データベースエンジニアとしての可能性を広げる「OSS-DB技術者認定試験」とは

2013年2月1日(金)
ラーニング編集部

企業ニーズを見据えて
PostgreSQLを基準に問題を作成

FacebookやGoogleをはじめ、ここ10年においてWebサービスを牽引してきたIT企業では、LAMP/LAPPに代表されるオープンソースソフトウェアの採用が主流となっている。また昨今では、コスト削減の観点からPostgreSQLやMySQLといったオープンソースデータベース(OSS-DB)を導入する企業が増加しており、Webアプリケーションに限らずエンタープライズ分野でのニーズも高い。

そこでLPIC(Linux技術者認定制度)を運営するNPO法人のエルピーアイジャパンでは、OSS-DBに関する知識と技術の認定を通じてエンジニアを育成することを目的に、2011年7月より「オープンソースデータベース技術者認定試験」を開始。先行するLPICと同様に、特定ベンダーとの関係を持たない中立的な認定制度であることが最大の特徴となっている。

OSS-DB技術者認定試験の試験問題は、NTT OSSセンタ、及びSRA OSS, Inc. 日本支社の協力を受けて開発されている。なおSRA OSS, Inc. 日本支社が運営していた認定制度の「PostgreSQL CE」は2011年にエルピーアイジャパンへと移管された(※1)。

エルピーアイジャパンの理事長を務める成井弦氏は、MySQLをはじめ、他のデータベースが対象になっていない理由に関しては、「コマンドやチューニングの手法がソフトウェアによって異なっていることから、一定の基準となるデータベースがあって、それを前提に学習できることが望ましく、OSS-DBの中でも、商用データベースとの連携に優れたPostgreSQL 9.0を採用しました」と説明する。日本国内においてPostgreSQLがMySQLに匹敵するシェアを獲得しており、7割以上の企業が商用DBからの移行先としてPostgreSQLを選択しているという状況(※2)も背景にあるとのこと(図1)。「特定企業の傘下にないPostgreSQLは、よりオープンソースの理念に近い存在であると言え、技術者の認定活動を通じてオープンソースにおけるムーブメントを啓蒙するというエルピーアイジャパンの目的とも合致します」(成井氏)

図1 DBMS移行案件での移行元・移行先のDBMS製品(Let’s Postgres http://lets.postgresql.jp/documents/tutorial/UserSurvey/Postgresql_Usage_Report_1/

DBMS製品


※1 現在、SRA OSS Inc. 日本支社が提供していた試験の実施そのものは終了している。

※2 第2回オープンソースソフトウェア活用ビジネス実態調査(独立行政法人 情報処理推進機構)による。

Silverでエントリーし、Goldで極める

OSS-DB技術者認定制度は、ベーシックレベルとされる「OSS-DB/Silver」(以下Silver)とアドバンスドレベルとされる「OSS-DB/Gold」(以下Gold)の2段階に分かれており、経済産業省がエンジニアに求めるスキルレベルを示した「ITスキル標準」に対比させると、Silverがレベル1~2に、Goldがレベル3~4に相当するとアナウンスされている。ちなみに情報処理技術者試験では、基本情報技術者試験がレベル2に、高度情報処理技術者試験(データベーススペシャリスト試験など)がレベル4に該当する難易度だ。

それぞれの試験について、もう少し詳しく見てみよう。Silverが認定の対象とするのは「データベースシステムの設計/開発/導入/運用ができる技術者」と定義されており、一人前のエンジニアとして、実務に必要な知識/技術を問うものとなっている。出題範囲は、運用管理やコマンドなどの基本的な内容だ。あえてベンダー系のデータベース認定試験であるORACLE MASTERと比較するならば、ORACLE MASTER BronzeまたはORACLE MASTER Silverあたりのレベルといえるだろう。

