連載 [第11回] :
  Gen AI Times

【最新データで比較】生成AI活用、日本 vs 世界のギャップ

2024年8月1日(木)
前田 優希池田 大喜
本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。

はじめに

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動している6名で運営しています。注目されている生成AIに関するニュースを収集し、個性豊かなメンバーによる記事の深堀りから、半歩先の未来の想像を共有していきます。この記事を通して、ぜひ皆さまも各々の半歩先の未来を想像しながら、色々な価値観を楽しんでいただけると嬉しいです。

皆さん、想像してみてください。朝オフィスに着くと、AIが夜間に作成した報告書が待っている。会議では、AIが提案する戦略プランをもとに議論が白熱する。こんな光景が、もはや珍しくないー 少なくとも世界の一部では。日本ではどうでしょうか?

総務省が7月5日に発表した「令和6年版 情報通信白書」によると、日本における生成AIの利用率はわずか9.1%。一方、アメリカでは46.3%となっています。さらに日本では企業の46.8%が生成AIを社内業務に利用していますが、これは米国の84.7%やドイツの72.7%と比べるとかなり低い数字です。日本企業の多くは、会議の議事録作成やメール作成、資料作成といった内部的な業務から慎重にAIを導入し始めている段階です。一方、欧米企業ではすでに顧客対応など、より幅広い業務でAIが活用されています。

【出典】総務省(2024.7.5)「令和6年版 情報通信白書」p.67

【出典】総務省(2024.7.5)「令和6年版 情報通信白書」p.69

欧米との比較だけではなく、アジアパシフィック地域の生成AI調査においても、日本の利用率の低さが浮き彫りになりました。デロイトインサイトの調査結果によると、日本の生成AI利用率は39%で、アジアパシフィック平均を30ポイント下回り、調査対象9カ国中最低でした。対照的に、インドが87%でトップ、東南アジアが76%、台湾、シンガポール、中国が72%と続きました。

このように、生成AIの導入や活用において諸外国から遅れを取っている日本ではありますが、一方でポジティブな傾向も見られています。エクサウィザーズによると、生成AI技術をすでに社内で導入している企業の割合は、2023年12月には34.2%であったのが、2024年5月には54.9%と急拡大しているという調査結果もあります。さらに、野村総合研究所の調査によると、日本のビジネスパーソンの50.5%が「生成AI」という言葉を認知しており、特に製造業や金融・保険業での活用が進んでいます。

これらの変化は、世界中の企業が「AI革命」の波に乗り始めたことを示しています。しかし、ここで新たな疑問が生じます。AIの活用が進めば、私たちの仕事はどう変わるのか? 人間の役割は何になるのか? AIと共存する社会は、どのような姿になるのか?

続いて、AIがもたらす社会変革の実態に迫ります。果たして、AIは私たちの仕事を奪う脅威なのか、それとも人手不足を解消する救世主となるのか。その答えを、海外と日本の最新ニュースから紐解いていきます。

生成AIによる海外の社会変化

海外における生成AIの利用状況を見てみましょう。Forbes Advisorの調査によると、企業はAIを幅広い分野で活用していることが分かります。最も多いのがカスタマーサービスで、56%の企業が導入しています。次いで、サイバーセキュリティと詐欺管理(51%)、デジタルパーソナルアシスタント(47%)、顧客関係管理(46%)と続きます。

【出典】Forbes Advisor(2023.4.24)「How Businesses Are Using Artificial Intelligence In 2024」

この傾向は、大手企業の具体的な取り組みからも明らかです。

  • カスタマーサービス
    CommonSpirit Healthは、生成AIを活用して患者サービスを向上させています。救急部門に導入されたAI搭載アプリケーションは、患者に待ち時間の目安、診察と検査の進行状況、検査結果の意味をリアルタイムで知らせたり、年次健康診断や特定の検診が必要な患者を特定し、予防医療の促進にも貢献しています。
  • サイバーセキュリティと詐欺管理
    決済プラットフォーム企業Stripeは、OpenAIのパートナーとしてGPT-4を活用したサービスを展開しています。その一例として、Discordで運営するテクニカルサポートフォーラムがあります。このシステムは、複数のアカウントを使った詐欺行為を検知し、文法分析などを通じて不審な活動を特定し、Stripeの詐欺対応チームに警告を発信します。
  • デジタルパーソナルアシスタント
    世界最大の化粧品会社ロレアル グループは、生成AIを搭載したパーソナルビューティアシスタントや、AIを活用したコンテンツ制作ラボ「CREAITECH」を発表しました。CREAITECHは、同社の37ブランド全てにおいてグローバルなブランディングを維持しつつ、ローカライズされたコンテンツを大規模に制作しています。
  • 映像技術
    さらに興味深いのは、映画産業におけるAIの活用です。FlawlessAIが開発した「シネマティック・リップ・シンシング」技術は、映像に登場する俳優の唇の動きを多言語対応化し、ダビング映画の違和感を解消します。これにより、国際的な映画配給における言語の壁を低くし、さらには映画のレーティング調整にも活用されています。

