ETロボコン2014チャンピオンシップ大会レポート(前編)

2015年1月7日(水)
鈴木 尚志

はじめに:ETロボコンとは

今年度で通算13回目の開催となるETソフトウェアデザインロボットコンテスト(以下ETロボコン)は、モデリング手法を通じ、組込みシステム技術者の人材育成、地域の人材育成を行う事を目的としたロボットコンテストである。

ここでは、去る2014年11月19日(水) 20日(木)の二日間、組込み総合技術展(ET2014 主催:JASA)の併設イベントとしてパシフィコ横浜にて開催されたETロボコン2014チャンピオンシップ(以下CS)大会の報告を行おう。

ETロボコン2014チャンピオンシップ会場

図1:ETロボコン2014チャンピオンシップ会場

年間を通して開催されるETロボコン2014では、まず北海道から沖縄まで全国11地区で地区大会が開催される。今年は出場336チーム、参加者総数は実に2,000人を数えた。そして、それぞれの地区から選抜された40チームが集結し、日本一を競うのがCS大会だ。

今年は、昨年までと異なり、競技内容が昨年の2部門2クラス制から以下の2部門3クラス制に変更された。

  • デベロッパー部門 プライマリークラス
  • デベロッパー部門 アドバンストクラス
  • アーキテクト部門
競技内容

図2:競技内容

それぞれの説明は後述することにして、まずは大会当日の様子から報告していこう。

調整は走行競技の命:競技前

CS初日の早朝、会場内は既にロボットの調整に励む若きエンジニアたちの熱気で溢れかえっていた。調整は走行競技の命なのだ。

例年、「CSのコースには魔物が棲む」と言われており、過去の大会でも、地区大会からトラブルなしでやってきたチームの走行体が突然ポテンと転んだり、絶対王者といわれるチームの走行体がコースから転落したりと言ったような事件が多く起こっている。皆、環境の違いという魔物のせいだ。会場には連続参加の“名門”社会人チームも、初々しい初参加の高校生チームもいるが、面白い事にお互いが声を掛け合いながら、魔物を押さえ込むべく調整を進めている。ここまでくれば、敵も味方もないのかもしれない。こういうところもETロボコンの面白いところだ。

調整の風景

図3:調整の風景

調整の後、レギュレーション違反などをチェックするための車検を行い、レースを待つのだが、多くの出場者が、この時間を利用して会場の周りに展示されている他チーム5枚のモデル図を熱心に観察している。設計は大事だ。それは皆分かっている。そして設計に「銀の弾丸」はない。だからこそ、他人の設計思想を参考にできるこのチャンスは貴重なのだ。

設計思想の結晶ともいえる5枚のモデル図の背後に、この半年間で産み出された膨大な知見が隠れている。顔を近づけながら、食い入るように、そして時に悔しそうな表情を浮かべながら他チームのモデルを見ている参加者の眼差しが印象的だった。

モデル図を見る参加者

図4:モデル図を見る参加者

さて、一般観客も多くなってきた。黄色のTシャツを着た実行委員たちが配置に付く。満員御礼、いよいよ走行競技会の開催である。11時に開会式が始まり、その後すぐに競技会が行われる。

史上最高のハイスピードバトル?:デベロッパー部門 プライマリークラス

最初に行われるのは、技術の基礎を学びチャレンジする機会を提供し、学生の教材、新人若手社員のエンジニアリング教育として用いる事を目的とした、「デベロッパー部門 プライマリークラス」である。このクラスでは、昨年と同様の二輪走行体(Nxtway)を用いた障害物競争競技を行う。

ここで初めての方のため、ごく簡単に競技内容を紹介しよう。競技は、走行体がコースを走り、走行時間の短さを競うタイムトライアルである。コースは並行するINコースとOUTコースの2本が準備され、競技者はそれぞれのコースを一回ずつ走る。

各コースには、基本的に黒線が引かれ、光センサーでそれを検知出来るようになっている。また各コースには、段差を上ってクルリと回る「フィギュアL」や、走行体をのけぞらせ、リンボーダンスのような状態で通過しなければならない「ルックアップゲート」などの「難所」が設置されており、これらの難所で規定の条件をクリアすれば、走行タイムを減算するボーナスを得る事ができる。

二輪走行は立っているだけでもすごい。制御工学的に言えば倒立振子(とうりつしんし)である。しかし、新人が多いプライマリークラスとはいえ、さすがに全国大会出場チームの面々、まさに「ビュンビュン」という感じで、難所の段差も乗り越えながらコースをクリアしていく。驚くことにINコースの完走率も100%で、これまでのETロボコン史上最高のハイスピードバトルだったかもしれない。見応えのある走行競技となった。