対するGoldは「スケールアウト可能な大規模データベースシステムの、改善/運用管理/コンサルティングができる技術者」となっており、チームリーダーなどプロジェクトの要となるエンジニアの能力を問うものだ。試験範囲もパフォーマンスチューニングや障害対応が全体の半分を占めており、より実務的な内容となっている。なお受験にあたっては、5年以内にSilverの認定を取得していることが条件だ。試験の形式は大きく異なるが、ORACLE MASTER GoldやORACLE MASTER Platinumにあたるレベルといえるだろう。

試験はいずれもPearson VUEにより提供されるCBT(Computer Based Testing)方式で実施される。一部にキーボード入力問題も含まれるが基本は選択式問題(複数選択あり)であり、上位資格であるGoldにおいても実技は行われない。Silverでは90分で50問を解いて64点が合格ライン、Goldは90分で30問を解いて70点が合格ラインとなっている。受験者数は非公開だが、実務で経験を積んだエンジニアであれば、Silver/Goldともに合格率は6~7割の難易度だという。

ORACLE MASTERのようにバージョン別の資格試験が実施されるわけではないが、「認定日から5年」という有意期限が設けられており、再受験による資格の更新、あるいは上位資格の取得が推奨されている。ただし5年が経過したからといって、認定そのものが取り消されることはない(※3)。ちなみに、前身となる「PostgreSQL CE 8」の認定資格を有している場合、2013年6月30日までSilverの受験が免除され、直接Goldの試験を受けることができる(※4)。

受験勉強にあたっては、エルピーアイジャパンにより各種の認定教材や認定学習プログラムが提供されているが、同団体でははじめてPostgreSQLに触れる受験者を対象に、PostgreSQLを体系的に学習するための「オープンソースデータベース標準教科書 -PostgreSQL-」をWeb上で無償配布している(図2)。PostgreSQLの全体像を把握するためにも、受験の第一歩として活用したいところだ。

教科書

図版2 Web上において、無償で公開されている「オープンソースデータベース標準教科書 -PostgreSQL-」(http://oss-db.jp/ossdbtext/text.shtml










 

※3 Goldの受験にあたっては、上記のように、取得から5年以内の「有意な」Silverの資格が求められる。

※4 ただし、OSS-DB/Silverの資格が認定されるわけではない。

ベンダー資格と合わせて取得し
エンジニアとしてのスキルを差別化

では、OSS-DB技術者認定制度を取得することで、実際にはどのようなキャリア形成が期待できるのだろうか。

「IT業界におけるムーブメントは今やオープンソースが主導しており、その技術を身に着けることがエンジニアにとって必須となっています」と語るのは、エルピーアイジャパンの理事を務める池田秀一氏だ。「データベース関連の定番資格といえばORACLE MASTERですが、日本国内だけでも資格認定者が20万人を突破しており、データベースエンジニアのほとんどが取得しているといってもよい状況。つまり、ORACLEに習熟しているというだけでは、差別化が難しいということでもあります」。ベンダー資格はもちろん重要だが、それらに加えてOSS-DBに関する知識を合わせ持つことで、複数の選択肢を提案できるスキルが身につくと池田氏は分析する。

ここで改めて、OSS-DB技術者認定を受けるメリットをまとめてみよう。

  1. 商用データベースからOSS-DBへの乗り換えを検討する企業が多く、OSS-DBエンジニアが求められている。
  2. 商用データベースに加えてOSS-DBに習熟することで、自身のスキルを差別化できる。
  3. データベースに関する汎用的な知識や理論だけでなく、実務に役立つスキルを体系的に身に着けることができる。

また最近ではオープンソースの流れを受けて、OSS-DB技術者認定の取得へ積極的に取り組むSIerも増加している。

「スマートフォン市場に代表されるように、日本はオープンソースの開発における貢献度で中韓に大きく遅れを取っており、それが企業における製品開発の遅れにつながっているという現状があります。逆にこのような状況だからこそ、エンジニアとしてオープンソース技術に取り組むチャンスといえるのではないでしょうか」(前出 成井氏)

【関連書籍紹介】

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