With/Afterコロナ時代のチームメイキング

2020年12月3日(木)
阿部 洋介

テレワークがもたらした課題

去る5月25日に新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が解除され、はや半年近くが経ちました。筆者が所属するグループでは、テレワークと会社へ出勤する日が交互に続いています。読者の皆さんの中には、テレワークを継続されている方も多いのではないかと思います。

今までオフィスという共通の空間で一緒に仕事をしていたものが突如テレワークとなり、チームメンバー各自が離れた空間で仕事を進めていく中で、いくつかの問題にぶつかりました。今回は、どのような問題が発生し、また、それをどのように解決していったのかを紹介します。

問題1:自宅で仕事ができない/仕事をしすぎる

自宅でテレワークを続ける上で、チームメンバーから真っ先に挙がってきたのがこの問題です。グループ内ではコロナ禍以前からSlackを活用してコミュニケーションを取っていました。業務の開始時間と終了時間を報告するためのチャンネルを作成し、各自が報告することで、グループ内でお互いにどれだけ働いているかを確認していました。

しかし、時間を報告するだけでは働いた内容が確認できないのです。その要因としては、次のようなことが挙げられます。

  • ある人は自宅で趣味の本やゲームなどに気を取られて集中できない
  • ある人は子どもの世話や家族のテレビの音で集中できない

また、開発用のPCが自宅にあることで、寝る直前まで仕事を続けてしまうという問題も発生していました。そのため、勤務時間だけでなく、どのように働いているのかも確認する必要がありました。

解決法1:スクラム開発

この問題を解決するために、スクラム開発のデイリースクラムが役立ちました。デイリースクラムでは毎朝スクラムチームが集まり、15分という短時間で各自が「前日やったこと」「今日やること」「作業の障害となっていること」を報告します。

また、その「やること」に関しても、タスクごとに作業量をポイントという単位でチームメンバーが共同して決めていきます。そうすることで、チームメンバーにかかる負荷が偏らないようにできます。

前日にやったことの進捗が悪ければ、次の日の朝に報告した際に、スクラムチーム内のスクラムマスター(理解と実践を推進し、プロジェクトを円滑に進めることに責任を持つ人)が確認した後で、1日以内に解決策を考えます。例えば、自宅で仕事に集中できない人にはコワーキングスペースの利用を促したり、Teamsで会話をしながら作業したりしました。

本来、スクラム開発は顧客へ素早く価値を届ける手法ですが、アジャイルソフトウェア開発宣言の中では「『個人の対話』を価値とする。」と記載されています。日々の作業内容を確認していくことが、メンバーの仕事量を適切に割り振ることにつながるのです。

問題2:消えたチーム内コミュニケーション

2つ目の問題は、チーム内のコミュニケーションに関することです。コロナ禍以前の職場では、オフィスでリアルに顔を合わせるため、同僚の些細な変化にも気付ける機会がありました。例えば、次のような場面に出くわした場合でも、気軽に声をかけて話を聞いたり、励ましたりしていました。

  • 同僚が打ち合わせから帰ってきてから暗い顔をしていた
  • 隣で働く同僚が「あっ!」「どうしよう」と独りごとを言う
  • 上司からの指導で落ち込んでいる

しかし、コロナ禍に至ってはミーティング以外で顔を合わせることもほとんどなくなり、メンバーの独りごとを耳にすることもなくなってしまいました。

また、デイリースクラムは業務タスクや課題を確認するには十分でしたが、メンバー各自の悩みを聞くには時間が短く、またスクラムメンバーが揃っている場のため、プライベートな話だったり、センシティブな話をするのにはあまり適していませんでした。

解決法2:コミュニケーションツールの活用と1 on 1

この問題を解決するために、まずいくつかコミュニケーションツールを導入しました。

1つ目はSlack上の「雑談チャンネル」の拡充です。コロナ禍で新たに多くのチャンネルが立ち上がり、写真が好きなメンバーが集う「カメラ部」や、おすすめのお酒を紹介しあう「アルコール部」など、休憩時間や業務時間以外でもコミュニケーションが生まれるチャンネルがさらに増えました。

2つ目はTeams会議を開きながらお昼を食べて雑談する「ランチ会」です。こちらは普段一緒に仕事をしていないメンバーの交流や、新しくグループに加入してきたメンバーとの顔合わせに役立ちました。前述のSlackでもコミュニケーションは図れそうな印象もありますが、新しく加入したメンバーの話を聞くと、たとえ雑談のチャンネルでも「顔を合わせたことのない人達の会話に自分から飛び込むのは抵抗がある」といった意見が多く、直接顔を合わせて談話する機会を設けました。

3つ目はDiscord(無料ボイスチャットアプリ)を使い、音声を接続した状態で仕事をする「独りごと聞かせ合いワーク」です。DiscordはTeamsやZoomなどと同様にビデオチャットですが、Discordでは打ち合わせを設定する必要がなく、気軽にチャットルームを開くことができます。

