Zabbix Conference Japan 2023からZabbix日本代表によるセッションを紹介
オープンソースの監視モニタリングソリューションのZabbixが開催したZabbix Conference Japan 2023から、Zabbixの日本代表である寺島広大氏のセッションを紹介する。
Zabbix Japan設立10周年に合わせて過去の10年を振り返るという内容のセッションだが、筆者が最も注目したのは「オープンソースソフトウェアでビジネスが成り立つのか?」という命題に対してZabbixとしての回答を行っている部分だ。
このセッションは寺島氏自身がサポートエンジニアとしてZabbixに入社したという経緯も含めた内容となっている。Zabbixの創業者Alexei Vladishev氏がエンジニアとして趣味でZabbixの開発を始めたということと重ねて、エンジニアにとってのオープンソースソフトウェア開発というタスクについての考察から解説した。
このスライドではオープンソースソフトウェアのエンジニアとして仕事をするうえで、コーディングなどのソフトウェア開発ではない部分におけるコミュニケーションについてもすべてが公開されてしまうこと、そして自身が「発言や提案をしないと誰も気にかけてくれない」ことを強調。その上でコミュニケーションの難しさ、特に英語による対話、文化の違いなどを挙げて説明した。この部分には寺島氏がラトビアに移住してサポートエンジニアとして働いた経験が滲み出ていると言える。
そして「無償で誰でもが利用できるオープンソースソフトウェアをビジネスにすることが可能なのか?」という命題について説明を行った。Zabbixとしての回答はソースコードから生成された実行モジュールを利用する権利を売ることでは収益を挙げられないが、サポートやトレーニング、インストレーションなどの付帯的な技術的サービスに対して課金することで収益化は可能だと語った。またZabbix Japanが始めたアプライアンス製品やSaaSによるサービス提供によってビジネスにすることが可能であると説明した。
このスライドではZabbixの生い立ちから「趣味で始めたソフトウェア開発を100%の仕事にしたい」「そのためには収益化が必要」「大規模な開発やサポートのためには人を増やす必要があった」などと語り、個人の趣味のプロジェクトが収益化に向けて移行していくようすを理解することができる。
ここでプロプライエタリーなソフトウェアの場合の収益化と一般的なオープンソースプロジェクトにおける違いを説明。特にオープンソースソフトウェアの場合に重要となる開発エンジニアとコミュニティの関わりを説明した。オープンソースソフトウェアの場合、コミュニティのエンジニアが開発を行い、ユーザーや他のエンジニア、企業ユーザーなどからのフィードバックを元に開発を継続し、口コミなどによって利用を拡げるという仕組みだ。しかしこの仕組みでは早い時期に「だれが専任のエンジニアに金を払うのか?」という問題に直面してしまう。それに対するZabbixの回答が次のスライドだ。
このスライドで特徴的なのは、Zabbixの社員であるエンジニアが開発を100%行うという部分だろう。ここでは明確には書かれていないが、Zabbixのソースコード開発は100%、Zabbix社員の仕事である。機能開発についてユーザーやパートナーはリクエストを上げることはできるが、それを他のエンジニアがコーディングすることはできない。さらに特徴的なのは、ユーザーが特定の構成や特別なデバイスなどの監視のための機能拡張が欲しいがコミュニティからの支持を得られず優先度が下がってしまい開発されないような場合、Zabbixに見積もりを依頼してそのコストを負担することで機能を実装することができることだろう。しかもそのソースコードはすべて公開される。この原則はユーザーインターフェースのJavaScriptによるカスタマイズについては、若干緩和されているようだ。
Zabbixの収益化はトレーニングとサポートをパートナー経由で販売することで実現されている。パートナー企業にとっては「プロプライエタリーソフトウェアのライセンス販売の部分」だけがなくなってはいるが、技術サポートをユーザー企業に販売し、システム導入のコンサルティングなどでも収益化が可能であることは、日本のシステムインテグレーターにとっても相性の良いビジネススキームと言える。
エンジニアにとっては無償のソースコードとして広く利用してもらうことでフィードバックを大量に集めて以降の開発に役立てたいという姿勢であり、ビジネスの側面ではパートナー企業の収益化が必須でありつつもビジネス色が強いマーケティング施策には走らないという姿勢を貫いていることが解説された。
このスライドでは無償のオープンソースソフトウェアでありつつ導入事例を露出させ評価を高めるという一方で「無償だからサポートがない」という常識を打破して、公式のサポート窓口があることの認知を広めたいという意図を解説している。言外では公式サポートに対して支払いを行うことで、Zabbixのエンジニアの生活が成り立っているということを言いたいのであろう。
ここではユーザーの認知と利用を拡大し収益はサポートとトレーニングで上げたいという意図は明確ながらも「得すぎない」「営業しすぎない」という微妙なバランスをとっていることが表明されている。
無償で誰でもが利用でき、改変も可能なオープンソースソフトウェアの場合、一部の個人にその労力が集中してしまうことは良く理解されているが、それに対するZabbixの回答は「企業として開発に責任を持つ」ということに尽きる。そして「オープンソースソフトウェアは配布形態のひとつである」というのもZabbixらしいと言える。
オープンソースソフトウェアを開発しそれがパブリッククラウドベンダーなどによってフリーライドされてしまう問題への解決策として、ライセンスを変えてパブリッククラウドベンダーが利用できないようにする方法論が存在するが、パブリッククラウドベンダーが主体となってコードをフォークして新しいオープンソースソフトウェアとしてコミュニティによる開発を続けるというイタチごっこのような状況に陥っているのが近年のオープンソースソフトウェアの収益化の状況だ。その状況に対して、コードは公開するものの開発を限定することで意志決定を素早く行い、サポートビジネスによる収益化に特化するというZabbixの発想は評価されるべきだろう。
このスライドからはオープンソースソフトウェアの収益化を離れてZabbixの新機能、Zabbix Proxyについいて解説を行っている。
また「営業しすぎない」という姿勢ではありつつも海外事例の紹介やその解説などを露出することで、「Zabbixでここまでできる」という認知を拡げる意味も持った内容となっている。
最後にシステムインテグレーターだけではなくISV/IHV(独立系のソフトウェア/ハードウェアベンダー)との連携も実施していることを告知してセッションを終えた。
「オープンソースソフトウェアが収益化できるのか?」という重い命題については、他社の動向には触れずに「我が道を行く」感覚で解説した寺島氏であった。このカンファレンスに参加しているエンジニアにとっては既知の内容だったとは言え、改めて解説することでパートナーやユーザーがZabbixを信頼できるパートナーであることを理解して欲しいと言う願いがこもっているようなセッションとなった。
寺島氏のセッションのスライドは以下から参照できる。
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