マイクロソフト社のIT技術者向け新資格体系を探る
クラウド技術の普及に合わせて
新時代に適した新資格体系を制定
マイクロソフト製品に関するITエンジニア/開発者向けの認定資格体系が、2012年の4月より大幅に改定され、MCP(マイクロソフト認定資格プログラム: Microsoft Certification Program ※注1)として新たに生まれ変わることとなった。現時点において、旧資格体系から新試験への移行が進められている段階ではあるが、マイクロソフトが目指す新たな資格体系がどのようなものなのか、またそれぞれの資格の内容や試験方式に関してどのような違いがあるのか、詳しく見ていくことにしたい。
これまでの制度は、製品毎に資格が用意されており、全体として多数の製品の数だけの資格が存在する複雑な構成となっていて、何をどの順番で取得すればよいのかがわかりにくいものだった。新たな資格体系では、ソリューションの分類をベースに受験者の技術スキルや目指すキャリアパスに応じて、目標となる資格が明確になっていて、その点が改定の最大の特徴といえる。
日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトラーニングの山本篤志氏は「昨今主流となっているクラウドソリューションでは、IT技術者に個別の製品に関する知識だけでなく、複合的なスキルが要求されるようになっています。そのため認定資格においても、より広範囲な知識・スキルの取得を目的とし、今、顧客が求めるソリューションをベースに構成しました。つまり、新資格の取得により、より広範囲のスキルを証明できるようになります」と、従来の資格体系を大きく整理した狙いを語る。
※1 旧制度での「MCP」(マイクロソフト認定プロフェッショナル: Microsoft Certified Professional)とは異なる
新資格の各レベルの特徴
ここでふたつの図を見ていただきたい。新体系の資格取得の道筋は、大きく「Client」、「Server」、「Database」、「Development」の4つに分かれている(図1)。またそれぞれのパスが、ITの基本的な知識を証明するためのMTA(マイクロソフトテクノロジーアソシエート)から最上位の資格であるMCSM(マイクロソフト認定ソリューションマスター)まで、4段階のレベルで構成されている(図2)。
図1 ITプロ・開発者向けスキルのロードマップ例
一番上の紫色の線が「Client」、緑色が「Server」、水色が「Database」、一番下の青色が「Development」となっている(このロードマップ図は2012年12月現在のものです。随時更新されますので、最新情報はマイクロソフト社のサイトを参照してください)
図2 新資格のレベル区分と呼称
上から難易度別に「マスター」、「エキスパート」、「アソシエイト」と分かれている。さらに新人向けなどにエントリーレベルの資格「MTA」が用意されている(一番下のエントリーレベルは編集部の解釈による追加。正確な位置付けはマイクロソフト社のサイトを参照してください)
それでは、それぞれの資格についてその特徴を見ていこう。
●学生や新人のエントリーには「MTA」が最適
エントリーレベルである「MTA」(マイクロソフト テクノロジーアソシエイト)は、「IT 業界で就職する為の足掛かりとなるコアスキルの証明」と位置付けられている。旧体系におけるMCA(マイクロソフト認定アソシエイト)に相当する難易度で、基礎的な知識やスキルを取得したい新人エンジニア(あるいは職種転換を行ったエンジニア)向けの資格だ。
MTAは、MCSAの難易度が引き上げられたことを受けて、学生や新入社員などこれからITの学習を始める人向けに提供されるもっとも基礎レベルなもので、一般向けの受験受付は、2013年1月を予定しているとのこと。上位の資格と異なり、いずれか1つの試験に合格するだけで、MTAの資格を得られる点が特徴だ。
●実務経験者は「MCSA」から取得開始
「MCSA」(マイクロソフト認定ソリューションアソシエイト)は、マイクロソフトのコアプラットフォームに関する専門スキルを証明するための資格だ。図1を見てもらうとわかるが、MCSAに認定されるためには、複数の試験に合格する必要がある。これは上位レベルの資格も同様。MCSAは、上位のExpert(エキスパート)レベルの資格を取得するために事前に取得すべき必須要件となっている。
なお、上位レベルでは必要な資格更新(再認定)は、MCSAではその必要がない。また、「Development」のパス(図1の一番下の青い線)では、MCSAは設定されていない。
●目指すべきレベルの「MCSE」「MCSD」
マイクロソフト社が今回の新資格体系の中で主要資格と位置付け、「IT技術者/開発者の目指すべきレベル」と定めるのが、MCSE(マイクロソフト認定ソリューションエキスパート ※注2)とMCSD(マイクロソフト認定ソリューションデベロッパー)だ。
