウルス(シャープ: PI-7000)、iPhone(米Apple: 3GS)

スマートフォンを定着させたiPhone

「スマートフォン」が何かという明確な定義はないが、一般的な定義としては、

  • 音声通話
  • インターネット端末
  • 情報端末(PDA)
  • カスタマイズ/機能拡張可能

といった機能を備えたモバイル端末を指している。

また、iPod(米Apple)やウォークマン(ソニー)などの人気に影響を受けて、(高機能携帯電話にも搭載されている)音楽プレーヤ機能を備えているものも多い。

日本では2008年、満を持してiPhoneが登場する。スマートフォンという用語を一気にコンシューマ(一般消費者)に定着させたのは、間違いなくiPhoneである。

米AppleのCEOであるスティーブ・ジョブズは、その発表時に「The most advanced phones are called 'smartphones' so they say.」(最先端の電話は"スマートフォン"と呼ばれている、一応ね)と発言。それまでの高機能なモバイル端末、スマートフォンと呼ばれている端末について「The problem is they are not so smart and they are not so easy to use.」(問題は、あまりスマートではないこと、そして、使いやすくないことだ)と皮肉り、次にこうつなげた。

「So, we’re going to reinvent the phone. We’re going to start with a revolutionary user interface.」(だから、電話を再発明することにした。まず、ユーザー・インタフェースを大きく変えることにした)と語り、すでに販売されているBlackBerryやPalmなどを取り上げ、キーボードの問題やインタフェースの問題を挙げて「~ a pointing device that we’re all born with. We’re born with ten of them. We’ll use our fingers.」(僕らが生まれながらに持っているポインティング・デバイスだ。みんなが10本ずつ持って生まれてくるヤツだよ。指を使うんだ)と「マルチタッチ」という新技術を発表した。

今や、マルチタッチ、ピンチイン/ピンチアウトは、昔から存在していたかのようなインタフェースとなっている。ここで重要なのは、上述した一般的な定義には出てこない"UI"という視点を大切に考えていることだ。Macも同様だが、AppleのAppleたる理由は、まずはUIにある。ユーザーが心地よく機能を使えるのは良きUIあってこそであり、魅力あるUIやデザインによってユーザーはその端末に愛着を抱くことになる。

Apple端末は"おもちゃ"としての魅力を持っている。ただし、"業務"利用の場合は、この魅力が第一とはいえない。こういった"業務"での観点を、今回の連載ではしっかりと語りたい。

次ページからは、スマートフォン市場の競争状況について解説する。

アクシスソフト株式会社 代表取締役社長
SI会社においてOS開発、アプリケーション開発、品質保証、SI事業の管理者を経て、ソフトウェア製品の可能性追求のため、当時のアクシスソフトウェアに入社、以降、一貫して製品事業に携わる。2006年より現職。イノベータであり続けたいことが信条、国産に拘りを持ち、MIJS(Made In Japan Software consortium)にも参加、理事として国産ソフト発展に尽力している。

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