DevRelの施策(イベント)
はじめに
ここ何年か、企業主催によるテックカンファレンスがとても増えています。こうしたテックカンファレンスを通じて開発者に自社の技術力をアピールしたり、どういった技術が使われているのかを紹介しています。これも1つのDevRelと言えるでしょう。
今回は日々の小さな勉強会や大規模なカンファレンスまで、DevRelでどのようなイベントが行われているのかを紹介します。
ミートアップ
日本では日々多くの開発者イベントが開催されています。connpassなどを見ると、平日は50以上のイベントが開催されているようです。この多くは開発者同士が集まって行われるミートアップと呼ばれるイベントになります。人数は数人から数百人と幅広く、開催形式もオンラインや実際の場所を利用するなどの違いがあります。
コロナ禍では開催場所がオンラインになり、地方と都市の境目が消失しました。日本全国、どこからでもミートアップに参加できることが大きなメリットにとなり、参加者が増える傾向にありました。しかし、2年以上も経つと徐々に参加者の慣れ(飽き)が顕著になり、徐々に参加者が増えなくなっています。
2023年3月現在、徐々にコロナ禍が落ち着きつつある中で、イベントをオフラインで開催するケースが増えてきています。また、オンライン配信も継続するハイブリッド型も登場しています。イベントのやり方はコロナ禍前後で大きく様変わりしています。
もくもく会
もくもく会は日本独自のミートアップ形態です。1カ所に集まり、黙々と作業します。テーマ(プログラミング言語やフレームワークなど)が決まっているため、何か分からないことがあればその場にいる人たちに直接聞けます。ただ、それ以外はみんな静かに自分の作業に集中します。人の目があることでサボらずに集中できるといったメリットがあります。
終わりの時間に差し迫ると、作業の成果を発表する時間があります。どこまで進んだのか、何にトライしていたのかなどを共有することで、参加者からフィードバックが得られます。
ちなみに、もくもく会という名称はphaさんの発案です。今は「もくもく会ポータル」というサイトもあるので、気になる方はチェックしてみてください。
情報収集とコミュニケーション
ミートアップの優れていた点は、情報収集とコミュニケーションを1カ所で行えることでした。多くのミートアップでは前半にセッションが、後半はコミュニケーションとして懇親会を開催するのが一般的でした。開発者としては前半で仕事に役立つ情報収集をし、後半は界隈の人たちとのコミュニケーションを楽しめました。
オンラインイベントは、情報収集においてとても優秀です。プレゼン資料もはっきりと見えますし、自宅などのリラックスした環境で、特等席で閲覧できます。さらにアーカイブ配信も当たり前になっているので、途中で止めたり自分の気になる部分を繰り返し聞いたりすることも可能です。
それに対して、コミュニケーションは希薄にならざるを得ないのが実情です。オンラインでのコミュニケーションを積み重ねても、実際に会って話すのに比べると圧倒的に質が落ちてしまいます。逆に一度でも実際に顔を合わせていると、オンラインでのコミュニケーションもスムーズです。
オフラインで開催するミートアップは情報収集とコミュニケーションの両方を得られるのがメリットでしたが、今後は分離して考える方が良いのかも知れません。オンラインミートアップにしたことで全国に広がった裾野に対して、どうコミュニケーションを設計するかを分けて考える方が、新しいミートアップの形をシンプルに設計できるのではないでしょうか。
ハンズオン・ワークショップ
ハンズオンは、参加者が実際に手を動かして何か作品を作り上げます。ワークショップは作品ではありませんが、参加者が主体となって体験することが目的です。ミートアップでは座学が多く、得られるのは個人的な体験と見聞きした情報になります。それに対してハンズオンやワークショップはよりお土産感の高いイベントです。
個人的な見識でしかないのですが、ハンズオンはオンラインの方がお勧めです。かつては企業の会議室などに講師ともども集まって行われていました。しかし参加者はノートPCを持ち込まないといけなかったり、それに合わせてネットワークや電源の整備も必要でした。資料も紙に印刷したり、手間がかかります。
オンラインの場合、資料がデジタルなのでコピー&ペーストできたり、資料のURLもクリックするだけで確認できます。さらにアーカイブがあれば、セルフラーニングとしていつでもどこでもハンズオン内容を体験できます。
逆にワークショップの場合はオフラインがお勧めです。オンラインの場合、コミュニケーションの質に難があったり、ネットワーク接続の不具合で一気に悪い体験になる可能性があります。グループメンバーの1人が突然オフラインになり、議論が進まなくなることも少なくありません。
また、オンラインではじめて会う人たちと上手にコミュニケーションするのは難しいものです。オフラインの方が人となりが分かりやすく、相互理解も進みやすいでしょう。
セミナー・ウェビナー
セミナーやウェビナーは、ミートアップと比べるとよりビジネス色の強いものになります。こうしたイベントにもエバンジェリスト、アドボケイトと呼ばれる人たちが登壇します。
コロナ禍になって、ウェビナーが一気に増えました。これまでのセミナーでは会議室を押さえたり、受付を置いたりと、それなりに開催コストが大きかったのですが、ウェビナーになって一気に解消しました。しかし、参加率や参加者の反応は今ひとつだったと記憶しています。
