地方の拠点でもできるITエンジニアの働き方

2021年6月15日(火)
角田 徹

はじめに

みなさん、はじめまして。パソナテック島根Labの角田です。 ざっと20年にわたりITエンジニアとして働いており、その大半を島根県松江市で過ごしています。私自身は2018年にパソナテックへ転職し、島根Labで働いていますが、そのきっかけのひとつとなったのが、学生時代の友人が言っていた「地元に戻りたいけど、仕事がない」という言葉でした。

ITエンジニアは、地方でも比較的働きやすい職種のひとつです。新たに島根に進出してきた企業がうまく軌道に乗り、地元のITエンジニア人口が増加したり、就職の選択肢が増えるきっかけになると良いな、など漠然と考えていました。

ITの仕事といえば、東京や大阪など、大都市圏に多く集まるイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、地方でも快適なエンジニアとしての働き方を実現できています。その理由として、島根県と松江市がタッグを組んでIT企業誘致に力を入れていることもあり、エンジニアが比較的多く、とても恵まれた環境だということがあります。また、ネットワークをはじめとした環境の向上や、コロナ禍の社会情勢の変化によるリモートワークの普及といった時代背景もあります。

しかしながら、こういった環境は、自然に整備されてきたわけではありません。島根県で働くITエンジニア自身が地域に関わって、取り巻く環境をより良いものに変えてきたという歴史があります。こうした先人たちの貢献もあり、「地方で働く」ことは今では当たり前の選択肢のひとつになっています。

今回は「地方でもできること」「地方だからこそできること」を通して、地方でITエンジニアとして働く魅力を少しでもお伝えできればと思います。

地方だからこそできる
リモートワークと多拠点連携

まず、地方とリモートワークは、とても相性が良いです。その理由はいくつかあります。

地方に住んでいても、その地方の仕事だけをしているわけではありません。東京など大都市圏の仕事をすることもあれば、他府県のクライアントの仕事をすることも珍しくありません。つまり、クライアントと離れて仕事をするという環境が珍しくないため、Web会議やチャットなど、リモートワークに欠かせないツールをコロナ禍以前から日常的に使ってきました。リモートが前提での働き方に慣れ親しんでいるといっても過言ではありません。

それでも、以前はかなりの頻度で打ち合わせや現地での作業のためにクライアント先へ出張していましたが、新型コロナウィルス感染症の影響により、コミュニケーションのほとんどはオンラインへと移行し、出張もほぼなくなりました。業種や業務によるところも大きいとは思いますが、今後はリモートでやりとりする頻度がますます増え、時間や場所を選らばない方向へと、ITエンジニアの働き方がシフトしていくのは間違いありません。

対クライアントに限ったことではなく、エンジニア同士もリモートでチームを組んで仕事を進めることが当たり前になってきました。島根Labのメンバー同士でもオンラインのコミュニケーションが中心になってくると、本当にどこで作業をしているかは関係なくなってきています。私自身も名古屋のエンジニアと一緒に現在プロジェクトを進めていますし、他のメンバーたちも東京や福岡のエンジニアと一緒に開発に携わっています。

作業をしていく上で快適な空間や集中できる環境は必要ですが、それさえ整っていればお互いの距離は仕事の障壁になりません。オフラインにもオンラインにも、それぞれコミュニケーションの難しさや悩みはありますが、リモートワークの普及でクローズアップされた非対面での信頼関係の構築方法や成果に対する評価方法など、現在も常に試行錯誤と改善を重ねています。

地方拠点における学び

ITエンジニアに期待されるソフトスキルのひとつに「未知のものを学び続けることができる」ことがあるくらい、ITエンジニアと「学び」は切っても切り離せないものです。私がU/Iターンイベントなどに企業側で参加したときによく聞かれることのひとつが「地方ではエンジニアの勉強会や新しい技術に触れる機会が少ないのでは」という質問です。

地方都市にはやはりITエンジニアが少ないので、その不安も当然かと思いますが、それに対する私の答えは「そんなことはない」です。例を挙げると、私の住んでいる島根県松江市は、2006年から地域ブランドとして「Ruby City MATSUEプロジェクト」を掲げ、駅前に松江オープンソースラボというITエンジニアが交流できる無料のイベントスペースが用意されています(余談ですが、このスペースはRuby開発者のまつもとゆきひろ氏の発案で設けられたそうです)。

【参考】
ますます盛り上がりを見せる島根・松江市のIT産業。なぜ島根にITエンジニアが集まるのか (前編) ー始まりは1人の担当者の閃きからー

そのスペースを利用したエンジニアの勉強会が定期的に開催されたり、毎年冬には島根県や松江市が協賛して「RubyWorld Conference」が開催されるなど、人口に比べて学ぶ機会にとても恵まれている土地です。

もちろん「恵まれている」と言っても、週末ごとに何かの勉強会やハッカソンが開催されたりするほどの頻度ではありません。それでもオンライン勉強会をはじめ、年に数回程度の首都圏や他府県への遠征を組み合わせれば、自分の好奇心や意欲を満たすくらいの学びの場は十分に確保できています。

遠征自体も会社が教育の一環として大都市圏への出張の必要性を理解してくれていることが多く、交通費を補助してくれる場合もあります(新型コロナ感染症の影響が出る前ですが)。

ITエンジニアの絶対数が少ないことが、逆にメリットになることもあります。松江のような地方都市では、勉強会の参加者が10人前後から多くても20~30人程度なので、エンジニアの仲間を作りやすく、参加者同士が交流するハードルは首都圏に比べてとても低いです。また、このような参加人数の規模下では、登壇者との距離もぐっと近づきます。

