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LFがオープンスタンダードへの移行に関する実証研究のレポート「2023年オープンスタンダードの現状」日本語版を発表

2023年10月31日(火)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、LF Research調査レポート「2023年オープンスタンダードの現状」日本語版が公開されたので紹介します。このレポートはオープンスタンダードを策定し、技術ロードマップの一部として採用することの戦略的価値を組織がどのように解釈しているかの洞察を提供すること、また、これらの組織が技術スタンダードの作業や共同作業においてどのような課題や機会に遭遇しているか調査したものです。

【参照】LF Research調査レポート「2023年オープンスタンダードの現状」日本語版を公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2023/09/japanese-version-of-the-state-of-open-standards-2023/

近年、増加傾向にあるオープンスタンダードに関して、種類や規模、地域などに関する調査では、アジア太平洋よりアメリカ、大規模より小規模などわずかな差はありますが、総じてそれぞれの領域でオープンスタンダードを好むことが明らかになりました。

【出典】2023年 オープンスタンダードの現状.pdf p.11

次に、オープンスタンダードであるために必要な特性については、少し地域的な差があります。ヨーロッパ(59%)は、北米(44%)およびアジア太平洋(40%)の回答者よりも、オープンスタンダードが「その利用を制限する法的/技術的条項から自由」であるべきだと考えることをより重視しています。これは、競争法に対する欧州の哲学的アプローチと一致しています。また、中国や日本のようなアジア太平洋は、政府公認の市場独占をより特徴としているので、アジア太平洋は「政府が承認する安全性」をより重視(36%)しているという結果になっています。

【出典】2023年 オープンスタンダードの現状.pdf p.13

オープンスタンダードは産業価値、市場全体のイノベーション、競争の強力な推進力となっています。オープンスタンダードは新技術の採用を加速させ、様々な分野でのイノベーションを促進し、企業が市場のニーズにタイムリーに対応することを可能にしてきました。より多くの組織がオープンスタンダードを採用することで、業界はイノベーションの拡大、より良い製品とサービス、そして競争力の強化というメリットを享受し続けることになります。

【出典】2023年 オープンスタンダードの現状.pdf p.17

上図で見られるように、73%の組織で「オープンスタンダードの方が市場内での技術採用が促進される」と考えられていますが、さらにオープンスタンダードは長期的には組織の競争力とイノベーションを強く促進すると認識されていることがわかりました。

また、下図で見られるように76%の組織がオープンスタンダードにより短期的にも競争力を高めることはできますが、長期的には79%にまで上昇すると報告しています。同様に、オープンスタンダードがイノベーションに与える影響も明らかになっており、79%の組織が短期的にもイノベーションを促進しますが、長期的には81%に増加すると回答しています。

オープンスタンダードのロイヤリティーフリーという特性により、複数のベンダが技術を実装し、互換性や相互運用性のあるソリューションを構築して新機能を実装することで品質を向上し、消費者やエンドユーザにその他の価値を提供できます。消費者は、このような相互運用可能なソリューションの選択肢を持つことで利益を得ることができますし、同時に市場は新規参入者の参入障壁を減らし、価格を公正に保つといった前向きな利益を得ることができます。どの技術が最も実用的かは市場が決定し、競争はベンダにより迅速な技術革新をもたらすことになります。

【出典】2023年 オープンスタンダードの現状.pdf p.19

では、企業などの組織は、このようなスタンダードからどのような価値を得ているのでしょうか。下図に示すように「ロイヤルティが重要だ」と回答したのはわずか17%で、スタンダードの実装、使用、統合に関するサービスの販売(55%)、スタンダードを取り巻く市場に製品やソリューションの販売(50%)、ススタンダードを中心とした製品やソリューションの販売(48%)の方が多くなっています。

しかし、このロイヤルティ徴収は地域によって異なります。追加の質問によると、アジア太平洋地域(21%)と北米(19%)の組織は、ロイヤリティの徴収に重点を置く傾向が強く、一方で欧州の組織(7%)はそれほどでもありません。この地域間格差はグローバルな技術環境に存在する市場アプローチと優先事項の違いを示すものであり、「オープンスタンダードの異なる属性の重要性は地域によって変わる」という見解を裏付けることになっています。

【出典】2023年 オープンスタンダードの現状.pdf p.21

オープンスタンダードの策定に貢献することは、ビジネスや顧客のニーズに対応するために多くのメリットをもたらします。下図を見ると、回答者の84%が組織の全体的な品質を向上させるためオープンスタンダードに貢献することに賛成しており、79%がセキュリティに関しても同様に感じていることがわかります。これは、開発手法として「目がたくさんあれば、どんなバグもたいしたことはない」という「リーナスの法則」が広く受け入れられていることを反映しているのでないかと考えられます。

オープンスタンダードは誰もがレビューして実装でき、その結果改善点を見つけ、フィードバックを提供できるため、重要な問題はより迅速に特定・解決されます。スタンダードを有料で提供している開発組織は、そのスタンダードをレビューする人が少ない分、この「法則」から得られる利益は少ないかもしれません。

他の利点としては、積極的な貢献と参加による組織の評判の向上(79%)、組織文化の望ましさの向上(75%)、オープンスタンダードの使用から恩恵を受けることに伴う暗黙の道徳的義務の履行(74%)などがあります。このような「ソフト」なベネフィットは組織をより働きやすい職場にし、より優秀な人材の獲得に貢献して間接的に顧客価値と全体的な満足度を高めることにつながります。

【出典】2023年 オープンスタンダードの現状.pdf p.28

最後に、オープンスタンダードの採用拡大に伴う戦術的・間接的なメリットに関する調査を紹介したいと思います。下図のようにオープンスタンダードを採用することで組織は業務を合理化し、コストを最小化して柔軟性を促進し、業界の優秀な人材を惹きつけることができるという回答になっています。

【出典】2023年 オープンスタンダードの現状.pdf p.29

ここまでご紹介してきたように、オープンスタンダードを採用することでさまざまなメリットが得られることをお分かりいただけたと思います。過去3年間で、オープンスタンダードから得られる価値は、活用しない場合の13倍も増加しています。今後は技術戦略の中にオープンスタンダードを組み込んでいくことがますます求められることになるかもしれません。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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