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  インタビュー

KVHとミドクラの協業から見えるOpenStackの現状と将来

2015年2月27日(金)
渡邉 利和

KVHは、自社保有の光ファイバ・ネットワークやデータセンターを中核として、法人向けのさまざまなITサービスを提供している。金融機関等を多く顧客に抱える高品質なデータセンター、というイメージが強い同社だが、クラウドサービスの提供にも積極的に取り組んでいる。同社が提供する「KVH プライベートクラウド」は“完全占有型のホステッドプライベートクラウドソリューション”と位置付けられている。一般的なパブリッククラウドのようなマルチテナント型のサービスではなく、ユーザー毎に用意された専用環境をクラウド型の月額課金モデルで利用できるというもので、セキュリティやシステムの安定性を重視するユーザーのニーズに対応する。従来のサービスはVMwareをプラットフォームとして採用していたが、2014年7月にミドクラジャパンが提供するネットワーク仮想化ソフトウェア“MidoNet”を採用した「プライベートクラウド Type-S」を追加した。プライベートクラウド Type-Sでは、運用管理ソフトウェアとしてOpenStackを採用した点も注目が集まる。

ここでは、KVHとミドクラジャパンのそれぞれの担当者にこの新しいプライベートクラウドサービス実現の背景とOpenStackの今後の展開について聞いた。

KVH株式会社株式会社ミドクラ
近藤 孝至氏(シニアエキスパート)
松野 竜也氏(シニアスペシャリスト)
水谷 安孝氏(プロダクトマーケティングマネージャー)
田村 芳明氏(プロダクトマネージャ)

※所属・役職はインタビュー取材当時(2014年末)のものです

左からKVH近藤氏、松野氏、ミドクラ田村氏
左からKVH近藤氏、松野氏、ミドクラ田村氏

KVHプライベートクラウドの概要

KVHでは、プライベートクラウドサービスについて現在大きく2通りのアプローチを採っています。1つめは業界特化型のアプローチで、たとえば金融業界向けのFISC準拠のプライベートクラウドや、あるいはクレジットカード業界向けのセキュリティ基準であるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)に準拠したプライベートクラウドなどの提供を行っています。現状では、金融業界などにフォーカスしたプライベートクラウドの提供を行っている競合はほぼないため、パブリッククラウドではカバーしきれないニーズに対応するアプローチとして好評です。もう1つは、テクノロジー・ドリブンのアプローチで、SDN/NFVやOpenStackといった新しい技術を積極的に活用することで新たな価値を生み出し、競争力を高めていく取り組みです。7月に発表したプライベートクラウド Type-Sはこちらのテクノロジー・ドリブンの取り組みに位置付けられます。

※FISC:The Center for Financial Industry Information Systems/金融情報システムセンター、金融業界でのIT活用に関して、主に安全性/安定性の見地からの研究/情報収集を行っており、各種ガイドラインの制定/公開も行っている

KVH水谷氏
KVH水谷氏

以前から提供していたKVHプライベートクラウドは、VMwareのプラットフォームに基づく環境で、ストレージ、サーバ、L2のネットワーク・ファブリックがあり、自社製のクラウド・コントローラであるTurbineでコントロールする構成となっていました。このサービスに対するユーザーからの要望としては「ファイアウォールを追加したい」「ロードバランサを追加したい」といったものが多く、場合によってはこれらの追加のネットワーク機器のコストがシステム全体のコストの半分くらいを占めるといった状況になることもありました。そこで、こうした機器の機能を仮想化してクラウド環境側に内包してしまい、安価かつ迅速に提供することを目指したのが今回のType-Sのサービスです。ファイアウォール、ロードバランサ、仮想スイッチといったネットワーク機能は、MidoNetが提供するものを使っています。

プライベートクラウド Type-S
プライベートクラウド Type-S

MidoNetとOpenStackを採用した理由

採用決定の順序は、まずMidoNetで、続いてOpenStackの導入が決まったという流れになります。当初MidoNetの採用を決定した時点では、自社開発のクラウド・コントローラである“Turbine”の活用を軸に考えていたためです。Turbineは、内部的にスイッチにログインし、あらかじめ定義されたスクリプトを実行することでスイッチ固有の設定コマンドを起動する、という動作を行うことでよく使われる設定変更などを自動化するツールとして実装されたものです。この仕組みをファイアウォールやロードバランサ、L3スイッチなどに幅広く対応させていくのは今後の開発負担が大きく、コストも掛かることが予想されます。そこで、まずはネットワークに導入を求められている各種機能を個別のネットワーク機器で実現するのではなく、MidoNetのようなソフトウェアで実現すれば、機器ごとに異なるコマンド体系に対応したり機器ごとに動作確認を行ったりという負担が軽減されることが期待できます。

KVH松野氏
KVH松野氏

もちろん、この時点でMidoNet以外にも競合する製品がいくつかありましたが、MidoNetを選んだ最大の理由は「スケールアウトに対応している」点と、「オーバーヘッドが小さかった」点になります。当初からプライベートクラウド環境での利用を想定していたため、対象となるネットワーク規模はごく小さいところからスタートし、必要に応じて徐々に拡大していくという形になります。この点で、競合製品では最初からある程度大規模なネットワークを想定している製品が多かったこともMidoNet採用の理由となりました。さらに、ミドクラジャパンは日本国内に開発拠点を置いている点も、密接な連携を取りやすいという点で高評価に繋がっています。

その後、自社製のTurbineを使い続けるよりもOpenStackを採用する方がさらに運用管理が簡単になるのでは、ということになり、検討したところMidoNetとも連携できるし、Turbineでやっているような開発作業も不要になるということで、Type-Sではクラウド・コントローラに関してもTurbineからOpenStackに変更することになりました。ただし、現状では従来Turbineベースで提供しているプライベートクラウドをすぐに止めるという予定にはなっていません。将来的にはVMware+OpenStackという構成もあり得るでしょうし、どのような形にするのが最善なのか、検討を続けていくことになります。現状でも、安定性や信頼性を重視するユーザーはVMware+Turbineという環境のプライベートクラウドを選択し、Web系やインターネット系で新しいサービスの実装を考えているユーザーはType-Sを選ぶなど、棲み分けが出来ている状態です。なお、現在は“OpenStack”というキーワードが注目を集め、そこに関心をもつユーザーも多いのは確かです。

某出版社で雑誌や書籍の編集者として勤務していたが、2000年に退職し、以後はフリーランス・ライターとして活動中。もともとはUNIXとTCP/IPに関心を持っていたが、UNIXマシンがワークステーションからエンタープライズ・サーバーへと市場をシフトするのに引きずられ、いつの間にかエンタープライズIT関連の仕事が増えてきた。最近は、SDNやビッグデータ対応がネットワーク/ストレージのアーキテクチャに与える影響について興味を持っている。

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