「働き方」と「休み方」が変われば、社員の生活も企業のカルチャーも変わる!
BFTが「ワークライフバランスプロジェクト」実施の
成果を中間発表
株式会社BFTはこの8月、自社の福利厚生向上の取り組みである「BFTワークライフバランスプロジェクト」の実施成果を発表した。これは休暇制度を始め、社員の生活支援やコミュニケーション活性化を目指した独自のプログラムで、2017年4月のスタート時点から、最長22日間の連続休暇などのユニークな内容が注目を集めていた。1年以上にわたって実施してきて得られた成果や、その具体的な内容について伺ってみよう。
社員との対話を通じて出てきたアイディアを制度化
今回の中間発表の冒頭でトピックスとして挙げられているのが、異例の日数を誇る休暇制度とその利用率の高さだ。例えば「SEの約3人に2人(同社SE100名のうち67名)は年間10日以上有休を取得。さらに同人数の年間の有給消滅日数は0日」「プロジェクト終了後、2週間以上の休みを取得できる制度で最大22日の休暇取得者も」「SEの45%が誕生日に休暇の取得経験あり」という実績に、IT業界でなくても目を見張った人は少なくないだろう。しかも社員数330名余のうち300名がSEという同社で、この数値は制度がすでに社員の間に深く浸透していることを物語っている。
そもそもこの「BFTワークライフバランスプロジェクト」(以下、「WLBプロジェクト」)とはどんな制度なのだろうか。同社代表取締役 小林 道寛氏は、「もともとあった福利厚生制度や、社員の中から出てきたアイディアをもとに作った制度を見直し、整理して、2017年から1つの体系化された福利厚生プログラムとして実施したものです」と語る。
もともと同社では、全社員が加入している「社員会」と経営陣が毎年定期的に話し合いの場を持ち、仕事や福利厚生などのさまざまな課題を話し合ってきた。この社員会の代表も社員からの推薦と選挙で選ばれ、民主的な組織運営はBFTの “社風” となっている。
今回のWLBプロジェクトには、こうした話し合いを通じて積み上げてきた長年の成果を整理して明文化し、社内制度として社員の間に広めていこうという狙いがあった。
「各種の有益な制度があっても、意外に社員はその存在を知らなかったりします。これまでバラバラに整備されてきたものを、一度まとめ直してわかりやすい形に整えるのも、周知徹底の点で大切だと思ってWLBプロジェクトの施行に踏み切りました」(小林氏)。
それだけに、制度の内容もバラエティに富んでいる。休暇制度以外にも、①社員の資格取得の費用を援助する「スキルアップサポート」、②社内の懇親会や食事会を課の予算で支援する「コミュニケーションサポート」、③各チームの主任にメンバーの啓発や親睦の活動費を割り当てる「チャレンジサポート」、④新卒社員をフォローするメンターの活動費用を支給する「ウェルカムサポート」と、目的別に細かな費用サポート制度が設けられている。
一方、社員の私生活にも十分な目配りがなされている。SEが顧客のプロジェクトの都合で自宅から遠い地域に長期間勤務する場合、現場に近い場所への引っ越し費用を会社が負担する「ムービングサポート」。また、シングルマザーになった女性に生活費や養育費を支給して子育てと仕事の両立を支援する「シングルマザーサポート」は、女性のワークライフバランスが重視される中で社会的にも大いに意義のある試みだ。
