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  インタビュー

学生時代は野球一筋、スポーツもエンジニアも「目標を立てて自分のスキルをどう磨き上げていくかという点は同じ」。ランチェスター代表取締役 田代氏インタビュー

2019年12月11日(水)
望月 香里(もちづき・かおり)

11月7日(木)、マーケティングを支援するモバイルアプリプラットフォーム「EAP」を開発・販売する株式会社ランチェスターで代表取締役を務める田代健太郎氏(以下、田代氏)にインタビューを行った。

田代氏はエンジニア出身で、「何でも新しいことにチャレンジすることが好き。人がやれないことは何でも拾おうというタイプ」と自負する。小中高時代は野球一筋で、何かに打ち込む精神は学生時代に培われたという。スポーツもエンジニアも「目標を立てて自分のスキルをどう磨き上げていくかという点は同じ」。システム設計や開発の経験が今の経営に活きているという田代氏に、これまでの生い立ちを交え、起業時の苦労やこれからについて聞いた。

― はじめに、学生時代のことについて教えてください。

青春時代は野球と共に過ごしました。高校は文武両道の進学校へ入学しましたが、2年生の夏に甲子園出場を果たしました。

甲子園へ出るためには、ただやみくもに練習量を増やすだけではなかなか勝ち抜けません。練習では他の強豪校に真正面からぶつかるのではなく、「どうやったら勝てるか」を自分たちで考えるように指導され、練習時間の大半は自主練習に励みました。

大学時代はバス釣りに魅了され、当時は「バスプロになろう」と本気で取り組んでいました。魚釣りは運に左右されると思われがちですが、ブラックバスは内水面の魚で生態系が解明されているため、季節や天候、フィールドのタイプごとに釣るためのパターンが確立されています。それらをパズルのように解き明かしていくことで魚を釣ることができるため、上手い人は常に魚を釣り上げることができます。プロトーナメントは年間を通して競うため、戦略を立てて臨むことが重要です。学生時代を通じて、「新しいものにチャレンジしながら自分をアップデートしていく」「自発的に考え戦略的に実践して行く」ことが培われたと思っています。

株式会社ランチェスター 代表取締役 田代健太郎氏

― 野球やバス釣りが好きだった田代さんが、いつエンジニアになろうと思ったのですか?

ちょうど私が大学を卒業する1999年前後はネットバブル全盛の時代で、自分が本当にチャレンジしたい(バスプロになる)ことと両立できる職業としてエンジニアを選択しました。当時はSIやマーケティング、業務システムはもちろん、プログラミングのスキルも全くありませんでした。なので、就職活動では「知識ゼロからでもきちんと教育してくれること」をポイントに会社を決めました。入社から3ヶ月ほどの集合研修で猛勉強し、Java、Oracleの一定の知識と技術を身につけ、配属は希望どおりR&Dの部署になりました。

当時はJavaが出始めの頃で、毎月専門誌を購読したり、新しいフレームワークを自分で試したりなど没頭しました。その頃は、元請けの会社が要件定義や概要設計をし、我々は開発を担当するというような役割分担でしたが、新しい技術を採用していることもあり、リリース直前にミドルウェア周りの設定をサポートするなど、本来の役割を超えるところまで支援することもありました。ただ、やれることは限られており、このままではエンジニアの仕事もバスプロへの夢も中途半端になると思い、スキルを伸ばせるベンチャー企業への転職を決意しました。

― ベンチャー企業では、どのように働いていたのですか?

寝袋とシャンプーを持って出社し、会社で寝泊まりするような日々を過ごしていました。障害発生時には24時間365日で対応しなければならず、専用の携帯を持たされていたこともあります。でも、やれることは何でもやりましたし、本当に多くのことを学ばせていただきました。大規模ECサイトのリニューアルなど大きなプロジェクトを任せてもらえるようになり充実していましたが、一方で「テクノロジーを使ってビジネスをしたい」という想いも強くなっていました。

当時の職場にはモチベーションが高く、優秀なエンジニアが揃っていたのに、そのスキルを活かせる環境ではなかったことも問題意識としてあり、エンジニアが力を存分に発揮できる環境を作ることができれば、より良いサービスを作れ、ビジネスになると思い、ランチェスターを作りました。

― 実際に起業してみて、いかがでしたか?

