ビッグデータの前に汚い仕事が必要、Tamrが訴える「ノットセクシーなビッグデータアナリティクス」とは?
2017年2月7日と8日の2日間、都内にて「Big Data Analytics Tokyo」と称されたイベントが開催された。これは言語解析ソリューションを提供するBASIS Technology、ビッグデータ及びAI関連のカンファレンスを主催する企業のOpen Data Science Conference(ODSC)、そして「The AI Summit」という北米のAI関連のカンファレンスがスポンサーとなったビッグデータ及びAIに関する有償のイベントだ。約400名の登録者を迎えて、日本IBM、ブレインパッド、Cloudera、Elastic、Google、東京大学などからのスピーカーが講演を行った。
イベント初日は、Cambridge Innovation Center(CIC)の創業者兼CEOのティム・ロウ(Tim Rowe)氏、ブレインパッドの代表取締役会長の草野隆史氏、画像解析のベンチャーDitto Labの創業者兼CEOのディビッド・ローズ(David Rose)氏がキーノートスピーカーとして登壇。いわゆるビッグデータと言ってもHadoopやSparkなどのソフトウェアを軸に置くのではなく、あくまでも「ビッグデータを活用してビジネスに活かす」ためのアイデアを共有するという発想でスピーカーやトピックが選択されているようだ。またスポンサー、も上記3社は「Organizing Sponsors」として位置付けられているが、Gold Sponsorとして挙がっている会社名を見るとアシストやブレインパッド以外は、ほとんどがアメリカのベンチャー、それもMITがあるボストン、ケンブリッジに集結しているビッグデータとディープラーニングのベンチャーということで、スポンサーシップの目的は日本でのパートナー探しといったところだろう。
CICのロウ氏のプレゼンテーションは「ケンブリッジがベンチャーのインキュベーションのために、どれだけ有利なのか?」をひたすら訴求するものだ。MITに隣接することで優秀なタレントとアイデア、それに資金が集まるという。優れたイノベーションには資金(Money)、アイデア(Idea)、才能(Talent)が必要、つまり「MITなんです」とMITの卒業生らしいジョークを交えて開発者、研究者が物理的にそばにいることでイノベーションが起こることを、リサーチデータを元に訴求した。
次に登壇したブレインパッドの草野氏のキーノートは、ブレインパッドの創業から現在にいたるまでの経緯、さらにビジネスの概要などを語ったもので、ビッグデータに関する市場からの理解の低さに由来する起業の難しさを語ったものだった。
3番目に登壇したローズ氏は、インターネットに溢れている写真などからブランド名などを抽出することでマーケティングに活かすDitto Labsの概要を語った。このように初日のキーノートは三者三様の内容で、よく言えば多様性に富んでいる、悪く言えば全体として方向性の見えないプレゼンテーション3連発であった。
この記事では2月7日午後に行われた「エンタープライズの知られたくない秘密」(原題:The Dirty Little Secret of Enterprise Data)と題されたTamr(「テイマー」と読む)のCEO、アンデイ・パーマー(Andy Palmer)氏が行った講演のサマリーをお届けする。
パーマー氏のプレゼンテーションに注目していたきっかけは、Tamrのソリューションがヨーロッパのトヨタで利用されているということを知っていたからだ。これは事前に行われたこのカンファレンスのスポンサーであるBASIS Technologyでのプリーフィングで明かされたもので、トヨタはTamrのソリューションを活用して国をまたがる顧客の情報を統合することで、顧客満足度を向上させているというものだった。ヨーロッパ、特にEU加入国は人の出入りが自由であることから、顧客情報を活用しようとすれば、どうしても各国で管理している顧客情報を統合する必要がある。それを実現したのが、Tamrのソリューションであったというわけだ。またGEの事例もプレゼンテーションでは紹介され、調達においてコストを下げるという効果があったという。
前後したが、Tamrの紹介をしておこう。Tamrは、ビッグデータに関するコンサルティング、ソリューションを提供するベンチャーだ。UCB(University of California, Berkeley)でリレーショナルデータベースの研究を行っていたマイケル・ストーンブレーカー(Michel Stonebraker)氏と、Vertica(HPが買収)の創業者であるパーマー氏が共同創業者を務めている。ストーンブレーカー氏はかつてPostgres(PostgreSQLの前身)の開発にも携わっており、InformixのCTOであった時期もあるという。リレーショナルデータベースの世界では、著名な人物と言っていいだろう。
今回のプレゼンテーションでパーマー氏は、ビッグデータとしてデータが活用される以前にエンタープライズにはやらなければならない汚い仕事があるが、それをこれまでのETLのツール(Extract、Transform、Loadの略で、データをデータウェアハウスなどで利用するための準備工程に使われるツールを指す)でやることは非常に難しいと説明し、そこにTamrのソリューションが適応できるという点を訴えた。特に大企業においては様々な部門や事業でデータが生成されており、それらを統合する難しさが増しているという。つまりこれまでのビジネスドメインごとのデータであれば個々のツールで対応できたものを統合する際に、従来のツールでは現代のデータ量の増加に対応できないという点を協調した。要するに、ビッグデータアナリティクスの前にデータの統合という汚い仕事、セクシーではない仕事を終わらせないと、データを役に立てることはできないというわけだ。
これに対してTamrのソリューションであれば、データが増えても問題なくデータの統合ができるという。たとえばGEの事例では、数多くの部門に存在するデータを統合することで、顧客やサプライヤーの情報が分散されて的確な判断が下せない状況が解消されたという。その際にポイントとなる既存システムとの連携に関しても、様々なERPを始めとしてSalesforce.comやMarketoなどのSFA、マーケティングオートメーションの製品とも連携することで、システム化に成功しているという。
TamrのCEOのプレゼンテーションは具体的な事例を挙げてビッグデータアナリティクスの前段階である準備工程の必要性を訴求するものだった。ヨーロッパトヨタの事例にもあるように、グローバルなビジネスを展開する企業にとってはビッグデータをより活用するために意外と見落とされがちな部分にフォーカスを当てたソリューションといえるだろう。次回は、Tamrのチーフデータオフィサーへのインタビューをお届けする。
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