連載 :
  インタビュー

ミラクル・リナックス、島根県松江にラボを開設、Hatoholの開発拠点を目指す

2015年10月26日(月)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

2015年10月15日、Linuxディストリビューションベンダー、MIRACLE Linuxを開発するミラクル・リナックス株式会社はオープンソースの統合運用管理ツール、「Hatohol」の開発やサポートなどの拠点として島根県、松江市に「松江ラボ」を開設した。同日、島根県知事、松江市長なども参加した島根県庁での調印式と記者会見を行った。当初は社員3名が赴任してソフトウェアの開発及び製品サポートなどの業務を行うという。今後5年間に5名、2020年には15名まで拡大し、地元の雇用に役立てるという。

左より島根県知事 溝口善兵衛氏、ミラクル・リナックス社長 伊東達雄氏、松江市長 松浦正敬氏

図1: 左より島根県知事 溝口善兵衛氏、ミラクル・リナックス社長 伊東達雄氏、松江市長 松浦正敬氏

会見に出席したミラクル・リナックス株式会社 取締役会長 児玉崇氏、代表取締役社長 伊東達雄氏との質疑応答は以下の通り。

ーーーどうして松江なのですか?

児玉氏:執行役員で技術本部長の吉田が松江出身というのが一つの要因ですが、もともと松江はオープンソースの開発言語、Rubyが生まれた土地ということでオープンソース・ソフトウェアのビジネスをやっているミラクル・リナックスが東京以外の拠点を作るのであれば、松江に行かなくてどうする?っていう気持ちもありました。他にもいろいろご縁があったのですが、企業として3年間ほどちゃんと検討を重ねた上での判断ということです。

伊東氏:ミラクル・リナックスとしては過去に海外としては北京に拠点を持っていましたが、それを昨年ベトナムにホーチミンに移しています。北京に拠点を持っていてもオフィスや人員のコストが上昇してしまったということもあり、他にもいろいろな要因がありましたが、長期的な視野で考えて松江に拠点を作る決定をしたということです。東京の本社に対してのディザスターリカバリーの拠点としての松江という意味合いもあります。雇用に関しても周辺に島根大学や松江高専がありますし、そこから出てくる人材に期待しています。

ーーーRubyは開発言語ということで世界中に拡がりましたが、運用監視を行うツールを遠隔地で行うという部分にマイナスのインパクトは無いのでしょうか?

児玉氏:実際には現時点でもトラブルなどの際にお客様のサイトに行かないと解決ができないというのはほとんどありません。ですので実際にリモートからサポートをすることも可能だと思います。ソフトウェアの開発という部分ではコミュニティがちゃんと出来上がっていれば、何処にいても開発は可能です。Hatoholの場合はすべて英語で仕様やマニュアルを作っていますので、最初からグローバルに展開できるようになっています。逆に国内のエンジニアからは英語だと敷居が高いと文句を言われてしまったりしますけども(苦笑)。

ーーー言語ではなくインフラ系のツールの開発ということであまりシステム管理などの経験が無い学生に開発は可能なのでしょうか?

児玉氏:実際に我々は過去にインターンとして学生に開発に加わって貰ったことがあります。そこで得た知見は学生のレベルだとソフトウェアを開発しても「プロダクト」として開発したことが無い人たちにとってとても良い経験になるということだったのです。つまりプログラムを書くという経験だけではなく、ちゃんと製品として仕上げるというプロセスを経験することでエンジニアとして成長することができたと思います。ですので、組織として製品を作るという仕組みがあれば実際にはそれほど問題は無いと考えています。

ーーーリモートで開発を行うという意味ではラトビアのリガの郊外にあるZabbix SIAなどもモデルとしては参考にしているのでしょうか?

伊東氏:Zabbixもヨーロッパの田舎というと言葉は悪いですが、かなり遠隔地にありますよね。あそこに居てもソフトウェアの開発はできますし、サポートも可能です。Hatoholの場合はすぐに松江が主体になるのではなく東京と松江のふたつの拠点がありますので、東京のお客様への対応が必要になれば、東京から支援するということでビジネス的には問題は少ないと思います。

質問に答える児玉氏

図2: 質問に答える児玉氏

以下は懇親会での執行役員技術本部本部長 吉田淳氏との質疑応答である。吉田氏は会長の児玉氏と一緒に今回の松江ラボの開設をリードした松江出身のエンジニアである。

ーーーHatoholの開発が松江に移るという部分をもう少し詳しく教えて下さい。

すぐに完全に移行するわけではありません。実際にはまだHatoholの松江でのサポートエンジニアは1名なんですが、これからもっと増やしていこうとは思っています。Hatohol自体はコミュニティ版と有償版の2つがあるんですが、松江で開発するのはコミュニティ版になると思います。安定性とか信頼性が大事な有償版よりも最新の機能をどんどん取り入れることができるコミュニティ版を松江で開発することで、こちらに住むエンジニアがもっと魅力を感じてくれるようになると良いなと思っています。

ーーーコミュニティとの活動が東京と較べて減ってしまうことに不安はありませんか?

吉田氏:私個人もプログラミングや技術を学んだ時は一人でやった部分が実は多くて、それを考えると松江だからできないとは思いません。いまはテレビ会議やチャットなどのツールも充実していますので、気軽に質問する、相談すると言ったことは昔よりも遥かにやりやすくなっていると思いますので、あまり心配はしていません。

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Rubyの街でエンタープライズ向けのオープンソースソフトウェアの開発拠点として松江ラボが成功するのか、1年後が楽しみである。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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