個人的な感想としては、相手に強いコミットメントを求めるのであればオフラインで開催する形に戻した方が良いでしょう。逆に「広めたい」くらいであれば、録画動画を流すウェビナーでも良いかもしれません。実際、参加者にとってウェビナーでは登壇者がリアルタイムに話しているかどうかは分からないのです。さらにウェビナーの様子を動画配信サイトにアップロードすれば、視聴回数を増やせる可能性があります。
こうしたウェビナーはZoomウェビナーやWebexウェビナーなど、専用ツールを利用するのが一般的です。参加者同士が見えなかったり、勝手にマイクで乱入されることがない仕組みになっているのが望ましいです。
ハッカソン
ハッカソンは数時間〜数日かけてテーマに合わせた作品を作り上げるイベントです。1人ですべて行うこともできますし、数人でチームを組んで取り組むこともあります。テーマは当日発表されることもあれば、事前に共有されているケースもあります。
ハッカソンで製品を作り上げるのは難しいです。その前段階であるPoCであったり、プロトタイプレベルであることが多いでしょう。そして、多くの場合、1つの面白いアイデアをベースに作品を作ります。イベントの終了時には各作品を発表しあい、良い作品に対して賞が与えられます。
ハッカソン開始時にチームを作る場合、それだけで1時間以上かかります。それから開発を行って、さらに発表時の資料などを作ることを考えると、1日のハッカソンであれば5時間くらいしか開発できないでしょう。そのため、複雑なものを作るよりも、分かりやすい面白さを感じられる作品を手早く作ることが求められます。
こうしたハッカソンに対して、DevRelとしてはテクノロジーの提供(スポンサード)やメンターとしての参加が考えられます。APIなどを提供して参加者に使ってもらったり、何か困った際のサポートとしてハッカソンに参加します。
ハッカソンでは実際にAPIなどを使ってもらっているので、目の前にユーザーがいる状態です。使っている中で感じる疑問はまさにユーザーフィードバックであり、プロダクト開発に反映すべき意見になるでしょう。SDKの使いづらさや足りていない機能などは、開発チームにフィードバックしてプロダクトロードマップに反映すべきです。
アイデアソン
ハッカソンではプロトタイプの開発を行いますが、アイデアだけに留めるアイデアソンというものもあります。この場合、テクノロジーを提供しても使ってもらうことはできませんが、アイデアの種にしてもらえる可能性はあります。
開発コンテスト
より長期間なハッカソンはコンテストです。短期間集中型ではないので、よりじっくりと作品開発に取り組めます。日本で最も有名な開発コンテストと言えば「ヒーローズ・リーグ」でしょう。元々はMashup Awardという名前でしたが、その頃を含めると10年以上も継続して開催されている歴史ある開発コンテストです。
開発コンテストは1〜数ヶ月に渡って行われます。その間、何もせずに放置していると忘れ去られてしまうでしょう。開発者に常に頭の片隅に入れておいてもらえるように、継続的な情報発信やコミュニケーションが求められます。
カンファレンス
開発者向けのイベントで最も大きいのはカンファレンスでしょう。ユーザーが主体的に行うものもあれば、企業が行うものもあります。企業の場合にはその社員がスピーカーとして話しますが、ユーザー主体の場合にはコミュニティメンバーから募ったり、外部からの登壇希望(CFP)を募ったりします。
企業開催のものとして、グローバルで見ればAppleの「WWDC」やGoogleの「Google I/O」などがあります。日本では楽天の「Rakuten Technology Conference」やMIXIの「MIXI TECH CONFERENCE」、LINEの「LINE DEVELOPER DAY」などがあります。日本では自社サービスが直接開発者向けに作られていないことが多いので、テクノロジーアピールから求人につなげたいと考える企業が多いようです。
ユーザー主体のものは「RubyKaigi」「CloudNative Days」「PyCon」「YAPC」など実に多種多様です。ベンダー系コミュニティとして日本最大級のJAWS -UGでは、毎年「JAWS DAYS」というカンファレンスを行っています。ユーザー主体のカンファレンスは強固なユーザーコミュニティがあってこそのものなので、カンファレンスが開催できることはコミュニティの理想型と言えるかも知れません。
なお、DevRel関連としては企業主体のもので「DevRelCon」があります。日本ではMOONGIFTがフランチャイズして「DevRelCon Tokyoシリーズ」(2023年は横浜開催ですが)を行っています。コミュニティ主体のものは「DevRel/Japan CONFERENCE」として、DevRel Meetup in Tokyoが2019年から開催しています。
DevRelとしてはこうしたカンファレンスの運営母体になったり、スピーカーとして登壇したりします。また、スポンサードした場合にはブースで開発者とコミュニケーションしたり、スポンサースピーカーとして自社製品をアピールすることもあります。
おわりに
ひと言で「イベント」と言っても、様々な種類があります。そして、これらのイベントに対してDevRelとして運営、またはスピーカーなどで関わっていきます。
コロナ禍になって、オンラインの価値が急上昇しました。そして徐々にコロナ禍が落ち着きつつある中で、オフラインへの戻りと、オンラインとどう組み合わせるのかが新たな課題になっています。
日々様々なイベントが開催されているので、ぜひ探して気になるイベントに参加してください。