起業は完全な見切り発車でした(笑)。2007年6月に起業したときの初期メンバーはエンジニアばかりの4名でした。「受託企業」としては優秀でしたが、今思えばビジネスサイドの知見はなく偏ったチーム編成でしたね。

創業から13年が経ち、今ではエンジニアサイドだけでなく、ビジネスサイドのことも理解しながら経営できるようになりました。エンジニアサイドとビジネスサイドの両者の強みを活かしバランス良く経営していくことが重要だと実感しています。

― なるほど。ちなみに、現在のエンジニアの立場についてどう思われますか?

私が起業したときに比べると大きく変わって来ていると思っています。しかし、物事を決めるプロセスの中にエンジニアが入っていなかったり、 システム開発の工程を知らない人が要件を決めたりスケジューリングしているために、エンジニアが過酷な状況に置かれてしまうこともあります。こうした状況を打破するためにも、エンジニアはビジネスやマーケティングの最低限の知識を身につけ、逆にビジネスサイドもシステムの知識を身につければ良いと思います。その上で、それぞれの強みを活かした「チーム」を作ることが重要です。

エンジニアが自分で事業を立ち上げてビジネスをしたいと思ったら、ビジネスサイドの人と組むのも有効だと思います。

田代氏にはときに笑いあり、ときに熱い語りありで取材に応じていただいた

― では、エンジニアのスキルや働く環境、マインドについて田代さんご自身が感じていることを、ビジネスの観点も交えて教えてください。

日本のエンジニアにはレベルやマインドにばらつきがあると感じます。海外では、大学などでエンジニアリングの専門教育を受けた、正しい知識を持ち価値を発揮できる人達だけがエンジニアになる国もあります。一方で日本のエンジニアは「内から湧き出てくる楽しさやこだわり」が原動力という人は少なく、プログラミングができるから仕事にしているという印象が強いです。

個々のエンジニアには、単純に「飯の種」と思って欲しくありません。技術はとても面白く、世の中を大きく変えられる可能性を秘めていると思っています。エンジニアそれぞれが「どう世の中に役立てるか」という視点を持ち、社会への技術の活かし方を議論していきたいと思っています。また、現状に満足してチャレンジする努力をしなかったり、仕事が欲しいために自分を過大評価し、結果できなかったりというケースもよく聞きます。

― なるほど。御社では、どのようなサービスを提供しているのですか?

現在、弊社ではモバイルアプリのプラットフォームを提供しています。本質的なデジタルシフトやOMOなど、話題になった書籍『アフターデジタル』のような、デジタルがリアルを包含するような動きがあるなかで、求められる変革を促進できるプラットフォームに成長させたいと思っています。そこで大切なことは「経営層がアフターデジタルの世界観をよく理解していること」です。我々のプラットフォームによって生まれる小さな成功体験をフィードバックすることで経営層が意識を持ち、組織全体に広がっていく形を構想しています。戦略としては、フロントになるマーケターとのコミュニケーションを大切にしつつ、デジタルによる変革イメージを経営者に届ける動きも始めようとしています。

― 御社が今、展開しているモバイルアプリのプラットフォーム「EAP」についても詳しく教えてください。

「アプリ」を顧客接点の中心として、店舗やECサイト、コールセンターなど様々なチャネルが繋がることで、よりよい顧客体験を生み出すことができるようになっています。プラットフォームとしては「コンテンツとデータが循環することで顧客体験を改善していくこと」が、本質的に提供したい価値です。

「アプリのプログラミング経験がある」というプログラマーは結構いますが、アプリはサーバーサイドに比べて構造が未整備なことが多く、UI/UXも意識する必要があるため、エンジニアとして幅広いスキルが求められます。アプリを作りたければアプリ開発のエンジニアがいれば良いと思われがちですが、アプリをサクサク動かすには、実はサーバーサイドの力も重要です。サーバーサイドにはアプリケーションだけでなく、インフラ、ビックデータなど様々な技術要素がありますが、「1社で全てを統合し一定のクオリティを出せている」ことが弊社の技術面での強みです。

