GitHub Universe 2024からカールツァイスと共に解説するエンタープライズ向け製品のセッションを紹介
GitHub Universe 2024から、ドイツの光学機器メーカー、カールツァイス(Carl Zeiss AG)でHead of Digital Experience Platformsの肩書を持つDr. Holger Kasinger氏がゲストとして登壇したエンタープライズ向け製品のセッションを紹介する。本セッションはGitHubのProduct ManagementグループのVP、Todd Manion氏がプレゼンターとして登壇し、途中にカールツァイスのKasinger氏を招いて事例として紹介、最後に管理者向けの新機能を解説するという構成となっている。結論から言えば、このセッションの最大のメッセージをカールツァイスのIT部門管理職に語らせるという目的は、見事に達成できていた。デモは実際に操作するのではなく動画を利用し、会場からの拍手や歓声は少なく地味な印象の内容ではあったものの「Azure DevOpsよりもGitHub Enterprise Cloudのほうが良い」というメッセージは確実に発信されたと言える。
動画は以下のリンクから参照して欲しい。
●動画:Introducing the next chapter for GitHub Enterprise
登壇したTodd Manion氏はこれが初めてのGitHub Universeであると自己紹介し、このセッションはシステム管理者にとって嬉しいニュースとなると語った。LinkedInによれば、Manion氏はGitHubに入社する前はMicrosoftでAzure DevOpsのプロダクトマネージャーとして従事していた人物であり、カールツァイスのセッションの中でAzure DevOpsとの比較が出てくるところから解説を行うには最適な人選というところだろう。
Manion氏はGitHub Enterpriseの進化として2011年に発表されたEnterprise Server、2017年のEnterprise Cloudなどを紹介。GitHub.comの機能に加えてエンタープライズ向けの機能を追加したオンプレミス向けの製品として進化していることを解説。
そして最初に強調したのがデータの所在に関する解説だ。EUのGDPRを強く意識したと思われる「どこのサーバーにデータがあるのか」を意味するデータレジデンシーを明示的に指定できることを説明した。
その後、カールツァイスのKasinger氏と交代して、ここからはカールツァイスの会社の解説を長めに行う内容となった。
178年前に創業されたドイツのハードウェアメーカーという長い歴史を、当時の製品とともに振り返って説明。日本ではレンズのメーカーとして知られているが、最近ではハードウェアだけではなくソフトウェアにも注力していると説明した。
最近は半導体製造装置や映画用のレンズなども製造していることを紹介。ここではアメリカ人が良く知っている映画のワンシーンをスライドに使って、興味を掻き立てようとしている工夫が見てとれる。
しかしプレゼンテーションとしてGitHubが一番訴求して欲しかったのはこのスライドだろう。
ここでADOと略されているのはMicrosoftのAzure DevOpsだ。その右のGHESがGitHub Enterprise Server、GHECはGitHub Enterprise Cloud、そして一番右のGHEC-EUがGitHub Enterprise CloudのEUリージョン版という意味となる。この比較表ではほぼEnterprise Cloudがカールツァイスの欲しい機能を満たしており、最後に残ったデータレジデンシーという部分がEUリージョン版によって実現されていることがわかる。カールツァイスにとっては、この機能が必須だったということだろう。その意味でTodd Manion氏がカールツァイスの前に行った「GDPRに対応したデータレジデンシーが実現できるようになった」という説明を、ユーザー自身が「これが欲しかった」と語って補完する形のプレゼンテーションとなっている。
ここでカールツァイスの役割は終わり、Todd Manion氏が再登壇。エンタープライズにおける重要な機能の一つであるID管理についても、さまざまなサービスプロバイダーのソリューションに連携できることを訴えた。
組織の構成やニーズに併せてきめ細かな権限管理が可能になったことも、動画を通じて解説。この辺りになると非常に細かな機能となり、エンタープライズ企業で実際にユーザーや権限管理に苦しんだ管理者ではければわからないような内容であろう。
次に解説したのは、予算管理の機能だ。エンタープライズ版でCI/CDをGitHub Actionsなどで実装する場合、当然だが処理時間に応じて課金されることになる。その課金の状況を予算とアラートによって管理可能であると説明した。APIの利用に関してもその状況を確認できることが併せて説明された。
最後にロードマップを解説。このプレゼンテーションで紹介された機能はすでに実装されているとして、2024年12月までに実装予定の機能、2025年3月までに実装予定の機能などを紹介した。特に今回はEUリージョンが先行しているが、オーストラリア、アジア、ラテンアメリカなどについても順次実装を進めていく予定と説明した。
エンタープライズ向けの新機能はどれも実際に顧客のリクエストを元に実装されているようだ。カールツァイスのようにデータレジデンシーが必須というヨーロッパ企業にとっては大きな前進だろう。ただGitHubのオープンソースソフトウェアコミュニティのエンジニアにとっては「そんな機能が本当に必要なのか?」という疑問を持つのは仕方ないと言ったところだろう。GitHubの売り上げのかなりの部分をエンタープライズ企業が担っていることを考えると、金払いの良い上顧客を満足させることは非常に重要な使命といえる。
元Azure DevOpsのプロダクトマネージャーがAzure DevOpsよりも良い選択肢としてのGitHub Enterprise Cloudを解説するよりも、178年続くドイツの老舗ハードウェアメーカーのIT部門の管理職に語らせるという最大の目的をちゃんと達成できたプレゼンテーションとなった。