BPMN 2.0の概要とビジネス・プロセス・モデリング
BPMN 2.0
BPMNの歴史は、図10の通りです。2004年にBPMIがBPMN 1.0を公開した後、6年の歳月を経て、ようやくBPMN 2.0が2010年中に最終採択される予定です。2010年6月5日に発行されたBPMN 2.0ベータ2の仕様書冒頭のコピーライト宣言文には、次の企業/団体が名乗りを上げています。
- 米Axway
- 英BizAgi
- 米Bruce Silver Associates
- 独IDS Scheer(独Software AGが2009年に買収)
- 米IBM
- 仏MEGA International
- 米Model Driven Solutions
- 米Object Management Group
- 米Oracle
- 独SAP
- 独Software AG
- 米TIBCO Software
- 米Unisys
図10: BPMN開発の歴史(クリックで拡大) |
これまでのBPMN 1.xは、記述モデルと分析モデルの用途に主眼が置かれていました。一方、実行可能モデルの用途として見た場合は、図形要素や属性が不足しており、不完全でした。
これに対して、BPMN 2.0では、米IBMや独SAP、米OracleといったメジャーなBPMSベンダーが中心となって開発を進めたことにより、実行可能モデルの用途で使うための仕様強化が図られています。
また、記述モデルと分析モデルの用途においても、ビジネス・アナリストやプロセス・デザイナによる5年以上の現場適用経験がフィードバックされ、改良されています。
BPMIが当初掲げていた「BPMN開発コンセプト」(前回の図4)が、BPMN 2.0になって、やっと現実味を帯びてきたと言えるでしょう。
ただし、BPMN 2.0では、ビジネスからITまでの広い範囲のモデリング要件をカバーしたことにより、図形要素や属性の種類が多くなり、複雑になった感があります。この問題を解決するためにBPMN 2.0ベータ2で追加されたのが、"BPMN 2.0適合基準"です。この概念を、図11に整理しました。
図11: BPMN 2.0の適合基準(クリックで拡大) |
適合基準(Conformance)は、BPMツールにおけるBPMN 2.0仕様の実装レベル(言い換えれば、準拠レベル)を定義しています。当然、この基準作りには、ビジネス・プロセス・モデリングの一般的な方法論と設計ステップが配慮されています。
また、モデル駆動型開発で言うところのPIM(Platform Independent Model、プラットフォーム独立)とPSM(Platform Specific Model、プラットフォーム依存)の領域が明示されています。図11左の「プロセス・モデリング適合」はプラットフォーム独立(PIM)を、右上の「プロセス実行適合」はプラットフォーム依存(PSM)を表しています。
図11右下の「コレオグラフィ・モデリング適合」は、BPMN 2.0から新たに追加された、プロセス間のメッセージ交換手順やルールを図で表記する基準です。この適合基準は、PIMの領域に限って規定しています。この表記については、最終回(第4回)で解説する予定です。
プロセス・モデリング適合では、記述モデル、分析モデル、実行可能モデルの3つのステップで使用する図形要素と属性の範囲を、それぞれ、記述適合クラス、分析適合クラス、共通実行可能クラスの3つのクラスに対応させて、規定しています。
分析適合クラスは、記述適合クラスを包含します。共通実行可能クラスは、分析適合クラスを包含します。このように、スーパークラス/サブクラスの関係を明示して、モデルで定義する内容の詳細度を段階的に拡大しています。
適合基準は、かなり厳しい基準です。"BPMN 2.0完全準拠のプロセス・モデリング・ツール"と呼べるのは、共通実行可能クラスで規定した図形要素と属性の範囲に加えて、コラボレーション図やカンバセーションズ図(BPMN 2.0から新たに追加された図表記)、そのほかの諸規定を100%満足した場合に限る、と規定されています。ツールの使用者であるユーザーにとっては、製品選択の基準が明示されたわけであり、朗報と言えるでしょう。
BPMN 2.0を完全に包含したソフトウエア製品は、今のところ存在しません。BPMSベンダーは、BPMN 2.0ベータ1の公開と同時に、BPMN 2.0仕様の製品実装を始めたばかりの状況です。次回は、その中でもいち早くBPMN 2.0の実装を始めたベンダー製品に焦点をあて、プロセス実装設計の最新動向を解説します。