ベンチャー企業の「ビジネス系フリーランス」活用事例
ベンチャーにおけるフリーランス起用の価値を探る
前回は、大手企業におけるいわゆる“総合職”のポジションをフリーランスが担う事例を紹介しました。今回は、ベンチャー企業におけるフリーランス活用のメリットとフリーランスの可能性を探っていきたいと思います。
株式会社ギフティ:成長過程で浮上した人材不足。
“事業運営のプロ”を求めてフリーランス活用
多くのベンチャー企業は人員やコストなどをミニマムでスタートします。最小限の人数が各自フル稼働することでスタートアップ期は人手も業務もカバーしていきますが、本格的な成長期を迎えた段階になると人材不足の壁にぶつかるという話は少なくありません。株式会社ギフティ(以下、ギフティ)も、まさにその問題に頭を抱えていました。
「会えない友人に1杯のコーヒーを」の思いから創業
ギフティの創業は2010年8月。「会えない友人にコーヒーを1杯贈りたい」という創業者の思いを出発点に、SNSなどを通じてコーヒー1杯、ドーナツ1つといったカジュアルギフトを個人間で贈り合えるサービス「giftee」を展開しています。サービス開始当初の課題は、サービスを形づくっていくこと。ベンチャーゆえに大手企業の商品を導入するのが難しく、商品数を増やすことに奔走していました。
サービスの形は作れたが、成長させていくための人材がいない
自社でプロダクトを作りながら徐々に大手企業の信頼を獲得し、商品数も増え、サービスとしての形が見え始めたのは創業から数年後。いわば新しいフェーズに差しかかったその時に浮上してきたのが人材面での課題でした。サービスの骨格が見えてきた段階で、社内に“事業の中身を作る人材”は育っている。次の段階は、事業を“運営”の視点で捉え、成長させていくための策を提案していける人材が必要。そのミッションを担える人材が不足していたのです。
正社員採用を試みるも難航。採用にかけられる予算も限界に
「運営と運用は、似ているようで実はまったく違うもの。『サービスを成長させるための施策は何か』『数字を伸ばしていく手段は何か』を考えていくのが運営で、まさにそこを強化すべき時期の人材不足でした」。gifteeの事業責任者、小林 理生さんはそう話します。小林さん自身もスタートは“作る側”としてギフティに参画しており、ちょうどこの時期に事業責任者として事業の先を見据えた“運営”に注力すべきフェーズを迎えていました。ともに施策を練り、うまくいかなかった時にどこを改善すべきなのか考察し、手を打っていける……そんなパートナーが必要であると感じていたのです。
この課題に直面した当初は、エージェントを通じて正社員での採用も試みました。ところが、事業会社でサービス運営の経験があり、なおかつ数字意識を強く持っているという理想の人物はそもそも他社(特にベンチャーのような小規模な企業)には流れにくい傾向にあり、採用は難航。大企業に比べて採用にかけられる予算も限られている中、長く採用活動を続ける余裕もありませんでした。
働き方に制約があるフリーランスでも優秀な人がいるなら
そんな行き詰まりを感じていた時、職務経験が豊富で専門性の高いプロフェッショナルなフリーランス女性と企業とをマッチングするWarisの存在を知りました。そこで、採用の方向を転換。「出産や子育てで一時的に仕事をセーブしていたり、フルタイムでは難しいけれど可能な時間内で働きたいという人の中で、条件に合う優秀な人がいるならぜひ」と、フリーランスとのマッチングを依頼しました。
その後、大手情報サービス関連企業に総合職として9年間勤めた経験があり、Webサービスのディレクションや企画を専門とする、フリーランスのOさんをチームに迎えることになりました。
リモート週3日稼働で、どうコミットさせればよいのか悩む
理想のスキルと経験を備えたフリーランスの採用で、人材面での課題をクリアしたとはいえ、Oさんの起用が最初から順風満帆だったわけではありません。「サービスを運営する事業なので、予期せぬトラブルが起きることもありますし、業務の波が読めないことも多々あります。そうした当社の事業の特性と、正社員とは違い時間も場所も制約のあるフリーランスの働き方をどうフィットさせるかということに当初は難しさを感じていました」と、小林さんは振り返ります。
Oさんは週3日で10~16時稼働、うち週次ミーティングのある1日が出社という就労契約。出社以外の2日間はリモートで業務を行います。小林さんはその勤務スタイルに対し、週3日ではお互いにコミットし辛いだろう、メイン人材として頼りたいけれど頼り切れない……そんな葛藤を抱えていたそうです。
新しい働き方で生じる懸念事項を、一つひとつ試行錯誤
また、週3日という時間制約とともに、リモート中心という場所制約の難しさもありました。ひとつはセキュリティの問題。重要なデータを扱うこともある中でアクセス制限をかけることは必要ですが、とはいえ業務に差し支えては意味がない。そしてもうひとつ、コミュニケーションの機会の少なさをどうカバーするか。社内のチームメンバーがOさんの働きを知る機会がなく、「彼女は何をしているのか?」と思ってしまうことは、お互いにとってマイナスです。
