ビジネス・プロセス・モデリングの最新動向

2010年9月24日(金)
岩田 アキラ (いわた あきら)

非定型プロセスへの取り組み

BPM業界では最近、次のようなキーワードで、非定型プロセスにBPMを適用するための技術が論じられるようになりました。

  1. Case Management (ケース・マネージメント)
  2. Dynamic BPM (動的プロセス)
  3. Unpredictable Process Support(予測不能なプロセスのサポート)
  4. Impromptu Process Support(即興的、場当たり的なプロセスのサポート)
  5. ガートナーの定義"Unstructured BPM"(非構造のBPM)

現在のBPMSが対象としているプロセスは、事前定義(定型化)が可能で、繰り返し性がある業務プロセスです。この一方で、解決すべき命題の難易度に応じて作業の手順や作業項目が変化し、繰り返し性がない非定型プロセスには、適用が難しいとされています。

BPMN 1.0では、このような非定型なプロセスを、図26のように表記します。BPMN 2.0においても、この表記は変わっていません。

図26: BPMNのアドホック・サブプロセス

図26の中で「~」(チルダ)記号で示したサブプロセスは、アドホック・サブプロセスと呼びます。非定型プロセスであることを示しています。

この図の例は、"本の章を書く"執筆者の作業を表しています。執筆者は、考えをめぐらしながら、サブプロセスに記載したタスクのいずれかを都度、実行します。しかし、その実行順序は、執筆者が書く章の難易度やボリュームによって異なります。このため、BPMN では、"本の章を書く"ときに想定される実行候補タスクを列挙するだけに留めています。

先に挙げた5つのキーワードをサポートするツールは、"本の章を書く"というアドホック・サブプロセスが起動する都度、その命題に応じて、列挙済みのタスクを選択してプロセスを定義し、詳細タスクの進ちょくを管理するメカニズムを提供するもの、と考えられます。

「ユーザーがダイナミックにプロセスを定義可能なモデル表記」とは何でしょうか。これまでのBPMNとは異なる、もっと単純な表記が使われるかも知れません。現在のところ、"本の章を書く"というアドホック・サブプロセスをユーザー・タスクと見なし、そのタスクの着手と終了を管理するのが、BPMSの標準的な実装方法になります。

アドホック・サブプロセス内の詳細タスクを管理するBPMSはダイナミックBPMSと呼ばれ、一部のツール・ベンダーによって製品化されつつあります。しかし、ベンダーによって製品の機能はマチマチの状況であり、標準化が待たれます。

2010年以降、5つのBPM予測

米Gartnerは、BPM/SOAの新しい技術がビジネスのどのような場面で生かされるかについて、次のような予測を発表しています。

  1. 2012年までに
    • 企業が直面するプロセスの20%は、BPM技術の支援を受けながら、ナレッジ・ワーカー自身が彼らの要求と好みに応じてジャスト・イン・タイムで変更できるようになるだろう。
  2. 2013年までに
    • ダイナミックBPMを導入することは、増大するカオス的な業務プロセスに効率を求める企業にとって緊急命題になるだろう。
  3. 2014年までに
    • サービスを組立生産するスタイルは、これまでのソフトウエア開発スタイルには見られなかった、より強力な価値を提供するだろう。
  4. 2014年までに
    • ビジネス・プロセス・ネットワーク (BPN)が、新しい企業間プロセス統合プロジェクトの35%で、実証されるだろう。
  5. 2014年までに
    • 「グローバル2000」企業におけるビジネス管理者とナレッジ・ワーカーの40%が、広範囲に可視化されたビジネス・プロセス・モデルを、日々の作業で使うだろう。2009年には6%にすぎなかった。

1、2、5は、非定型プロセスへの取り組みに関係します。3は、SCAに関係します。4は、コレオグラフィに関係します。IT技術者は、このような展望や見通しを持って、BPM/SOA技術に興味を持っていただきたいと思います。

著者
岩田 アキラ (いわた あきら)

岩田研究所代表。日本BPM協会 運営幹事。自己の研究対象をデータモデリングからプロセスモデリングに6年前に転向。ビジネスプロセス表記標準BPMNの国内普及に邁進。日本BPM協会ではBPM推進フレームワークの開発やセミナーなどの講師を務める。「岩田研究所」ブログで自身のBPM/SOA開発手法研究成果を公開。

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