「ここで頑張れば休みが待っている!」で意欲もアップ
やはり今回の中間発表の中で最も目を惹かれるのは、冒頭でもふれた充実の休暇制度だろう。中でも目玉は「長期休暇制度:フリーバケーション2week+(プラス)」だ。これは1つの業務プロジェクト終了後に、最長2週間以上の休暇が取れる制度。休暇の使い道は自由で、旅行に行くもよし、自分のスキルアップのために勉強するもよし。プロジェクトの出口が見えたあたりで上司に休暇取得を申し出て、業務との調整がつけば休暇の理由を問われたりすることもないという。
現場のマネージャーであるSI技術事業部 第一生産部 部長 宮下 竜太氏も、「最初のうちはお互いに勝手がわからず戸惑うこともありましたが、最近はある程度、仕事の切れ目が見えると、こちらから『じゃあ休暇はいつごろ取るの?』と尋ねたりして、お互いに呼吸がわかるというか、流れが定形化できてきた感触があります」と明かす。
それにしても経営管理側からすれば、この忙しいIT業界でエンジニアに最大2週間以上の長期休暇を制度として提供するのは、かなりの勇気がいったのではないだろうか。小林氏は、この制度を思いついたのは、たまたまある社員が「1か月休みたい」と申し出てきたのがきっかけだったと振り返る。
「当時はそんな長期休暇の制度もなく、正直なところ『え、何を言ってるの?』と思いました。でもよく考えてみると、(長期休暇を)取ってはいけないとは、どこにも書かれていません。それなら逆に制度としてきちんと整備すれば、必要な人が必要な時に、もっと気軽に取得できるようになると思ったのです」(小林氏)。
制度がないままだと、どうしても上司や周囲の顔色を伺いがちになる。だが規則として明文化しておけば、よけいな気苦労なく休めることに気づいたと小林氏は言う。このもくろみは見事に当たり、中間発表ではSEの45%が「この長期休暇を取ったことがある」との調査結果が得られたとある。
それにしても、開発の実務を手がけるSEがこれだけ何日も休むと、業務に差し支えたりすることはないのだろうか。
「当社の有給休暇の取得率はもともと約80%と、日本の平均の40%に比べてかなり高く、この水準なら制度化して多少高くなっても問題ないと、実はあらかじめ読んでいました。それに長期のプロジェクトなどでは、どうしても途中で辛くなってきます。そんな時に『ここでもうひと踏ん張りすればその先でしっかり休めるぞ!』というのがわかっていれば、おのずとモチベーションも変わってきます」。(小林氏)
この結果、プロジェクトの途中で力尽きて休んでしまい、チームも本人も困るということがなくなった。また問題なく進捗している時でも、今頑張っておけば先に楽しみがあるという事実が、社員の気持ちにメリハリを与えているのも感じられると小林氏は語る。
「マネジメントの観点からは、休み方自体を変えることで、生活のリズムやプロジェクトの中でのパフォーマンスが改善されるという考えもありました。見かけ上の有給取得率にこだわるのでなく、働き方・休み方に対する自分たちの認識や、休みをより良い形で日常生活へ組み込んでいける状況を作りたいと考えています」(小林氏)。
そうした一種欧米的ともいえるワークスタイル=「働くときは働き、休むときは休む」が浸透していけば、社員のモチベーションも大きく変わってくるのではと小林氏は期待する。
休暇を生かして資格取得の勉強や音楽ライブも満喫!