ギフティに限らず、これまでにない人材活用に取り組む場合は、新しい働き方を現場になじませていく過程で少なからず小さなズレや歯痒さがさまざまな場面で生じてきます。小林さんは、そうした懸念事項の一つひとつに試行錯誤を重ね、どのような対処であればOさんの働き方にフィットするのかを探りました。
時間制約も場所制約も、工夫次第で問題は解決できる
時間に制約がある働き方で、どう最大限に能力を発揮してもらうか。この問題に関して、小林さんは仕事の切り出し方を少しずつ変えながら最もフィットする着地点を見つけることで解消しました。当初は1日単位でやってほしいことを切り出して依頼していたところから、もう少し長いスパンに変え、「2週間でやり抜いてほしいこと」「1ヶ月で達成してほしいこと」といったペースに変えていったところ、小林さんにとってもOさんにとってもより効率良く課題に取り組めるとわかったのです。また、Oさんの立場をメイン人材であることに違いはないけれど、“実戦部隊というよりは司令部で作戦を練る役割”と捉え直したことで葛藤もなくなりました。
セキュリティの問題に関しては設定を変えながら試し、リモートデスクトップで社内のPCに制限付きでアクセスするという方法に落ち着いています。また、チームの一員として社内の理解をどう得ていくかに関しては、週1回のチームミーティングに参加することはもちろん、その際に必ず本人の口から仕事の現状や考えていることを報告してもらうことで、コミュニケーションを図っています。
このようなさまざまな試行錯誤を経て、Oさんは同じ事業に取り組むチームの一員、司令部の作戦係という立場で、最大限に能力を発揮しています。
社内事業責任者と二人三脚でサービス運営の司令部を担う
Oさんがギフティで担う役割は、giftee運営における目標値の設定や、それら数字の見える化、達成していく上で必要な仕組み作りなど。データベースの中から簡単に適切な数字を抽出できる方法を考える、あるいは抽出しなくても数字を取れる仕組みを作るといった部分でプロフェッショナルなスキルを生かしています。さらに、想定外に役に立っているのが前職で経験した事業計画のプランニング。事業責任者である小林さんの専門はデジタルマーケティングのコンサルティングで、事業計画の中にある“目標”を達成することは大得意である一方、年間スパンで計画を立てることには経験不足を感じていたため、Oさんの知識や助言がサポートになり学びにもなっているそうです。
運営にプロフェッショナルの手が加わったことで、課題解決のスピードも増したと感じている小林さん。今ではOさんが小林さんの「よき壁打ち相手」なのだとか。「事業責任者であり、チームマネージャーでもある私自身が腰を据えて手を動かせる時間は限られています。そんな中で、例えば“5分だけ雑談させて!”とOさんに考えていることをバーッと話します。すると、30分後には“こういうことだと思うので、こうするのはどうですか?”と返してくれるんです。1人で考え込んで行き詰まることも多かったので、まさにこういう存在が必要だったのだと実感しています」と小林さんは話します。
フリーランス活用の主なメリットは2つ。
フラットな視点と引き出しの多さ
実際に多くの工夫や調整は必要となりましたが、それ以上にフリーランス人材起用のメリットや成果への手応えを感じているギフティ。そのメリットは、主に2つあるそうです。
ひとつは、社外人員ならではのフラットな視点を得られること。もうひとつは、複数企業の仕事を請け負うフリーランスだからこその引き出しの多さ。他業界や他社サービスの仕事で得たノウハウや知識を自社の事業の成長に活かせるのは貴重で、広い視野や経験の豊かさは社内の人間の学びにもつながっています。
サービス開始から7年が経ち、順調にgiftee事業を成長させているギフティ。今後の最大の課題は「gifteeが提唱するカジュアルギフトの文化をどう世の中に定着させていく」かということ。gifteeが目指す“ギフトで「人と人」「人と企業」「人とまち」をつないでいく”ことを実現するために何ができるのか、アイデアやビジョンを描き実戦しながら探り続けていく必要があります。その道筋においては、必要なタイミングに必要な能力を求めて、また新たにフリーランス人材・能力を活用することも視野に入れているようです。
フリーランスの適切な起用は人材補完にとどまらない成果が
ギフティの事例は、ベンチャー企業の成長段階でのニーズに合わせてフリーランスを適切に起用することが、ただの人材の補完にとどまらない成果、成長、可能性を生むことを示していると言えます。ベンチャーのみならず大企業でも、今後は優秀な人材を確保することがより厳しくなると予想できます。ギフティの事例に見る「優秀な人がいるのならフリーランスでも」といったシフトチェンジ、そして新しい人材活用におけるトライアンドエラーの試みが、今後の企業のひとつのヒントになるのではないでしょうか。
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