さらに、「プラットフォームの完成度の高さ」と「OMOの文脈の知見を極めて多く持っている」ことも我々の強みです。

この先、データを使ったマーケティングをどんどん促進していきたいと思っていて、現在アプリの行動データは全てEAPに蓄積されるようになっています。このデータを使って、これまでのマーケティングを通じたコミュニケーションの形を「セグメント(ユーザー属性)」から「モーメント(瞬間、瞬間の状況に合わせた対応)」に変えていきます。データを使ったUXの改善や行動データとオンライン・オフラインの購買データを元にした顧客体験の最適化にもチャレンジしていきたいですね。

プラットフォーム化して事業が拡大することで、「新しい技術にチャレンジできる環境をエンジニアに提供できている」ことが個人的にすごく嬉しいです。

ITベンチャー企業のほとんど(?)に設置されている卓球台。ペンをラケットに持ち替え、田代氏とひと時のラリーを交わした

― エンジニアにとって良い体験ですね。田代さん自身がエンジニアだったからという部分が大いにありますね。

はい。現在EAPも大幅なアップデートをかけています。ECサイトやポイントシステムのインテグレーションはPaaSで、アプリマーケティングのコアはSaaSで、という形を想定しています。機能的な変化は少ないですが、システムとしては大幅なアップデートなので、このようなチャレンジができているのは非常に嬉しく思います。

― アプリのデザインで、UI/UXはエンジニアに軽視されている側面もあるかと思います。エンジニアがUI/UXを学ぶ上でアドバイスがあれば教えてください。

UI/UXについてデザイナーと会話できる程度の基本的な知識を押さえておくことは大切です。エンジニアであってもHuman Interface Guidelineだけでも読んでおくと考え方も変わるのでオススメします。お互いがオーバーラップする領域があると、考え方の偏りも軽減しますよね。

― エンジニアがUI/UXを軽視する理由は「デザイン=アート」だと思っているからだということもあるかと思いますが、その点はいかがですか?

アートは自己表現なので正解がないですが、デザインは「設計」です。UIデザインは「課題を明確にしてどう解決していくか」という課題解決の領域なので、エンジニアに向いていると思います。

― 最後に、これからエンジニアになりたい人へ、メッセージをお願いします。

エンジニアは素晴らしい職業だと思います。まずは目の前の技術に徹底的にのめり込み、スキルを上げることを楽しんでほしいです。自分のコアとなる技術をしっかり身につけ探求していく、あるいは我々のようにエンジニアとしてのベースを活かしながら他の仕事をするなど選択肢は色々あります。エンジニアは、自分の力で世の中に大きなインパクトを与えられる仕事だと思っています。

― 現在エンジニアの方にも、メッセージをお願いします。

自分の好きな技術を追求し磨く中で、それが「社会の何に役立つか」という視点も持ってほしいです。自分で見つけるのが難しければ、そのような話ができるエンジニア以外の仲間を探すことをオススメします。自分のスキルを活かすためにも、視野を広げることは自分のためにも世の中のためにもなります。

― ありがとうございました!

インタビューの最後に記念撮影。自社ロゴと共に

* * *

田代氏が語った「止まっているだけではリスクになる。世の中の変化に適応できる人だけが生き残る。『学習を続ける素養』を持ち合わせ、時代の流れに適応できるよう常に学習を続けてほしい」という言葉には、実際に自分で考えチャレンジして来た田代氏の魂を感じた。

今では生活に根付いているアプリ。見えない部分で悪戦苦闘しているエンジニアを感じながら、ランチェスターのモバイルアプリプラットフォームを活用してみてはいかがだろうか。

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
保育士資格を活かして、放課後児童クラブで勤務しながらライターもこなす二刀流。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。低山トレッキング・NHKフロンティア・世界街歩きが好き。
ブログ:https://note.com/zucchini_232

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