国内クラウド最新動向 可用性と堅牢性で米国勢を追走へ
海外有力ベンダーのクラウドへの動き
「クラウド技術解説」と題した本連載1回目では、国内におけるクラウドの最新動向について解説していく。
多くの企業がITコスト削減を迫られている一方で、ビジネス効率化にはシステムが不可欠である。現在、ITリソースの効率的な活用やTCO(総保有コスト)の削減などの観点からクラウドコンピューティングが注目を集める。
メインフレームによる集中管理から、クライアント/サーバーによる分散処理、そしてWeb技術による連携処理といった企業システムの一連の流れの中で、また1つ大きなうねりが起きようとしている。必要な時に必要な分だけITリソースを利用できるクラウドコンピューティングだ。
クラウド市場をけん引してきた1社が米アマゾン・ドットコムである。同社は2006年8月、サーバーのプロセサやメモリーといった仮想マシンを貸し出す「Amazon EC2」を提供開始。1カ月単位で必要なリソースだけ借りられること、しかも安価であることから、中小企業を中心に利用者を増やした。
2007年7月にセールフォース・ドットコムが「Force.com」と呼ぶPaaS(Platform as a Service)を、2008年5月にはグーグルがやはりPaaSである「Google App Engine」を発表。それ以降、この3社を中心にクラウド市場は盛り上がりを見せてきた。
信頼性とセキュリティーで海外勢と差異化狙う
もちろん、国内の大手ベンダーも手をこまぬいているわけではない。2009年に入り、大手コンピューターメーカーがクラウドサービスを相次ぎ発表。これにシステムインテグレータや通信事業者、ホスティング事業者が続き、先行する米国勢を追撃する構えを見せる。
ただし、後発の国内ベンダーが米国勢と横一線でしのぎを削るという構図には至っていない。とりわけ価格面に着目すると分が悪い。「国内にデータセンターを設置すると、土地代や電気代などの面で維持費が海外よりも高くなる。海外サービスの価格に近づけるのは難しい」(野村総合研究所 情報技術本部 技術調査部 上級研究員 城田真琴氏)。
EC2を例にとると、もともとはアマゾンが自社のネット通販システムに使っていた大規模リソース群だ。クリスマスシーズンなどのピーク時以外はシステム基盤に余力があり、これを一般向けサービスに転用した背景がある。誤解を恐れずに言うなら、「安く提供するので使いたいユーザーはご自由にどうぞ」というスタンスなのだ。
これに対して日本のベンダーは可用性やセキュリティーなど企業システムに不可欠な技術に特に力を入れている姿勢を示しつつ、かつ、初期の相談時から後々の運用まで顧客企業と「がっぷり四つ」で組むアプローチを採る。これまで顧客の懐に食い込んでシステムを開発してきたスタイルの延長線上にクラウドビジネスを位置づけているのだ。