さて、ここまで海外の事例を見てきましたが、日本の状況はどうでしょうか。確かに、生成AIの活用と導入について海外に遅れをとっている印象は否めません。しかし、そんな日本でもAIを活用した興味深い取り組みが始まっています。次節では、日本企業の挑戦的なAI活用事例を紹介します。

日本企業の生成AI活用事例:挑戦と可能

ここからは、日本企業における生成AIの活用事例をいくつか紹介します。これらの事例から、日本企業がどのようにしてAIを取り入れ、どのような効果を得ているのかを見ていきましょう。

パナソニック コネクトの取り組み

パナソニック コネクト株式会社は、OpenAIの大規模言語モデルをベースに開発した自社向けのAIアシスタントサービス「ConnectAI」の活用を2023年6月から始めています。

ConnectAIは自社固有の公開情報をもとに回答を生成してくれる自社特化型AIで、国内全社員約12,400人に向けて展開しています。ConnectAIを活用することで、品質管理規定や過去の事例をもとに製品設計時の品質についての質問が可能になりました。その結果「年間で18.6万時間の削減に成功した」と発表されています。

住友ゴム工業株式会社の取り組み

住友ゴム工業株式会社では「Gemini」という生成AIを活用して、アプリケーション開発の生産性向上に取り組んでいます。具体的にはコード生成や補完、提案、変換といった開発のほか、自動生成したプログラムの検証などの評価にも活用されています。

Geminiの活用により、下記の成果を得ています。

  • プログラミングの生産性の大幅な向上
  • 従来は習得が難しかった様々なプログラミング言語の習得のハードルを下げる
  • 開発環境の構築やアプリの配布、メンテナンスなどのスピードが格段に向上

住友ゴムは今後、研究本部全員がプログラミングできる体制を整備し、多くの新しいサービスを顧客に提供することを目指しています。

日清食品グループの取り組み

日清食品グループは、生成AIを活用して営業およびマーケティング部門での業務効率向上に取り組んでいます。マーケティング部門では、生成AIを以下の業務に活用しています(【参考】「日清食品グループのDXへの取組について「生成AI活用の取り組み」)。

  • 情報収集:ターゲットインサイト情報収集、新規市場の情報収集
  • アイデア出し:新商品のフレーバー提案、プロモーション案検討
  • プレスリリース:リリースのたたき台作成、リリース見出し案検討

生成AIの活用により、業務効率の向上、作業自動化、迅速な情報収集と分析、創造的なアイデア生成を実現しています。

【出典】カップヌードル(日清食品グループ)

生成AI活用で生じる課題:インドでの事例

一方で、AIの急速な普及は特定の産業に大きな影響を与えています。その代表例がインドのアウトソーシング産業です。インドは世界有数のアウトソーシング大国であり、この産業はGDPの6.5%、輸出の25%を占める重要な経済基盤です。しかし、AIの台頭により、その存続が脅かされています。

スウェーデンのフィンテック企業Klarnaは、AIチャットボットの導入により700人分のカスタマーサービス業務を代替し、4,000万ドルのコスト削減を実現しました。これは、アウトソーシング産業に衝撃を与え、タタ・コンサルタンシー・サービシズのCEOは「1年後にはほとんどのコールセンター業務がなくなるだろう」と予測しています。

しかし、このような課題に直面しながらも、インド政府と企業は積極的にAIを活用する姿勢を見せています。「Indic LLM」と呼ばれるインドの主要言語に対応した大規模言語モデルの開発が進められており、複数のプロジェクトが同時進行しています。このように、AIは確かに一部の職種を代替する可能性がありますが、同時に新たな機会も創出しているようです。

【今回の深掘り】
今回の記事を通じて、生成AIの世界的な普及と日本の現状が浮き彫りになりました。確かに、日本は他国と比べてAI導入に慎重な姿勢を見せていますが、この「慎重さ」を「着実な歩み」と捉え直すことも可能ではないでしょうか。

海外では、幅広い分野でAIが活用されており、業務効率化や顧客体験の向上に貢献しています。日本でも、各企業が自社の特性に合わせたAI活用を進めており、生産性向上や新たな価値創造を実現しています。

一方で、AIの急速な進化が特定の産業に与える影響も無視できません。インドのアウトソーシング産業の例は、私たちに重要な示唆を与えてくれます。しかし、こうした課題に直面しながらも、新たな機会を創出しようとする動きがあることも注目に値します。

これからの日本の競争力は、AIとどう向き合い、どう活用していくかにかかっています。AIと人間が協調しながら、より豊かな社会を築いていくーそんな未来を1人1人が意識しながら行動していくことが重要です。私たち1人1人がAIとの新しい関係性を模索し、その可能性を探求していく。そんな時代が、今まさに始まろうとしています。

おわりに

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。今後も、生成AIに関する最新情報とその深堀りを発信していきます。次回の投稿をお楽しみに!

※本ニュースは「IKIGAI lab.」が配信しているコンテンツです。
 IKIGAI lab.はこちらをご覧ください。

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社
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自動車部品サプライヤで生成AIの社内教育などの推進活動を実施。「IKIGAI Lab」の勉強会、「生成AI-EXPO in 犬山」でセミナー登壇。

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