Nxtwayの走行

図5:Nxtwayの走行

そんなハイスピードのバトルを制したのは、東海地区、MHIエアロスペースシステムズ(株)所属の「いずみん」だ。INコース、OUTコースともにダントツの走りを見せ、文句なしの優勝を飾ったのであった。

気がつけば、ここまであっと言う間の1時間。今年は順調である、と皆が思っただろう。果たして、この先の競技はどうだろうか。

大荒れのレース展開:デベロッパー部門 アドバンストクラス

昼食をはさんで、午後からはデベロッパー部門2つ目の競技であるアドバンストクラスがはじまる。その前に、過去のETロボコンを振り返ってみよう。

ETロボコンは、その開催当初より一貫して、ハードウェアとしてLEGOを用いることを条件とし、UMLなどのモデリング言語を用いたソフトウェア設計と、ソフトウェア実装を競い合うものであった。近年、認知度の向上と共に参加者数も増大し、ボランティアの私たちはうれしい悲鳴をあげたが、それに伴って、毎年続けて出場している経験値の高いチームと、初出場を含む経験値の低いチームとの間に大きな差が見えてきたことが課題となってきた。そこで、本年度は敢えて難易度別、目的別に競技クラスを分割することにしたのである。

それゆえ、より高度に技術応用できるスキルを磨く機会を提供することを目的とした「デベロッパー部門 アドバンストクラス」には、ETロボコン実行委員がこれでもか、と詰め込んだ難題、課題が詰まっている。

走行体は本年度初お目見えの新しい3輪走行体(Nxtrike)。モーター部ギア比を選択可能、高速走行可能な三輪車で、ステアリングに「あそび」があり、操舵させるだけでも一苦労である。

Nxtrikeの走行

図6:Nxtrikeの走行

難所もより難しくなり、凸凹路を走破する「モーグル」、高い段差を飛び越える「ジャンプ」、狭い直角コーナーの「フィギュアLターン」、正確な車庫入れを競う「直角駐車」や「縦列駐車」など、もりだくさんだ。

そして今年の難所の目玉がOUTコースに設置された「仕様未確定エリア」だ。ここは、大小の障害物がコース走行を邪魔するエリアなのだが、重要なのは障害物の位置が大会当日の朝8:30まで発表されないことだ。すなわち、参加者は当日朝の発表を待って、慌てて現場でソフトウェアの調整をしなくてはならないという理不尽な仕様なのである。

今回の目玉としてこの難所を設けたのには、より現実的な設計品質の善し悪しを問う出題者側の意図があった。すなわち、仕様変更や保守時の改変が求められた時に、いかに迅速かつ高精度にソフトウェアを変更できるか?言い換えれば、「保守性」「変更容易性」といった設計品質を意識して設計をしているか?というところに重きをおいた難所である。

午後12時45分。いよいよデベロッパー部門アドバンストクラスの競技会である。我々も固唾をのんで、その走りを見守る…が、ここでCS大会の魔物が牙をむいた。地区大会で颯爽と走っていたはずの走行体が次々とコースを見失い、脱輪していき、完走するのも稀という大荒れの状況となってしまったのだ。

食い入るように見つめる参加者や観客の失意の声があがり続ける中、それでも華麗なウィリー走行を決めたり、凸凹路を走破したりと難所をクリアするチームも現れる。けなげにも仕様未確定エリアへ突入する数少ない走行体へは観客から「がんばれ」の声もかけられる。1時間半の激闘は、終わってみれば、エンジニア魂むき出しの熱い競技会であったと思う。

会場の様子

図7:会場の様子

アドバンストクラスの競技会において、INコースでは東京地区の「ごばりき2014」 が、OUTコースでは北海道地区の「Champagne Fight」がそれぞれ最高得点をたたき出したが、残念ながら両チーム共にもう一方のコース記録に恵まれなかった。最終的な優勝は東海地区、(株)デンソークリエイト所属の「R3-D7」が飾り、例年通り東海地区が強さを見せつけた。

次回は、もう一つの競技であるアーキテクト部門について紹介していくので、お楽しみに。

【関連URL】
ETロボコン2014公式サイト

株式会社コギトマキナ代表取締役社長 / システムズアーキテクト

1991年に日本アイビーエム大和研究所入社、社内外の多種多様な組み込みシステムの製品開発に従事後、組込みシステム開発のエバンジェリストとして活動。「ストーリーのあるモノづくり」を旗頭に2012年に独立。他、ETロボコン本部審査委員、IPA/SECソフトウェア高信頼化推進委員会、鶴岡高専特命教授など兼任し、組込み開発業界のスキマ家具屋さんとなっている最近。海が好き。

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