MCSE/MCSDは旧体系におけるMCITP(マイクロソフト認定ITプロフェッショナル)、MCPD(マイクロソフト認定プロフェッショナルデベロッパー)に相当する難度の試験となっており、山本氏によると「IT技術者または開発者として5年程度の実務経験を積んだエキスパートを対象としており、職場でチームリーダーを任されるなど、単独で仕事をこなせるレベルを想定している」とのこと。記事執筆時点では「Server Infrastructure」や「Data Platform」をはじめ、ソリューション別に12種類の資格が提供されており、資格ごとに指定された2科目または3科目の試験に合格することで、MCSE/MCSDに認定される仕組みだ。
またMCSE/MCSDでは、最新の製品やテクノロジーに関する知識を維持する目的から、定期的な資格更新が義務付けられている。たとえばMCSDならば2年ごと、MCSEならば3年ごとにアップグレード試験(ほとんどの場合は、差分をまとめた1科目のみとなる予定)の受験が必要となり、合格しなければ資格を失うこととなる。試験内容そのものにも大きな見直しが行われ、「実際の事例をベースに、常に最新の情勢を反映した問題となるよう更新を行っている。正しい知識を有している受験者だけが正解できるよう、出題形式にも改良が加えられた」と山本氏は強調する。
試験自体はCBT方式(コンピュータによる受験方式)で実施されるが、「解答の選択肢が複数存在する問題」、「解答が『該当する選択肢なし』になる問題』」に加えて「ビジネスにおける高度な状況判断を問う問題」など実務に即したものが取り入れられ、難易度が引き上げられているとのこと(合格率はいずれも非公開)。つまり過去問を暗記するといった単純な試験対策では、歯が立たないことを意味している。
※注2 旧資格体系におけるMCSE(マイクロソフト認定システムエンジニア)とは違うものなので注意
●最上位資格「MCSM」
最上位の資格となるMCSMは、より上流の工程において、設計から構築までを実施する専門知識を問うもので、受験にあたっては対応するMCSEの取得が必須となる。ただし現在のところは米国でのみ受験可能となっており、日本国内での試験は実施されていない。
ちなみに新資格体系への移行が段階的に実施されている関係上、英語のみで実施されている試験科目などもある。日本マイクロソフトでは「英語版の試験が開始されてから、およそ1~2か月の期間で日本語での受験が可能になる」としているが、学習スケジュールを立てる場合は同社の新試験リリース予定表などを参考にすると良いだろう。
圧倒的な製品の販売ボリュームを背景に、
企業ニーズも高い
ではMCSE/MCSDの資格を取得することによって、具体的にはどのようなメリットがあるのだろうか。「マイクロソフト製品はさまざまな分野でデファクトとして採用されており、技術や知識の証明として、MCPが企業に高く評価されている」と指摘するのは、日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトラーニングの佐々木由理子氏だ。
「要件をまとめると、
- MCPは全世界で統一した試験が実施されており、あらゆる国や地域でスキルを証明する手段として通用する。
- 製品の販売ボリュームが多いため、マイクロソフト製品に関するエンジニアや開発者が広く求められている。
- MCSE/MCSDの取得により、現在の自分の役職に必要な高度なスキルや知識を体系的に学習できる。
といったところでしょうか」
また佐々木氏によると、SIerなどにおいてクライアントに自社エンジニアの実力をアピールする目的で、資格の取得をサポートする例も増えているとのこと。マイクロソフト製品を扱う企業においては、特に価値の高い資格といえるだろう。
もちろん、たとえ十分な経験と実力を備えたエンジニアであっても、マイクロソフト認定資格は簡単に取得できる資格ではない。そこで注目したいのが、いったん不合格となった試験の2回目の受験料が無料となる「セカンドショットキャンペーン(2013年5月31日まで実施)」だ。まずは実際に試験を受けてみて、自分に足りない部分を把握したうえで、改めて学習に取り組んでみてはいかがだろうか。
なお、現時点において旧資格体系におけるMCTSやMCITPがいつ終了するかのアナウンスはないが、今後、新資格への切り替えが進むことは間違いないはず。しかし、既存の試験の内容も随時、改良が施されている。MCTSやMCITPの資格保有者向けに、該当する新資格への移行が可能になるアップグレード試験の提供も予定されているため、ぜひ早めに活用したいところだ。
【関連書籍紹介】
※下記の3冊は旧資格体系時に発行された書籍ですが、今後時間をかけ、徐々に新試験へ移行していくというアナウンスから、移行中の現在は対応する試験の学習に使える内容となっています。移行状況と対応試験(試験番号を確認)についてはマイクロソフト社のサイトを参照してください
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