参加者が何百人もいるセミナーで質問をするのは結構な勇気が必要ですが、10人程度の規模であれば「こんな質問しても大丈夫かな」といったことも気にせずに質問できますし、さらに深く突っ込んで聞くこともできます。

さらに、勉強会を自分たちで開催することもあります。ここ1年は、日頃からつながりのある東京や福島県の企業とオンライン勉強会を定期的に開催していました。参加したい勉強会がなければ、自分で開催してしまうのが一番の近道です。そして勉強会への参加や企画を始めてみると、同じように考えている人たちと知り合うこともできました。

地方だからできる
自治体や教育機関との連携

地方には企業やITエンジニアの母数が少ないのは事実ですが、だからこそ競合が少なく、挑戦するための機会が得やすいというメリットがあります。例えば、私は昨年、松江市が主催するハッカソン「松江CityHack!」に運営側として携わりました。

また、島根大学で行われる「システム創成プロジェクト」という、企業と学⽣がチームを組んで社会課題を解決するシステム/サービスやビジネスプランを1年かけて作り上げる授業にも参加しました。

こういった活動に参加できることは、地方ならではのメリットだと考えています。次世代のITエンジニアの育成に関われるのは、大変ですがとても楽しいですし、自分自身にとっても大きな学びがあります。ビジネスプランやハッカソンのテーマとして取り上げる課題の選定ひとつをとっても、ITエンジニアだけでなく自治体の皆さんや教育関係者など、様々な方の視点で意見交換ができます。

利用する技術の選定も、新しい技術やサービスに挑戦したり、自分の持っている知識の棚卸しをすることで頭の中を整理するきっかけになりますし、参加される他のITエンジニアとの交流の機会にも非常に刺激を受けます。このような場は、我々がITエンジニアとしての心構えやあり方を学生の皆さんに伝えられるだけでなく、我々にとっても情報収集ができる貴重な場でもあります。

業務で行っているものや普段観測している範囲での技術の流行り廃りは、どうしても偏ったものになりがちです。先生たちの研究テーマや学生のような若い世代が興味を持っているものを知ることも、いまの世の中の動きを客観的に知るきっかけになっています。

ワークライフバランス

コンパクトでありながら、百貨店などが一通り揃っている地方都市は、想像以上に快適です。車で30分圏内にオススメの温泉がいくつもあったり、山も海も近く、その気になればふらっとキャンプに行ける立地が整っています。前職も現職のパソナテックもワークライフバランスに配慮してくれる会社であり、通勤時間も短いので家族とも多くの時間を一緒に過ごすことができています。例えば、学校の参観日には毎回必ず参加していますし、習いごとの送迎をしたり、毎週一緒に空手道場へ通って汗を流したり、子どもたちの成長の様子を間近で楽しんでいます。

また、地方都市のコンパクトさは、そのままコミュニティのコンパクトさに繋がります。仕事や勉強会で知り合った人と別の場所で一緒になる機会が、びっくりするくらい多くあります。保育園の保護者会や小学校のPTAで役員をしたり、地元のお祭りに参加しているだけで、気付けば人脈がどんどん広がっていくのです。

とりわけ自身の出身地だと、ちょっと立ち寄ったお店でかつての同級生とばったり会うこともしばしばです。自然といろいろな職業、いろいろな立場の人と関わることが増え、普段の仕事で行っているものとは違うやり方でコミュニケーションをとる機会が増えます。前述した島根大学で行われている「システム創成プロジェクト」でキーワードとなっている社会課題は、こうした生活や交流の中から異なる視点を得ることで見つかることが多くあります。

ITシステムは、現実世界と切り離されたものではなく、むしろその影響を強く受け、時代の流れとともにその背景が写し出されるものです。ITエンジニアにとってプログラミング「以外」の部分を鍛えることは難しく思えますが、ワークライフバランスの充実を図ることは、エンジニアとしての総合力を高めるために非常に有効な手段のひとつです。

おわりに

今回の内容は、大都市圏と比較した地方都市の状況というわけではなく、自分が所属する組織や周囲の人たちの影響によるところも多少はあるかもしれません。特に松江は、人口の割合と比較すると、ITエンジニアにとって恵まれた環境がある、と思われる方もいらっしゃるかと思います。

しかし、この環境は自然に発生したわけではありません。自治体の皆さんが「地域を元気にしよう」と積極的に様々な取り組みを行い、地域の企業や教育機関がそれに応え、何よりITエンジニア自身がコミュニティを作り、育ててきた歴史があるからこそ、松江により良い環境が整ってきたと思います。

私が機会をいただいた島根大学での授業やハッカソンの運営もまた、大学や高等専門学校、ビジネスを学ぶ専門学校のような教育機関の方々が取り組んでいる人材育成の一環となっています。地方でITエンジニアが働く状況下では、ほんの少し手を伸ばすだけで、自分たちのより良い環境を作ることにつながる付加価値を生み出す活動ができます。

私が考えるITエンジニアの醍醐味は「学び」と「挑戦」です。大都市圏にも魅力的な機会はありますが、地方にもまた、魅力的な学びと挑戦の機会が眠っています。

少しでも興味を持っていただけたなら、地方でのエンジニアライフを楽しんでみませんか?

株式会社パソナテック 島根Lab
ITエンジニアとして電子カルテなど医療関連システムの開発や導入業務を経て、2018年にパソナテックへ入社。島根Labに配属。受託開発チームのマネージャーを担当しつつ、地方創生事業の一環としてワークショップやハッカソンの企画・運営に携わる。基本的にWebシステムやクラウド領域を扱うことが多いが、近年はIoTやAI分野にも興味を持っている。
パソナテック
https://www.pasonatech.co.jp/biz/

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