ユーザーインタビューの会場設営をしよう
はじめに
前回は、インタビューの事前準備として、ユーザーインタビューの環境準備と、インタビューに同席するチームメンバーへの案内について紹介しました。
今回は、前回の事前準備の続きです。ユーザーインタビューの会場に用意しておくべき諸々の物品について、なぜそれが必要かの理由とともに説明していきます。
個人情報や機密情報の保護に配慮する
「プライバシーポリシー」シート
ユーザーインタビューで聞いた内容は、機微な内容を含むことがあります。また録音や録画をする場合は、そのデータ管理について、インタビュー対象者が不安を感じることがあります。
そのため、自社のプライバシーポリシーを印刷しておき、インタビューの冒頭にインタビュー対象者に一読してもらい、個人情報を適正に管理する旨を伝えましょう。
リモートのインタビューでは、オンライン会議ツールの画面で細かい文字のプライバシーポリシーを読んでもらうことが現実的でないケースがあります。その場合、筆者は事前にプライバシーポリシーを送付しておき、改めてインタビュー冒頭に録画をする旨を伝え、承諾してもらってからインタビューをスタートさせています。
「機密保持の同意」シート
プライバシーポリシーが、あなたからインタビュー対象者への約束ごとだとすると、逆にインタビュー対象者に約束していただくケースもあります。
インタビューの過程で開発中のプロダクトを見せてその反応を観察するなど、あなたの会社の機密情報をインタビューの中で用いるときです。その場合、インタビュー対象者に「このインタビュー内で知り得た情報は他者に話さない」ことに同意してもらう必要があります。覚書を用意し、インタビューの冒頭に署名をもらいます。
リモートのインタビューでは、やはりオンライン会議ツールの画面で署名してもらうことは現実的でないため、事前に書面のやりとりや、インタビュー冒頭での再確認などで代用します。
インタビュー過程で
自社プロダクトを見せる際の注意点
インタビューの過程で、会話だけでなく自社プロダクトを触ってもらい、感想をもらう(「ユーザビリティテスト」や「ユーザーテスト」と呼ばれます)場合は、入念な準備が必要です。第9回から第11回で解説したインタビューの流れに加えて、ユーザビリティテストでどのような行為をしてもらうかもしっかりと計画しておきましょう。
特に気をつけたいのが、自社プロダクトを使う上でアカウントやクレジットカードが必要なときです。その手配を見落としがちです。
例えば、あなたの自社プロダクトがスマホアプリで、ユーザー登録をするためにメールアドレスとSNSアカウントが必要だとしましょう。支払いはクレジットカードとします。
インタビュー対象者は、ユーザビリティテストのために自分のメールアドレスを登録したり、SNSのアカウントを連携させたりするのを嫌がる方もいます。そもそもSNSを使っていない人もいます。何かしらの決済をするのであれば、その支払いをインタビュー対象者自身のクレジットカードでさせるわけにはいきません。
また、筆者が経験したエピソードでは、次のようなケースもありました。冗談のようですが、本当にあった話です。
- アプリのアカウント登録の途中でインタビュー対象者のメールアドレスに送られた「仮登録メール」が、なぜか届かなかった(後でスパムフィルタがかかっていたことが判明)
- インタビュー対象者がスマホを持っておらず自宅でないとメールが確認できなかった
- そもそもメールを使う習慣がなく、パスワードを忘れてメールソフトにログインできなかった
アカウントやクレジットカードなど「それがないと先に進めなくなる」ものについては最悪の状況を想定し、予備のアカウントを用意して出せるようにしておく、などの準備が必要です。
ユーザビリティテストをするときは、インタビュー対象者にしてもらう操作を洗い出して、事前に通しでプレテストをやっておきましょう。そうして必要なものが揃っていることを確認します。
「謝礼」と「領収書」
インタビューの終わりにはインタビュー対象者に「謝礼」を渡すため、会場に「謝礼」と「領収書」を用意しておきます。謝礼は封筒に入れておいたほうが印象が良いです。また、記名と捺印を求めるので、ボールペンと朱肉、印鑑を拭くためのテッシュも用意しておきましょう。
「領収書」はインタビュー対象者へ「確かに謝礼を受け取った」という確認のために書いていただくものです。あらかじめ領収書の宛先に自社名と金額を記入しておきましょう。
会場では、インタビュー対象者に日付、住所、氏名を記入してもらい、捺印もしてもらいます。ただし、実は捺印は必須ではなく、商取引の慣習として一般的なだけです。万が一、インタビュー対象者が印鑑を忘れてしまったときは、捺印は省略しても大丈夫です。
