KVHとミドクラの協業から見えるOpenStackの現状と将来
MidoNetがもたらすユーザーメリット
Type-Sでは、ユーザーがOpenStack環境(Horizon)を直接使い、サーバやストレージ、ネットワークなどのクラウド環境の構成を自分で自由に設定できます。従来のVMware+Turbineという環境では、サーバとストレージ、L2のシンプルなネットワーク構成に関してはユーザーがTurbine経由で設定変更できたのですが、パケットフィルタリングやルーティングの設定などの高度なネットワーク設定はKVH側で行うことになっており、ユーザーからのサービスリクエストを受けて数営業日以内に対応する、という形になっていました。Type-Sでは迅速性という点で大幅に進化したと言えます。
KVHでは、2010年にKVH IaaS(KVHイアース)というクラウドサービス向けのポータルサイトを立ち上げた時点から“自動化”を強く意識しており、「できるものは全て自動化する」というポリシーで環境を構築してきました。Type-Sのセルフサービス環境もその流れで実現したものといえます。
なお、MidoNetは完全な分散アーキテクチャを採用しており、競合製品に見られるような、コントロールノードなどを別途用意するような形ではないため、スモールスタートの際にも余分なオーバーヘッドが生じることはなく、かつ規模の拡大もそのままリニアに対応できます。
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ミドクラは、創業メンバーがAmazonやGoogleの出身者だったこともあって、元々のフォーカスは「クラウドのためのテクノロジーを開発する」という点にあり、特に大規模なパブリッククラウドを実現するためのテクノロジーの研究開発に取り組んでいました。
技術開発に関してまず取り組んだのは“スケーラビリティ”の実現です。一般にスケーラビリティというと大きくする方向のみがイメージされがちですが、ミドクラでは「小さいものから大きいものまでリニアにカバーできる」ということを重視しています。次いで、耐障害性(フォールトトレランス)、この2つの要素を重視している点がMidoNetの特徴と言えます。
こうした経緯から、当初はパブリッククラウド事業者をターゲットとして想定した面もありましたが、KVHとの連携の過程で新たなニーズが見えてきました。たとえば、当社でもパケットフィルタリングやルーティングといったある程度のネットワーク機能は実装しておく必要があると考えてはいましたが、KVHのようなユーザーはもっとリッチなネットワーク機能を必要としていることがわかったのもその1つと言えます。こうしたニーズを受けて、それまでの研究開発で実現した強力なファウンデーションの上にリッチなネットワーク機能を載せる、という現在のMidoNetの形ができあがり、小さなネットワークから大きなネットワークまでリニアにカバーできるシステムに成長したという経緯です。なお、MidoNetは完全な分散型アーキテクチャとなっているので、OpenFlowに見られるような「送り先の分からないパケットが届いた場合には中核のコントローラに問い合わせる」といったアプローチではなく、できる限りローカルでハンドリングする仕組みになっています。こうした点も、ネットワークが大規模になった場合でも安定して動作する理由となっています。
OpenStackの現状とMidoNetの役割
OpenStackを採用する時点で、「OpenStackの機能だけでもMidoNetと同等のものは出来るのでは」という話があったので、実際にKVHでも調査しましたが、その過程で分かったのは多くのユーザーがネットワーク周りのトラブルに悩まされているということでした。OpenStackでは、サーバやストレージの制御に関する部分の熟成は進んでいる一方、ネットワーク周り(Neutron)の開発はやや遅れ気味で、信頼性や安定性という観点ではまだ問題が多いようだと言うことが分かってきました。一方、KVHではMidoNetを採用しており、MidoNetがOpenStackに対応してHorizonからの制御を受け付ける、という形になっているため、Neutronの不安定さの影響は一切受けることがありませんでした。この構成が、OpenStackを活用した商用サービスをスムーズに提供開始できた大きな理由ともなっています。
ミドクラでは、従来クローズドソースで開発を進めてきたMidoNetをオープンソース化することを昨年11月に発表しました。開発の初期段階ではオープンソース化によってフォーカスが揺らぐ懸念があることなどを理由にクローズドソースを選択しましたが、MidoNetが成熟して広範な支持を得られるレベルに達したこともあり、オープンソース化が可能になったと判断しました。また、Neutronの成熟が進まず、ネットワーク・ベンダー各社のバラバラな取り組みによって開発コミュニティが分断化されている現状に対し、オープンソース化されたMidoNetが「安定性と拡張性が高く、構築しやすい商用利用レベルのネットワーク仮想化ソフトウェア」としてコミュニティに提供されることになります。同時にこのオープンソース化によって、従来MidoNetに関心を持ちつつもクローズドな製品だという理由で利用をためらっていたユーザーが試用に取り組み始めるなど、これまでとは規模の違うレベルのユーザーコミュニティの拡大が始まっていることも感じています。
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クラウドOSないしはクラウドオーケストレータと呼ばれるソフトウェアの中では、OpenStackがIT業界全体に渡る広範な支持を獲得し、デファクトスタンダードといって過言ではない地位を獲得しているのは周知の通りだが、ことネットワーク周りに関しては少々混乱した状況にあるのも間違いない。ネットワークの仮想化に関しては、OpenStackのネットワークモジュールであるNeutronに開発が一本化される状況ではなく、ネットワーク・ベンダー主導のネットワーク仮想化実現の取り組みとしてオープンソースの“Open Daylight”プロジェクトが並行して活動している。Open Daylight側ではOpenStackを支持しているものの、NeutronではなくOpen Daylightを中核に据える方向で開発を進めるなど、確かに分断といえる状況が生じているといえる。こうしたベンダー主導の状況に対して、KVHのようなユーザー側の企業が積極的にOpenStackを活用し、かつパートナーとなったミドクラジャパンとともに現実的な解決策を確立して商用サービスを開始、さらにミドクラはMidoNetをオープンソース化する、というここまでの流れは、やや混乱状態にあるOpenStackのNeutron開発の現状を打開し、新たな一歩を踏み出すためのきっかけとなるかも知れない。
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