安心して失敗できる組織〜「モチベーション」を高める環境作り〜

2022年8月25日(木)
野口 里穂

はじめに

私は大学を卒業後、初めて社会に出てからこれまで働き続けてきました。働き方は日々変化していますが、コロナをきっかけに世の中の「働く」の定義自体が大きく変化したのではないかと思います。

私が働き始めたころは「会社のために働く」から「社会のために働く」という時代の変換期でした。それまでは会社というコミュニティのみが自分の世界であり、それ以外の世界を知るにはテレビや新聞が主な情報源であり、その内容は限定的でした。また、より詳細な情報を知りたいときはその世界へ自ら足を運ぶか、人から情報を聞くなどの労力を伴うものでした。ですから、どうしても身近な世界である会社が生活の中心にあり、その会社での仕事を最優先した結果、働き過ぎて体調を崩してしまう状況が起こっていました。

そこに1990年代半ばから後半にかけてPCやインターネットが普及し始め、自分が所属する会社や学校などの組織以外の情報、それどころか世界中の情報が手軽に瞬時に手に入るようになりました。そして、他の組織や社会との繋がりを持てるようになったことで「何のためにこの会社で働くのか」「自分が働くことが社会にとってどのように役に立つのか」という価値観を持つようになりました。

そして2020年からは、新型コロナ感染症をきっかけにリモートワークの仕組みが整い、場所や時間の制約がなくなったことで、勤務地や通勤時間といった条件面ではなく、何のために仕事をするのかということを改めて考え直す機会が増え、仕事をすることの軸が「自分」になってきました。

一人ひとりの仕事に対する価値観が多様化する中で、そのパフォーマンスを最大化できる組織とはどのような組織なのか、環境やツールだけでなく、どのようなメンタリティが必要なのか。今回は、私なりに考えていることを紹介します。

安心して失敗できるということ

仕事をしていく上で失敗はつきものです。また、失敗から学ぶことは多くあり、その学びから成功を導くこともあります。つまり失敗は悪いことだとは限らないのです。それでも失敗を恐れて挑戦できなかったり、仕事に対して不安を感じることは多々あると思います。

そのような不安を抱えたままでいると「モチベーション」が低下し、パフォーマンスに悪い影響が出てくるかもしれません。そうなればますます挑戦ができなくなり、さらには自分自身が成長ができないどころか仕事上での評価なども下がってくるかもしれません。

私は以前、マネジメントに失敗した経験があります。失敗の原因は多々ありますが、そのマネジメント方法が最も大きな原因でした。プロジェクトメンバーはスケジュールを守り主体的に対応できていたにも関わらず、私とお客様とのコミュニケーション不足から納期も品質も守れない状況になってしまいました。

この状況で、初めは全て自分ひとりだけで解決しようと試みましたができるはずもなく、どうしようかと途方にくれていました。そのとき、メンバーが上司に助けを求める声を上げてくれたことで、グループ内の他のメンバーがサポートしてくれることになりました。

上司や先輩たちをはじめ誰もが私を責めることなく、応急的な対処とその先の対応についてチームの全員が一緒に考えてくれました。また「こういう失敗は誰でもしているし、むしろとてもよい学びのチャンスだよ」と声をかけてくれました。

チーム全員で話し合った結果、まずはお客様に謝罪し、お客様の要望を再確認しました。するとデータの概念について齟齬があることがわかりました。そこで、それまでほとんど私の独断で行っていたお客様からの質問や問い合わせに対する説明を他のメンバーに相談し、一言一句をしっかりと確認してから回答するようにしました。また、なるべく図などを使ってシンプルにわかりやすく説明することで、IT業界の専門用語などに詳しくないお客様にも現状を理解いただくことができ、今後の対応を一緒に考えることができました。

この失敗からの一番大きな学びは「困ったら上司やメンバーに相談する」ことです。言葉にするととても当たり前のことのように感じますが、振り返るとこれができていなかったことに気がつきました。

このプロジェクトで、初めは「リーダーである以上スマートにこなさなくては格好が悪い。だからあまりメンバーに頼らず、最低限のことだけをメンバーに相談しよう。特に先輩であるマネージャーには忙しいから声なんかかけちゃだめだ。メンバーもそれぞれ他の業務を抱えているのだから、できるだけ頼ってはいけない」と考えていました。