記入と捺印が終わったら「控え」をインタビュー対象者に渡し、「原本」をあなたが受け取ります。
モデレーター:本日はありがとうございました。こちらが本日の謝礼となります。金額をご確認ください(謝礼を手渡す)
モデレーター:金額のご確認をいただいたら、こちらの領収書に日付、住所、氏名をご記入いただき、捺印をお願いいたします
モデレーター:ご記入ありがとうございました。こちらが控えになります(領収書の控えをインタビュー対象者に渡す)
あなたが所属する会社の方針によっては「インタビュー会場に現金を持ち込まず、あとで銀行振込をする」というケースもあるかもしれません。その場合は、領収書の代わりに第8回で紹介した「謝礼のお振込先の口座番号シート」を記入してもらいます。
なお、振込先は口頭で聞かず、シートに記入してもらいましょう。筆者は口頭でやりとりしたために名義人を聞き間違ってしまい、あとになって振込できずに困ったことがあります。
リモートのインタビューでも、やはり「謝礼のお振込先の口座番号シート」を記入してもらい、メールで送ってもらうようにします。
インタビュー会場のようす
ここまでの内容をまとめると、インタビュー当日の会場の様子は次のようになります。
リモートのインタビューでは「インタビュー対象者のようすをちゃんと中継できるか」が大きなポイントになります。途中でユーザビリティテストをする場合、画面共有をしてもらうのか、スマホアプリの場合はどのようにして画面を中継してもらうのかを考えておく必要があります。
例えば、画面共有のわかりやすい手順書をつくり、インタビュー対象者に送っておくのも良いでしょう。
インタビュー会場に用意しておく物の
チェックリスト
ここまでの内容をチェックリストにしました。併せて、小物として準備するものも記載しています。インタビュー対象者が気持ち良くインタビューを受けられるような心遣いが大切です。また、傍聴者が安心して聴くことができるようにします。
No | 対象 | 項目 | 数量 | 説明 |
---|---|---|---|---|
1 | 会場 | 会場の設営と動作確認 | - | 前述の「インタビュー会場のようす」に沿って会場の設営と動作確認をする |
2 | 会場 | ICレコーダー (または録音機器) |
1台(+予備) | 発話を録音する。故障に備え予備にiPhoneなどでも録音できるようにする |
3 | ユーザー | 謝礼 | ユーザーの人数分 | 謝礼を準備する。金銭や商品券の場合はユーザー1人ごとに封筒に入れておく。渡すときは金額を確認してもらうため封はしない。謝礼が物品の場合はユーザーが持ち帰りやすように手提げ袋を用意する。ノベルティなどあれば一緒に渡すと喜んでもらえる |
4 | ユーザー | 領収書 | ユーザーの人数分 | 謝礼を受け取った旨の領収書。事前に金額などを記入しておき、ユーザーは署名と捺印だけすれば良いようにしておく |
5 | ユーザー | プライバシーポリシーシート、 機密保持の同意シート |
ユーザーの人数分 | あらかじめ印刷しておき、調査の冒頭で記入してもらう。自社の「個人情報情報保護方針」を印刷して用いることが多い |
6 | ユーザー | 飲み物、お菓子 | ユーザーの人数分 | ユーザーにリラックスしてもらうために出す。机の上に用意 |
7 | 傍聴者 | 気づいたことをメモするふせん、筆記用具 | 傍聴者の人数分 | 見学中に気づいたことをメモするために用意 |
8 | 傍聴者 | 飲み物、お菓子 (傍聴者向け) |
傍聴者の人数分 | 調査が長時間に及ぶ場合は傍聴者も疲れるため、飲み物などリラックスできるものを用意しておく |
9 | 傍聴者 | 傍聴者への案内チラシ | 傍聴者の人数分 | 傍聴のポイントをシートにまとめ配布すると理解がスムーズになる |
前日はインタビュー対象者にリマインドする
インタビューの前日には、インタビュー対象者にリマインドの連絡をしましょう。筆者は、できるなら電話が好ましいと思っています。メールやメッセージだと見落とす可能性があるのと、事前に電話で話をしておくことで当日の初対面感が少し薄れ、インタビューがしやすくなるためです。またリマインドすることでドタキャンのリスクを減らすことができます。
モデレーター:はじめまして。明日のヒアリング調査でモデレーターを担当する xxx 社の xxx という者です。前日のリマインドにお電話を差し上げました。明日の xx時からのインタビューは、予定どおりお越しいただけそうでしょうか?
