共用サーバーと専用サーバー双方のメリットを合わせ持つ VPSの基礎知識

2013年10月16日(水)
波田野 裕一

VPS vs. 専用サーバー

ほとんどの大企業や一部の中小企業では、比較的高額な初期費用と維持費用をかけて自社ビルやデータセンターに自社専用のサーバーを設置してインターネット上でサービスを提供することが一般的でした。

これら比較的規模の大きな企業が専用サーバーを利用する目的は主に下記の3点です。

  1. 専用サーバーは、サーバーリソースの全てを自社で使うことができる。
  2. 専用サーバーは、サーバー内での作業やトラブルがあっても他社に影響しない、他社のサーバー内での作業やトラブルに影響されない。
  3. 専用サーバーは、物理的にも論理的にも他社から隔離されており、データを置くことに不安が少ない。

VPSがこれらの目的をどの程度満たすか見ていきましょう。

1. 専用サーバーは、サーバーリソースの全てを自社で使うことができる。

VPSも、そのVPSについて管理者としてほぼ完全な管理権限を持つだけでなく、そのVPSに割り当てられたCPU、メモリ、ハードディスクなどのサーバーリソースの全てを使うことができます。
これらの管理権限やサーバーリソースはVPS単位で割り当てられるため、他のVPSの管理作業やサーバーリソース消費が自分のVPSに影響することは通常はありません。
ただし、帯域などのネットワークリソースは共有になっている場合もあるので、契約を必ず確認するようにしましょう。

(ポイント1)

VPSでも、割り当てられたサーバーリソースの範囲でそのほぼ全てを管理者権限で利用することができる。

2. 専用サーバーは、サーバー内での作業やトラブルがあっても他社に影響しない、他社のサーバー内での作業やトラブルに影響されない。

VPSも、その仮想サーバーにおいて作業やトラブルがあっても、基本的には他のVPSには影響しませんし、他のVPSでの作業やトラブルが自分のVPSに影響することはありません。
ただし、物理サーバーにおいてトラブルや保守作業が発生した場合は、同一物理サーバーで稼動する全てのVPSが影響を受けます。
特に同一物理サーバー上で複数の仮想サーバーを利用している場合は同時に巻き込まれてしまうので留意が必要です。

(ポイント2)

VPSでも、自社サーバー内での作業やトラブルがあっても他社に影響しない、他社サーバー内の作業やトラブルに影響されない(ただし、提供業者でトラブルや保守作業があった場合、その物理サーバー上の全てのVPSが影響を受ける)。

3. 専用サーバーは、物理的にも論理的にも他社から隔離されており、データを置くことに不安が少ない。

VPSも、論理的にはネットワーク上で独立したサーバーとして扱われるため、インターネット上では専用サーバーとの大きな違いはありません。
しかし、物理的には同一物理サーバー上に他のVPSとともにファイルとして保存され、メモリ上に展開されているため、専用サーバーに比べると提供業者からアクセスしやすい状態にあるのは事実です。
このため、どういったデータであればVPS上に置いて良いか、提供業者をどこまで信頼するか、万が一の場合を想定してどうリスク評価するか、という点については専用サーバーよりやや厳密に検討する必要があります。
ただし、専用サーバーであっても物理的にアクセスできる人物に対する防御策は限られるわけですから、VPSだからといって過度に不安になる必要はないでしょう。

(ポイント3)

VPSも、論理上は他社から隔離されているため、インターネット上では専用サーバーと差異はほとんどない(ただし、物理上は隔離されていないため、提供業者は保守用の内部経路からアクセス可能)。

以上のように、現在利用している専用サーバーを利用し続けるかVPSに移行するかは、物理サーバーではないことについてどうリスク評価するかによって決まるでしょう。

ただし、VPSには専用サーバーと比較して、以下のような見過ごせない大きなメリットがあります。

1. 早い(調達期間が短い)

専用サーバーの導入にはその調達方法にもよりますが、概ね数週間程度、サーバーの種類・在庫状況や調達数によっては数ヶ月かかかります。
VPSはクレジットカード払いができれば申し込み直後から利用可能ですし、他の支払い方法でも一度支払い手続きが完了していれば同様のスピード感での導入が可能です。
このように調達期間が非常に短いことは、従来のように早期に精度の低い増強計画を作成する必要性を低下させ、負荷状況やサービスの変更に対してサーバーリソースを柔軟かつ適切に調達することを可能にします。

2. 安い(キャッシュアウトが少なく、会計に関する作業負担が少ない)

専用サーバーはそれ単体でも決して安いものではありませんが、特に自社で直接購入した場合は、資産として適切に管理する必要があります。
それだけでなく、減価償却費の計上や、陳腐化した場合に除却する手続きが必要になるなど、これら付随作業によって発生する隠れた間接コストも見落とせません。
VPSであれば、専用サーバーよりも一般的にキャッシュアウトが少ない上、単純に費用として計上されるため現場への会計作業の負担が少なくて済むというメリットもあります(このあたりはその会社における会計フローに依存します)。
また月額課金が選択できるサービスが多く、負荷見込みが外れた場合でも解約などで経費を圧縮することが容易なため、調達したリソースが無駄になるケースが少なくなる点にも注目しておくべきでしょう。

3. 構築運用が楽である(専用サーバーより柔軟)

専用サーバーは、その物理サーバーとしての特性上、各種作業においても物理的な制約を受けることが多いのが現実です。
たとえばコンソールを利用したい場合、その物理サーバーにコンソール用の端子が装備されている必要があるだけでなく、現地に行って直接パソコンとケーブルを接続して作業するか、ラック内にケーブルを配線してリモートコンソール用の機器と専用サーバーを接続して遠隔から操作する必要がありました。
また、ある時点での、特定のサーバーのスナップショットの取得や、同じ構成のサーバーを増強する作業についても物理的な操作が必要とされ、また個々人のエンジニアの工夫もしくは比較的高額なツールの利用が必要でした。
VPSにおいては、Web管理画面上の仮想コンソールからOSのブート画面を確認したりログインできるのが一般的で、マウスを数回クリックするだけでそのVPSのスナップショットを作成・保存したり、VPSの複製を作成して新規VPSとして増強ができる機能を提供されているなど、サーバーのビルド&スクラッチが非常に手軽にできるようになってきています。
これにより、本番環境とほぼ同じ構成の検証環境を手間かけることなく構築することが可能になっただけでなく、気軽に破壊的な操作で検証することも可能になるなど、エンジニアにとって非常に柔軟で使い勝手の良い作業環境を提供することもできるようになってきているのです。

専用サーバーからの乗り替え 判断ポイント

  • データ保存に関して、社内のリスク評価基準で妥当と認定されるか?
  • 構成変更の機会やサーバー台数の変動が頻繁に発生するか?
  • 本番環境、検証環境を問わず、構築作業が頻繁に発生するか?
図1:専用サーバーからVPSへ移行するメリット(クリックで拡大)
運用設計ラボ合同会社 / 日本UNIXユーザ会

ADSLキャリア/ISPにてネットワーク運用管理、監視設計を担当後、ASPにてサーバ構築運用、ミドルウェア運用設計/障害監視設計に従事。システム障害はなぜ起こるのか? を起点に運用設計の在り方に疑問を抱き、2009年夏より有志と共同で運用研究を開始し、2013年夏に運用設計ラボ合同会社を設立。日本UNIXユーザ会幹事(副会長)、Internet Week 2013プログラム委員、Internet Conference 2013実行委員など各種コミュニティ活動にも積極的に参加している。

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