クラウド時代の画面と帳票

2010年4月16日(金)
永井 一美

クラウドを介したアプリケーション提供

ここまで、クラウド・サービスの分類やクラウドで使われる技術について紹介しましたが、行き着くところは情報処理システムです。アプリケーションが動作し、それを利用者が利用することで効果、効能を生み出します。

以前から、ASP(Application Service Provider)という、アプリケーションをホスティングする方法がありました。よく議論になっていますが、ASPはSaaSとどう違うのでしょうか。これは「ネットワーク・コンピューティングの世界が進化したことで、ASPもSaaSに進化したのだ」と考えてよいと思います。

SaaSを特徴付けるキーワードとして、以下の2つがあります。

  • マルチテナント
  • マッシュアップ

マルチテナントとは、テナント(契約者)単位にホスティングするのではなく、1つのアプリケーションを複数のテナントで共有するものです。このためには、アプリケーション側がその構造を持っていなければ実現できません。データも処理もテナントを超えて干渉してはいけません。

マッシュアップとは、Web2.0以降での用語で、機能がコンポーネントとして提供されていたり、他社のアプリケーション/サービスと連携できたりと、柔軟に機能を拡張できる形態を指します。

クラウドの最終的な目的は、アプリケーションを利用者に提供すること、利用してもらうことです。すなわち「Webシステム」の提供です。前ページでクラウドの技術を紹介していますが、クライアント側の課題はWebシステムと同様なのです。
 

クラウドとリッチ・クライアント、そしてSOA

HTMLによる汎用的なWebブラウザ画面においては、クラウドもWebシステムと同じ課題を抱えています。つまり、クラウドにおいてもリッチ・クライアントが必要です。

PaaSでは、クラウド・ベンダーがアプリケーション開発プラットフォームを提供しています。ここで、サーバー側の技術に閉じず、リッチ・クライアント技術を利用できる環境を提供してくれればよいのですが、なかなかこうしたサービスはありません。

既存システムからの移行や既存システムとの連携も、重要な話題です。現状では、既存システムをPaaSに移行することは簡単ではありません。

SaaSについて説明した際に「マッシュアップ」の話をしましたが、今後はクラウド間を融合/連携させる事例が登場するでしょう。その際、異なるサーバー群同士(別クラウド)の融合/連携は難しい場合もあるでしょう。

こうした際に、SOA(Service-Oriented Architecture)が重要になります。SOAは、サービスをネットワーク上で連携させる仕組みです。SOAを支える基本的技術がWebサービスです。

サービスがクラウド化し、データがWebサービス化し、マッシュアップはクラウド側で、また、SOAによりクライアント側でも行われる。これが理想ではないでしょうか。この際に利用するリッチ・クライアント技術は、サーバー側と疎結合であることが必要です。これにより、企業間でも、海を隔てた関係でも、それがどんな種類の雲のサービスでも、連携して利用できるのです。

クラウドと帳票の関係

前回解説しましたが、帳票は日本独特の文化です。こうした帳票を実現するためには、ツールが必要です。ところが、帳票ツールは、各企業やベンダーが簡単に作れるものではありません。

海外のクラウド・ベンダーのプラットフォームに日本向けの帳票ツールが搭載されることはありません。しかし、国内クラウド・ベンダーは、機能として帳票を組み入れることがあるでしょう。

なお、帳票は業種業態によってテンプレート化が可能です。盛んに叫ばれている自治体クラウドや、企業グループ内のプライベート・クラウドが発展する中で、帳票の設計/実行が可能なクラウド・サービスも登場し、別クラウドから利用されるようになるでしょう。

本記事の最後に、クラウド・ベンダーについて少し触れます。

既存事業でのスケール・メリットを生かしている海外ベンダーと、すでに既存の顧客を持ち、そのシステムをオンプレミスで提供してきた国内ベンダーでは、企業をクラウドに誘導する方法論が本来異なっていると思っています。

また、利用する企業側とすれば、情報漏えいやデータ紛失などの予期せぬ事態において、システム保有企業としての法的責任を海外のクラウド・ベンダーに問えるのか、といった問題があります。海外ベンダーが日本国内にデータ・センターを設置する動きがありますが、おそらく、こうした需要を反映しているものでしょう。今回は、全体としてクラウドの話が多くなってしまいましたが、画面と帳票を取り巻くIT環境としてクラウドの解説は外すことができません。

次回は「UIの重要性」と題して、Webシステムにおけるユーザー・インタフェース(UI)について解説します。

アクシスソフト株式会社 代表取締役社長
SI会社においてOS開発、アプリケーション開発、品質保証、SI事業の管理者を経て、ソフトウェア製品の可能性追求のため、当時のアクシスソフトウェアに入社、以降、一貫して製品事業に携わる。2006年より現職。イノベータであり続けたいことが信条、国産に拘りを持ち、MIJS(Made In Japan Software consortium)にも参加、理事として国産ソフト発展に尽力している。

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