ちょっと余談ですが、専門のリサーチ会社などでは、リクルーティングの段階でもインタビュー対象者へ電話をしているケースもあります。インタビューへの協力を依頼する前に電話で話をして、インタビュー対象者のざっくりとした背景(今回の調査の前提条件を満たしているか)や、ちゃんと筋道立った会話ができる人かどうかを判断しています。OKそうなら、そのままインタビューを申し込みます。
1日に複数回インタビューをするときは
1時間以上間を空ける
何人もの対象者にインタビューをするときは、1日に複数回のスケジュールが入ることもあります。このとき注意するべきは、インタビューセッションの間は必ず1時間、できれば1時間半は空けることです。
インタビューで話が盛り上がると、軽く30分や1時間は延長してしまうことは日常茶飯事です。モデレーターとしても豊富な情報をいただけるのはうれしいことなので、無理に会話を終わりにはしたくありません。
一方で、インタビュー対象者でも几帳面な方は、約束の時間の30分前に会場にいらっしゃることがあります。インタビューセッションの間に余裕がないと、前のインタビューが続いているうちに次のインタビュー対象者が来てしまう、ということが起こります。これはかなり焦るので、充分な余裕を確保しておきましょう。
特にリモートのインタビューでは、会場移動や準備片付けがない分、間の時間を詰めがちです。筆者自身の体験としても、前のインタビューが長引いてしまい、次の時間までに終わらせなければ…と気もそぞろ、せっかく豊富な情報を得るチャンスも途中で打ち切ることになったことがあります。
ドタキャンされることもある
あまり考えたくないことですが、どれほど入念に準備をしても、直前になってインタビュー対象者が「ドタキャン」したり、約束の時間に現れないこともあります。最悪の想定は、いつも心に留めておきましょう。
また、会場までの道のりで迷子になってしまうこともあります。筆者は事前に携帯番号を渡しておき、いざというときに電話連絡できるようにしています。
会場設営ができたら
入念にプレテストをする
「マーフィーの法則」をご存知でしょうか。有名なジョーク集で、まとめるならば「都合が悪いことは、いちばん起きてほしくないタイミングで起こる」というものです。
ユーザーインタビューは、入念に準備をしたつもりでも、思いもよらないことが起こります。まさにマーフィーの法則のように、本番で「えっ!?」というようなことが起こり得ます。だからこそ、念には念を入れた準備をするのです。
これまでも何度かプレテストをしてきているはずですが、会場が整った段階で今一度、入念にプレテストをしておきましょう。
おわりに
今回は、ユーザーインタビューの会場に用意しておくべき諸々の物品について、なぜそれが必要かの理由とともに説明しました。
次回は、いよいよユーザーインタビューの本番(「実査」と呼びます)です! 具体的な会話例を取り上げながら、インタビューの進め方を紹介します。
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