DevRelの学び方
はじめに
「DevRel」という単語が世に出始めて、10年以上が経ちます。さまざまな企業がDevRelに取り組むようになり、認知も徐々に進んでいます。そうした中で「DevRelをどのように学ぶか」が課題に挙がっています。
これは日本に限らず、グローバルでも同じような動きになっています。今回はDevRelをどのように学ぶのかについて解説します。
海外ではじまっているラーニングコンテンツ
海外の事例ですが「DevRel University」というサイトがあります。ここでは6週間かけてDevRelについて体系的に学べます。
1週間に1つオンラインで講義が行われるようですが、その内容は以下の通りです。
- 第1週: DevRelの戦略的洞察
- 第2週: 開発者コミュニティ立ち上げ・ドキュメント・サンプル作成
- 第3週: 何百万人にも届く動画コンテンツを作る方法を学ぶ
- 第4週: 高速にアプリとチュートリアルを構築する方法
- 第5週: ソーシャルメディア活用とセルフブランディング
- 第6週: ドキュメンテーション戦略
そして、ここで得られるナレッジとして、以下を挙げています。
- テクニカルスキル
- コミュニケーションスキル
- コンテンツ制作スキル
- 市場と業界に関する知識
講師は各社のアドボケイトや、開発者向けサービスを提供する企業の創業者などが務めています。固定メンバーではなく、これまでに行われた5回のコースには、それぞれ異なる講師が登壇しています。
UdemyによるDevRelコース
オンライン学習サイト「Udemy」にもDevRelに関するコースがあります。
- Developer Relations Fundamentals – DevRel Masterclass
- Developer Relations: Managing a Tech Community
前者は「DevRelとは何か」といった全般的な説明から入りつつ、ロールやスコープ、ツールキットなどを紹介しています。後者はコミュニティ寄りで、コミュニティの作り方から成長させる方法、測定方法などを解説しています。
どちらも英語ですが、ぜひ参考にしてみてください。
書籍
DevRelに関する書籍としては、以下が挙げられます。
英語の書籍はもっと数多くあります。ここで挙げた書籍は細かな施策ではなく、DevRelの基本的な考え方や、なぜDevRelが必要なのかといった部分を解説しているものになります。
なお、DevRelのビジネス面に関する価値を定義する書籍は、現在筆者が執筆中です。DevRel/TokyoのコミュニティSlack内で共有しているので、興味があれば参加してください。
DevRel Roadmap: What is DevRel Engineering?
エンジニアの人たちであれば知っているであろう「Roadmap.sh」というサイトがあります。Roadmap.shでは技術要素ごとに、どういったスキルが必要かを提示しています。コンテンツは外部サイトのもので、スライドやブログ記事、ドキュメント、動画などがリンクされています。
例えば、フロントエンドエンジニア向けの場合、以下のようなスキルが並んでいます。
- インターネット
- HTML
- CSS
- JavaScript
- バージョン管理
- パッケージマネージャ
- フレームワーク
- ビルドツール
- 認証
- Webコンポーネント
- SSR
- GraphQL
- PWA
- SSG
- モバイルアプリ
- デスクトップアプリ
JavaScriptやReactなど、さらに詳細に学ぶ際には、専用のロードマップも用意されています。このように技術を体系的に、ステップを踏んで学ぶ道筋(ロードマップ)を示してくれるのがRoadmap.shの特徴です。
そして、このRoadmap.shの中にDevRelに関するロードマップが追加されました。主なカテゴリーとして、以下が挙げられています。
- DevRelとは何か?
- 基本的なプログラミングスキル
- パブリックスピーキング
- ライティングスキル
- コミュニティエンゲージメント
- IDE
- プレゼンテーションテクニック
- API&SDK
- バージョン管理
- コミュニティ構築
- コミュニティ管理
- イベント管理
- ブログ
- 動画制作
- ライブストリーミング
- ソーシャルメディア
- ドキュメンテーション
- サンプルプロジェクト
- サポート
- レポート
- キーメトリクス
- ツール
こうして並べてみるとかなり多いですが、1つ1つを学んでいくことで、確かに体系的にDevRelを学ぶ礎になりそうです。
日本語版DevRelロードマップ
前述のDevRelロードマップを参考に、筆者が日本語版を作成しています。グローバルと日本では異なる部分があるので、日本語版を作成することで、より日本の状況に合わせたロードマップを提供できるようになります。
ここで挙げているスキルは、以下の通りです。
- DevRelの基礎
- DevRelとその他の違い
- フレームワーク
- DevRelのフォーカスエリア
- KPIと測定
- コード
- コンテンツ
- コンダクター
- コミュニケーション
- コミュニティ
- 便利なサービス
- さらにDevRelを学ぶには
この日本語版では、前半をDevRel全般について、そして後半により具体的な施策について解説しています。まだ内容的に完成しているわけではなく、DevRel/Tokyoコミュニティのフィードバックを受けながら、随時更新していく予定です。
DevRel Foundationの動き
グローバルの動きがもう1つあります。現在、グローバルなDevRelに関する団体「DevRel Foundation」を設立する動きがあります。世界中のDevRelに関わる人たちが集まって、DevRelの定義や役割、スキルセットなどを議論中です。
まだ具体的な形にはなっていませんが、この動きからも分かるのは、DevRelの定義について課題感を感じている人たちが多かったということです。単純にイベントを行うだけだったり、発信しか行わない施策などDevRelとは言えないような活動も増えているのが実感として感じます。これは日本に限らず、グローバルでも同じような課題があるようです。
逆に、DevRelの需要とエンジニアのキャリアとして認識されていることも実感できます。DevRel職に就いたエンジニアが「何が求められているのか」「何をすれば良いのか」で悩んでいる方が大勢います。システム開発の現場ではさまざまなプログラミング言語、フレームワーク、ツールがあるのに比べると、DevRelのエコシステムはまだ整っていないと言えるでしょう。そこで、DevRel Foundationが設立され定義が明確になることで、徐々に必要なコンテンツやツールが揃っていくと期待されます。
DevRel Foundationに対する期待値も人それぞれで、1つに集約するのに苦労しているのが現状です。しかし、定義が明確になれば、DevRelとして求められる活動やキャリアパスがより明確になることが期待されます。
一般社団法人DevRel
DevRel Foundationの動きと前後して、日本でもDevRelに関する団体(一般社団法人)を設立する動きがありました。それが、筆者が代表理事を務める「一般社団法人DevRel」です。
一般社団法人DevRelの目的としては、DevRelのコミュニティである「DevRel/Tokyo」の運営と、DevRelに関する日本唯一のカンファレンス「DevRel/Japan CONFERENCE」の運営があります。これまでの手持ち弁当によるコミュニティから、一歩脱却したと言えます。
そして、一般社団法人DevRelとしては、DevRelの普及も目的として掲げています。企業におけるDevRelの正しい認知拡大はもちろん、エバンジェリストやアドボケイト、コミュニティマネージャに関する教育なども提供する予定です。
先述の日本語版DevRelロードマップも、一般社団法人DevRelの活動の一環として作成しています。充実すれば、DevRelに関わる人・企業のオンボーディングにも役立つものと考えています。
まとめ
今回は「いかにDevRelを学ぶか」について解説しました。体系的に学ぶには書籍を読むのが早そうです。また、DevRelロードマップを参考にすれば、ステップバイステップ、また自分に不足している部分について素早く学べると思います。
エンジニアのキャリアパスとして「スペシャリスト」「ゼネラリスト」がよく取り上げられますが、第3のキャリアパスとして「DevRel関連職」があることを知っておくと、今後のキャリアに広がりが生まれるでしょう。