書きたいものを届けたい人へ―技術書典の思想と裏側を支えるテクノロジー
ところでTechBooster(テクブ)って何でしょうか?
日高氏:技術ブログからはじまったエンジニアコミュニティです、当初は5名でブログを執筆していました。ちょうどAndroidが普及しはじめた頃です。ある日、飲み会でコミケに出ようと決めまして(笑)、記念出展ってやつですね。C80(2011年夏)にたまたま受かったのをきっかけに、そこからC90(2016年夏、予定)まで毎回出展しています。C84(2013年夏)に、Android界隈のエンジニアみんなで書いた『Effective Android』という書籍が契機になり、いまのテクブのスタイルができました。GitHubを使って共同執筆しているのですがテクブのグループには現在91名のコントリビューター登録があります。
日高氏:最初は単純に、技術を追求するのが楽しくて執筆するところからスタートしました。最近は一人で追いかけるのが大変になってきたので共著で出すことが多くなっています。根底には「自分が楽しい、面白いと思えるモノ、コレがぜったい来る! と感じたものを追いかけています」。また、当初はAndroidメインでしたが、今では技術全般、JavaScriptの本なども扱い始めるようになりました。コミケ出展に関しては収益がとんとんになるようにしているつもりです。売上の7割は原価で、残った収益は打ち上げで使いきってしまいます。あくまでも商業出版ではないので、各著者がテクブの思想に共感してコミュニティ全体の利益になることを目指して取り組んでくれています。
- C81 28ページ、50部(「俺のAndroidがそんなにアイスクリーム好きなわけがない」)
- C84 Effective Android 184ページ、150部(搬入量の問題で部数を絞った、が1時間で完売してしまった)
- C88 4種 トータル1,500部くらい(初の壁対応)
- C89 6種類 トータル2,000部くらい
- C90 10回目 トータル?
技術書ならではのシステマチックな制作体制
先ほどGitHubの話が出てきたが、リポジトリというオンライン上の共有スペースにソフトウェアのソースコードをアップし、開発者がパッチを追加(コミット)していく、ソフトウェア開発などでよく使われるツールだ。テクブではリポジトリに原稿(テキストファイル)をアップし、共同執筆者や編集者が校正を追加していく。
さらには、CI(Continuous Integration、継続的インテグレーション)の手法を取り入れ、ビルドサーバーや自動テストの仕組みまで自前で用意している。具体的には、クラウドサービス上にDockerのコンテナを設置し、その中でGrifletと呼ばれるGitとRe:VIEW、Webインターフェースを備えたシステムを構築している(コミュニティメンバーの@amedama氏が開発)。GitHubにコミットをプッシュするとWebHookでGrifletに接続し自動テストが走る、ビルドが成功すればPDFやEPUBが生成され、エラーが起きればアラートを出す。技術書典ではそこからオンデマンド印刷の業者とAPIで連携し、印刷所にデータ入稿しているという。
また、制作以前の執筆環境においても、prh(proofread-helper)という校正支援ツールやテキストエディターのAtomに組み込んで使う執筆支援プラグインのlanguage-reviewなども用意した(いずれもコミュニティメンバーの@vvakame氏が開発)。「Effective Androidを発行したC84の頃からこうしたシステムを作り稼働してきました。技術の内容を突き詰めたいので自動化できる部分はシステム化しようと」日高氏は語る。
商業出版と同人誌と技術書典
ところで、日高氏や高橋氏はいずれも技術書の著者としての顔も持っている。(弊社インプレスのような)商業出版と、同人出版はどう違って見えるのか、編集者の立場から素朴な疑問をぶつけてみた。
日高氏:商業出版の場合は執筆で拘束される期間が3ヶ月〜半年間と長く、その割には著者として印税だけで食べていくのは難しいなと。言葉を選ばなければ商業出版には窮屈なものを感じました。だったら自分たちで電書を出版するならリスクは少なく1冊あたりのハードルも低くなります。ただ、紙書籍が欲しいというニーズもあるので、選択肢を増やしたいと思っています。それが今回のイベント「技術書典」の開催にも繋がっています。エンジニアが参加しやすい環境を考えて、アキバという立地にはかなりこだわったつもりです。
高橋氏:私が運営している「達人出版会」ではポリシーとして電子出版のみを扱っています。商業出版としての紙書籍は簡単には出せない、といいますか紙の本のクオリティをクリアするのが大変ですね。同人誌は、紙の商業出版を補完するような役割だと考えています。書きたいことを書きたい人に向けて書ける、不特定多数にばら撒くのではなく必要な人にだけ届けるのが狙いの1つです。著者が販路をコントロールできることで、ネガティブなフィードバックを受けづらいというメリットもあります。
最後に話は週末のイベントになるわけですが「技術書典」について抱負を。
日高氏:今回初めての取り組みで、3月12日にようやく開場と名前が決まってから急ピッチで準備を進めてきました。なによりもまず多くの方に参加してもらうために入場料は無料にし、出展者からは費用をいただくようにしています。今回は1,000人を目標にしています。当初30サークル程度を想定していたのですが、募集の段階で90ブースを超え、最終的にスペースの都合で60ブースほどになりました。当初オンデマンド印刷機を導入して、その場で製本した本を購入できる企画も考えたのですが、今回は会場の制限もありより多くのブースさんに出展してもらうことを優先しました。次回はチャレンジしたいと思っています。初回の実績次第ですが、今後も継続して開催したいですね。
Think ITならびにインプレス、MdNも技術書典にブース出展します。キ(企業)ブロック(2階)の0506ブースでお待ちしています!
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