当時の自分を振り返ると、上司やメンバーを信頼できていなかった自分自身に問題があったのだと思います。仕事上で誰かに何かを頼んだり、分からないことを質問をしたりすると「そんなことも知らないのか」と自分を否定されたり評価が下がるのではないかという不安から相手を単なる評価者として扱い、「良い評価」を得たいという思いだけで相手と関わっていたことに気づきました。

しかし、失敗という恥ずかしい側面を相手に開示したところ、失敗したことを否定されたり責められることはなく、ありのままの自分を受け入れてもらうことができ、当時の困難な状況をチームのみんなで協力して乗り越えたことで、上司やメンバーを単なる評価者ではなく「共に仕事をする仲間」として向き合えるようになったのだと思います。

ここで重要なポイントは「ありのままを受け入れてもらえる」という安心感だったように思います。そして、メンバーや上司には感謝の気持ちと同時に「もしこのメンバーや上司から助けを求められたら全力で応えたい。この組織に永続的に貢献したい」という強い思いを持つまで至りました。

ありのままを受け入れる

自分自身の経験からも言えますが、ありのままの自分を受け入れてもらえるという安心感があると、新しいことや難しいことでも「まずはやってみよう」という気持ちになります。そして何か失敗してもそこから学び、乗り越えることで、一緒に働く仲間や組織に貢献できます。

相手の「ありのままを受け入れる」とは何でも肯定することではありません。相手に何でも肯定されてしまうと「やってもやらなくても同じ」になってしまい、もしかしたら「やる気」が削がれてしまうケースもあるかもしれません。そうではなく、たとえ相手と相反する意見があっても「この人はこういう意見を持っている人なんだ」と様々な考え方があることを認識し、その上で自分自身の考えと照らし合わせてみることが大切だと思います。

冒頭でも述べましたが、仕事をしていく上で失敗はつきものですが、組織においてありのままの自分を受け入れ、失敗を学びとする企業風土があれば失敗を恐れずに挑戦できます。また成功すればそれは成果になり、失敗しても学びに繋がります。学びは組織にとってノウハウの蓄積だけでなく、一人ひとりのマニュアル化できない「経験」となるのです。

おわりに

時代とともにデジタル技術も発達し、人にはより付加価値を生むサービスの開発やこれまでの価値観を覆すようなイノベーションを起こすことが求められていると感じます。イノベーションを起こすには画期的なアイデアが必要ですが、そういったアイデアは何にもとらわれず、自由な思想から生まれるものです。組織においてはまず相手を受け入れ、お互いの考えなどを共有しやすい環境を作ることがその第一歩といえるのではないでしょうか。

「相手のありのままを受け入れる」際に最も大事なのは「しっかり相手のことを考える」ことだと思います。これも基本的なことですが、だからこそとても意味があります。相手のことを考えようと思うと「この人はどんな人なのだろうか」「どんな価値基準で行動をするのだろうか」ということを想像できます。そうすると自然に相手を思いやり、相手の思いを引き出す言葉が出てきます。相手にも自ずとその思いが伝わり「こちらのことを考えてくれているから、どんな意見もしっかりと受け止め考えてくれるだろう」という安心感につながって、安心安全の場が形成されるのだと思います。

お互いに相手のことを考えて行動できれば組織は安心安全な場となり、一人ひとりの仕事に対するモチベーションにも良い影響を与えます。そしてその影響は個人からチーム、グループと広がり、最終的には会社単位の成長につながるのではないでしょうか。

本記事は「だから僕たちは、組織を変えていける」(斉藤 徹著、クロスメディア・パブリッシング(インプレス)刊)を参考にしています。

株式会社パソナテック
大学では電子通信を専攻。SI企業に入社後、結婚、出産などのライフスタイルの変化に伴い雇用形態を変えて数回の転職を経験。OracleやSQL Serverでのデータベース構築、データ分析を中心とした業務に携わってきた。子供が成長し、ライフワークバランスを考えた転職として2019年にパソナテックへ入社。現在ではスマートシティ関連やAIを利用したWebシステム開発に携わっている。
パソナテック https://www.pasonatech.co.jp/

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