国内クラウド最新動向 可用性と堅牢性で米国勢を追走へ
業種ごとに異なるサービスの強み
ここで、クラウド市場におけるプレーヤーの動きを概観しておこう。
2009年の春、大手コンピューターメーカーが相次ぎクラウドサービスに乗り出した。4月、NECは「クラウド指向サービスプラットフォームソリューション」を、富士通は「Trusted-Service Platform」をそれぞれ発表した。続いて6月には、日立製作所が「Harmonious Cloud」で追随。各社ともに、自社製のハードウエアを使い、信頼性の高いサービスを提供できることを訴求する。
一方、システムインテグレータもクラウドをビジネスチャンスととらえて動き出した。特定の製品や技術に縛られない立場を生かし、複数ベンダーのソフトやハードを組み合わせ、ユーザーに幅広い選択肢を提供していく。
中でもいち早く動いたのは、新日鉄ソリューションズである。同社は2007年10月から「absonne」と呼ぶPaaSを提供済みだ。伊藤忠テクノソリューションズは2009年7月、「Techno CUVIC Pro」を発表した。これは、同社のIaaS(Infrastructure as a Service)である「Techno CUVIC」上でOSやミドルウエア、開発環境をネットワーク越しに提供するサービスである。他社のクラウド環境で運用も可能だ。
このほか、NTTコムウェアは2009年度中のサービス開始を目指し、「Smart CLOUD」を開発中だ。NTTデータも、「共通IT基盤サービス」を2010年度に開始すると言う。
通信事業者も、国内クラウド市場において存在感を示している。ハードやソフトだけでなく、ネットワークまで含めてサービス品質を管理できるという優位点があるからだ。
KDDIは2009年3月に「KDDI クラウドサーバサービス」を発表した。7月に提供を開始したネットワークサービス「KDDI Wide Area Virtual Switch」を利用し、データセンター向けの通信を識別して高速通信環境を実現する。NTTは、信頼性を重視した「CBoC」の開発を進めている。NGN(次世代ネットワーク)と組み合わせ、セキュアなクラウド環境の構築を目指す。
ホスティング事業者は、これまでのデータセンター運用実績とノウハウをひっさげ、クラウド市場に切り込む。IDCフロンティアは2009年6月、「NOAHプラットフォーム」と呼ぶPaaSを発表した。多重構造の空調システムや空気中の微粒子を検知して火災を予兆する検知システムといったサーバーの保全設備が“売り”である。
大手外資系ベンダーの動きもいよいよ活発になってきた。マイクロソフトは2008年10月に「Windows Azure」を発表。2009年10月のサービス開始を控え、同年7月に価格を明らかにした。
日本IBMは2009年7月に「IBM マネージド・クラウド・コンピューティング・サービス」を発表した。同社はクラウド向け製品・サービスを「Smart Business」と称して統合。ラインナップの充実を進めている。
データ保管場所についての懸念
クラウドの選択肢は充実してきたが、企業がとかく問題視するのはデータの保管場所だ。データを海外に保管することに抵抗を感じるユーザー企業は少なくない。ちなみに、EUでは1998年に施行した「データ保護指令」により、EU圏外への個人情報の持ち出しを規制する。日本ではこうした法律はないものの、「企業の売上情報や商品開発情報を海外に預けるわけにはいかない」という認識が浸透している。IT資源のブラックボックス化が行き過ぎると懸念材料が増える側面もあるわけだ。
解決策の1つと目されているのが自社専用のクラウド環境を構築し運用する仕組みだ。これを、クラウドベンダーが提供する「パブリッククラウド」に対して「プライベートクラウド」と呼ぶ。
では、それそれのクラウドはどのような場面で選択していけばよいのか。