実際にこの休暇制度を利用した社員の感想はどうだろう。エンジニアであり、2018年度の社員代表も務めるSI技術事業部 第一生産部 高瀬 祐輔氏は、資格取得のための勉強時間に大いに活用していると語る。すでに複数の資格を持っている高瀬氏だが、今後もこの休暇制度を使って新しい資格にチャレンジしていきたいと意欲的だ。
「自分で挑戦してみようとか欲しいと思った資格を、会社の業務命令とは別に自分で計画して取得することに大きな達成感や楽しさを感じます。自分でやろうと決めたことなので、頑張り方も全然違ってきますし、取得した資格を活用して新しい業務案件に参加できるという良い循環もできました。今では、私にとってなくてはならない休暇制度です」(高瀬氏)。
合格難易度の高さで知られるCCNP(Cisco Certified Network Professional)も、この休暇を使って取得したという高瀬氏。勉強以外にも、家族での海外旅行や子どもの保育園の送迎など、休暇の使い方にもかなり熟練してきたことが伺われる。
女性社員にも聞いてみよう。同じくエンジニアのSI技術事業部 第一生産部 高蔵 晶子氏は、かつて現場が遠方で稼働時間も長いプロジェクトに参加した際に、疲れがたまり家事に手をつける時間もなく、いったんリセットするためにまとまった休みが欲しかった。
「とても2、3日では家の掃除も終わらないので、『まとめて休んで良いですか』と聞いたら、すんなり申請が通ったのです」(高蔵氏)。
もともと社長や上司とも話しやすい職場なので、まずは聞いてみようと思ったが、まさか本当に通るとは予想していなかったと高蔵氏は明かす。現在は長期休暇以外にも、大好きな音楽のライブがある日など、定時退社前に1時間単位で有給休暇を取れる制度を使って、開演時間まで余裕をもって行けるようになった。
「だいたい開演時刻が19時なので、18時退社だと間に合わないので、17時に上がるという使い方です。『この時間までに絶対に終わらせるぞ』と集中するので、定時ギリギリまでやって飛び出すより、むしろ仕事の効率が上がる気がします」(高蔵氏)。
BFTでは一般社員だけでなく、管理職や役職者も率先して休暇を取るようにしていると言う。
「みんな進んで休むようにしていますね。先日あった例では、ある主任が1年間で2回『2week+』を取得した例がありました。さすがに初めてのケースだったので申請がきた時は驚きましたが、社長とも話したところ『どこにも2回とってはいけないとは書いていない』というので、問題なく承認されました(笑)」(宮下氏)。
BFTのノウハウを活用して世の中をもっとハッピーに!
SEも管理職も皆で「よく働き、よく休む」体験を重ねて、「休み方が変わればライフスタイルも変わる」が社内に浸透してきた結果、経営者である自分自身にも予期しなかったメリットがもたらされたと言う。
「休暇を取って旅行に行った社員が、いろいろ旅の報告をしてくれるのです。今まで聞いた中で一番面白かったのは、長期休暇の間に北アルプスと南アルプスの両方に登ってきたという人がいました(笑)。その時のことを記録に残して送ってくれたので、それを読んだ私自身もずいぶんとリフレッシュした気分になれました」(小林氏)。
他にも、「旅先で病気と闘っている人と知り合って感じたことの報告とか、ちょっといい話とか、社員たちのリフレッシュのおすそ分けを、私ももらっている楽しさがありますね」と小林氏は楽しそうだ。
この先も引き続き社員の声を吸い上げて、休暇制度だけでなくいろいろな福利厚生のあり方を試みてみたいと小林氏は展望を語る。そうした場合も、一般に経営者目線だとつい定量的な達成目標などを設けてしまいがちだが、BFTの場合、あえて数字にならない部分に目を配っていきたいと言う。
「あまり数値にこだわると、かえって制度が作りにくくなってしまうと思うのです。最初に目標値などを設定すると、じゃあその達成に効果が出ないものはやりたくないとなってしまって、肝心の利用する社員が苦しくなってくる懸念があるからです」(小林氏)。
だが、一般の企業では、予算が読めないことにはなかなか実行に踏み切れないのも事実だ。しかし小林氏は、「コストをかけなくてもできることはたくさんあります。やる前に一度、費用対効果を計算してみると、案外安い予算でも制度化できるプランが見えてくるはずです」と示唆する。
現在、小林氏はこうした福利厚生制度を社内だけでなく、広く社外の人々にも利用してもらえる方法を探っている。具体的なアイディアとしては、これまでBFTが業務を通じて蓄積してきたさまざまなノウハウを一般向けの教育サービスメニューに加える取り組みが進んでいるという。こうしたサービスを充実させていけば、自分たちが蓄積したノウハウを世の中に広く共有し、役立ててもらえるようになるというのが目標だ。
自分たちの持つナレッジやノウハウを前向きに提供していくことで、社員や顧客、多くの企業にとってもハッピーな制度をこれからも作っていきたいと力強く語る小林氏。今回の「働き方&休み方改革」の中間報告が、そうした未来の飛躍のジャンプボードとなることを大いに期待したい。
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