また、チーム用のチャットルームを作り、メンバーは自分の好きなタイミングで自由にチャットルームへ出入りできるようにしました。これにより「誰かと少し相談しながら作業したい」「誰かの話を聞きながら作業したい」などが可能になります。無理に会話をする必要もなく、各自が独りごとを呟きながら仕事ができるのです。

この3つの解決策により、失われてしまったチーム内コミュニケーションを対面時と近い形で再現できました。そして、コミュニケーションの中で些細な変化でも見つけた際には1 on 1という上司と部下の1:1ミーティングを開き、プライベートの悩みや1:1でないと話づらい内容を聞きながら、一緒に問題解決へ向けて進むことができています。

問題3:変化するワーク・ライフ・バランス

3つ目の問題は、コロナ禍によるテレワークの長期化により、ワーク・ライフ・バランスが大きく変化したことです。

筆者の場合は毎日往復3時間の通勤時間がなくなり、その分家族と触れ合う時間が増えました。コロナ禍以前は7時頃に家を出て、帰宅するのは20時前後になることが多かったです。そのため、育休を取得しているパートナーに2人の子どもの育児の大半を任せていました。

今では通勤時間がなくなったことで、朝ごはんを食べさせて保育園への送り、夜のお風呂と寝かしつけが筆者の主な担当育児になっています。テレワークにより家族との時間が増えるという喜ばしい状況が生まれましたが、同時に新たな問題も生まれました。

例えば、子どもは保育園に預けていても、突然体調不良を起こしてしまうものです。そんな子どもを仕事中に迎えに行かなければならない状況になったとき、皆さんは締め切りが迫っている仕事を中断して子どもを迎えに行けるでしょうか。これから大事な打ち合わせがあるというときに子どもを迎えに行けますか。これは育児だけでなく、両親の介護についても同様なことが言えると思います。

在宅勤務になることで家で過ごす時間が増え、それと比例して家族と触れ合う時間も多くなって良かったという声を聞く一方で、働いているときとそうでないときの線引きが曖昧になることが悩みの種のようです。

解決法3:チームでの柔軟な対応

前述した育児の問題は個人で解決するものと考えがちですが、テレワークで物理的な距離を超えて働くニューノーマル時代だからこそ、会社にいないメンバーとのコミュニケーションや状況に応じた柔軟な対応が大切になってきます。

筆者のチームにも育児をしながら働く女性エンジニアが2名おり、筆者と同様に突発的に休みを取らないといけないことが頻繁に発生します。解決法1、2のように適切なコミュニケーションをとっていれば、各メンバーの困りごとを共有できます。より洗練されたチームであれば、さらに困っているメンバーのタスクを引き取ったり、打ち合わせを代理で進行することもできるのです。

議論と逆境を楽しめるチームメイキング

ここまで、コロナ禍におけるチームメイキングの問題と、その解決法を3つ挙げました。これらの方法を採用すれば、コロナ禍に負けないチームが作れそうな気がしてきたのではないかと思います。

しかし、一番大切なことは、チームメンバーの1人1人が自発的に情報発信し、バランスを取っていくことです。例えば、解決法1のようにいくらデイリースクラムを開催しても、深夜に仕事をしていることを意図的に隠されてしまうと正しい情報を知る術はありません。

同様に、解決法2のように、いくら雑談を重ねても、悩みや本音を話してくれなければ問題解決は難しいですし、解決法3もチームメンバーとはいえ、各家庭の問題に口を出すことはできません。相談されて初めて助けることができるのです。

理想のチームメイキングで重要なのは「チームメンバーを知る」ことであり「知ってもらう」ことです。どんなことでも報告し合えるる関係性を作り上げていくことが大切なのです。

  • 弱音を吐いても良い
  • 問題点を指摘するのも良い
  • 立場を気にせず発言し提案するのも良い

チームメンバーが何を大切に行動しているのか、何を嫌っているのか、何をやりたがっているのか、何をやりたくないのか。時には、メンバー同士の意見の衝突もあると思います。これは必要以上に避けるべきではありません。お互いのことを知るチャンスでもあります。衝突を避けるために自分の意見を隠したり、忖度をしてしまうことは自分自身の問題解決にも至らないですし、チームの成長にもつながりません。

お互いがメンバーの特性を理解し、共有することで健康的に働き続けられるだけでなく、突発的なトラブルにも柔軟に対応できるチームが構築できます。

まだまだコロナ禍は継続しそうな世の中ですが、こんなときだからこそ、ぜひ困難や逆境に負けないチームメイキングを実施してみてください。

株式会社パソナテック DX戦略本部デジタルテクノロジーグループ
2003年から、もの作りエンジニアとしてデジタルテレビやデジタルカメラを中心としたLSI開発に従事。もの作りの経験を活かしたAI開発に興味をもち、2016年にエッジAIエンジニアにキャリアチェンジすべく、パソナテックに入社。現在はAIを活用したサービスの開発やスマートシティ構想に関わりながら、プライベートでは地方の介護問題の解決に向けての活動も行っている。
パソナテック
https://www.pasonatech.co.jp/biz/

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