SysMLを利用可能なモデリング・ツール「Enterprise Architect」

2010年9月15日(水)
河野 岳史

パラメトリック図をシミュレーション

最後に、SysML専用の機能を1つ紹介します。

世の中には、設計内容を表現したモデルのことを「単なる絵に過ぎない」と考える人がいます。こうした人は、「モデリング・ツールを使わなくても、お絵かきツールやExcel/Power Pointがあれば、それで絵が描ける」と考えています。

汎用のお絵かきツールと、モデリング・ツールの違いは、何でしょうか。違うのは、記述した内容が、単なる表面的な絵ではなく、意味を持ったモデルになる、ということです。Enterprise Architectは、このことを実感できる機能を備えています。SysMLのパラメトリック図をシミュレーションする機能です。

Enterprise Architectでは、パラメトリック図で作成した内容に対し、実際に入力値を設定して、その出力値の変化をグラフとして表現することができます。さらに、その実行結果をCSV(カンマ区切り)形式で出力し、Excelなどの表計算ツールで解析/加工することもできます。

つまり、一言で言えば、「作成したモデルを動かす」ことができるのです。これは、単なる「絵」では実現できません。

設定できる値は、固定値だけではありません。時間など、一定の範囲の中で変化する値を指定することも可能です。例えば、あるパラメトリック図に対して、10秒間の処理を実行し、その値の変化の結果を確認することができます。

作成したモデルを動かせるということは、実装する前の段階、つまりソフトウエアで実装するのかハードウエアで実装するのかさえも決まっていない段階で、動作を試行できる、ということです。「ある入力パラメータに対し、どのような値を設定すると、目的とする結果が得られるのか」を調べることができます。

図3: パラメトリック図を動かして、入力と出力をシミュレーションできる

作成したパラメトリック図の内容は、別のパラメトリック図の中に、「制約ブロック」(Constraint Block)として配置できます。つまり、ある入力/出力を持つパラメトリック図を定義し、シミュレーション機能を用いて動作を確認し、意図した通りに動作するようになった段階で、そのパラメトリック図を「部品」化して、別のパラメトリック図に配置し、再利用できます。

1つのパラメトリック図の中に、複数の「部品」(パラメトリック図)を配置できます。つまり、単純なパラメトリック図を定義して単純な「部品」を構築し、これらの部品を組み合わせて最終的に複雑な部品を作成する、という手順で設計を進めることができます。

このように、シミュレーションを実行できたり、ドキュメントを生成できたり、関係を把握/追跡したりと、1つのモデルをさまざまな方法で活用できます。モデリング・ツールを使ってSysMLモデルを作成することは、単なる「絵」としてSysMLを作成することと比べて、多くのメリットがあります。

SysMLを利用できるモデリング・ツールは、いくつかあります。それぞれのツールがそれぞれに、特徴的な機能を搭載しています。目的に応じてツールを選択できます。今後、SysMLが広まるにつれ、今回紹介したシミュレーション機能のようなSysML固有の機能がさらに増えていくのではないかと考えます。

SysMLを利用する際には、ぜひモデリング・ツールの利用も検討してみてください。効率的な設計作業ができるという面だけでも、十分にメリットがあります。

スパークスシステムズ ジャパン株式会社

スパークスシステムズ ジャパン株式会社の代表取締役。オーストラリア製のUMLモデリングツール「Enterprise Architect」を日本市場に向けて販売するほか、要求管理ツール「RaQuest」、ソフトウェア資産の再利用支援ツール「ARCSeeker」を自社開発し、世界中に販売している。
http://www.sparxsystems.jp/

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