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コロナ禍の逆風にも負けず2022年オープン。九州エリアでの存在感アップを目指す新拠点とは?【前編】

2022年11月1日(火)
工藤 淳

ここ数年、エンジニアにとって「地方で働く」ことが重要な関心事になってきている。この背景には急速に進む働き方改革や少子高齢化による労働人口の減少、そしてコロナ禍によるリモートワークの広がりがあるのは言うまでもない。こうした中で、新たな地方拠点を立ち上げたのが、株式会社システムインテグレータだ。創業から埼玉県に本拠を置き、国内の独立系SIerの草分けとして大きな実績を持つ同社が、あえて九州に新しい「リアルの」拠点を立ち上げた理由は何だろうか。その狙いや、現地で働くエンジニアの仕事ぶりなどを、前編・後編の2回に渡って紹介する。

コロナ上陸の逆風の中、あえて
「みんなで働ける場をつくろう」

「地方で働く」ことへの関心が高まる背景には、冒頭で触れたようにワークライフバランスの考え方の広がりや、労働人口の減少で優秀な人材が都市部だけでは集まらないといった社会的な理由が大きい。もちろんコロナ禍は、その変化を急激に加速させた予期せぬ要因だ。

一方では、クラウドをはじめとしたネットワーク環境の飛躍的な進化が、長らく続いてきた「都会に出て働く」というスタイルを劇的に変えている。企業の営業活動も、インサイドセールスやリモートによるサポートなどで、対面と変わらないサービスや迅速なソリューション展開が実現できるようになった。もう遠方まではるばる出かけて行ったり、本社から離れた場所に営業やエンジニアなどのリソースを割く必要はないようにすら見える。

こうした中で、システムインテグレータは2022年5月に、東京、大阪に次ぐ3番目の拠点として、福岡県福岡市内に福岡支社を立ち上げた。長引くコロナ禍で多くの企業がリモートワークの比重を高める中で、新拠点のオープンに踏み切った背景にはどのような狙いがあったのだろうか。支社長を務める岩崎 健太郎氏は、同社のERP事業部製品開発部長、および福岡開発部長も兼任。埼玉本社の在籍時から、福岡支社の開設に関わってきたという。

「私自身は2008年に新卒で入社して、ずっとERP開発部に所属しています。以来、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーも数多く経験して、2021年に部長を拝命したタイミングで、すでに動き始めていた福岡の方も見てくれと言われて担当になりました。そのうちに福岡支社を作るとなって、地元での中途採用は全部自分でやっていたこともあり、これは最後までちゃんと立ち上げないといけないと。それで責任者になって現在に至ります」

それにしても、支社の開設準備室を立ち上げたのが、2020年2月のコロナ上陸から2カ月後の同年4月とあって、よくある「前からやっていたので、止められなかった」ではない。むしろ逆風をものともせず踏み切ったわけだが、その理由はなんだろうか。

「もちろん世の中的には『在宅メインの方が良い』と言う方も多いのですが、福岡のメンバーに限って言うと『出社したい』という人の方が多かったのです。あと、みんな飲むのが好きで〜もちろん感染がひどい時は控えましたけど~、そういった仕事も時間外も含めて職場に来る楽しみがあったりとか、仲間で和気あいあいとやれる環境が良いという空気があって、じゃあメンバーが10人になったタイミングで、前の開設準備室は手狭でもあるし、正式に支社を開設しようとなったのです」

株式会社システムインテグレータ ERP事業部製品開発部長 兼 福岡開発部長 兼 福岡支社長 岩崎 健太郎氏

株式会社システムインテグレータ ERP事業部製品開発部長 兼 福岡開発部長 兼 福岡支社長 岩崎 健太郎氏

本社や大阪と連携する一方で、
地元パートナーとの協業を強力に推進

福岡支社のこれまでを時系列で見てみると、2020年4月に社員2名で福岡準備室を設立。同年10月には岩崎氏が参画した。その後徐々に人数を増やし、2022年5月、10名になった時点で支社がオープン。同年10月現在の人数は11名だ。業務内容は、同社の主力商品の1つである完全統合型Web-ERPの「GRANDIT」の導入・開発である

と言っても、福岡エリアだけの仕事だけを受け持っているわけではない。岩崎氏はERP事業部の製品開発部長でもあるため、本社チームとの共同プロジェクトや、本社管轄の案件も担当している。また九州地区での営業は大阪支社がメインで担当しており、逆に福岡支社から関西地区の案件を提案することもある。九州ローカルの拠点というよりは、システムインテグレータのビジネスを支える、国内ネットワークの1サテライトというイメージだろうか。

「立ち位置としては、本社も各支社もお互いに協力し合っていくという関係性ですね。企画提案だと、本社案件で東京のお客様を福岡主管でやりましょうということもありました。特に最近はコロナ禍でWEB会議が当たり前になっているので、お客様もやり取りに抵抗がなくなっているのも追い風です」

もちろん、一方で「九州のシステムインテグレータ」として地域に根を張るための取り組みも併せて進めている。福岡県以外にも積極的に営業エリアを拡大していく中で、現在進行中の案件には熊本の企業のプロジェクトもあるという。今後の課題としては、関東圏と九州圏の単価の差をどのように克服していくか。もともと地方は売値が違うので、東京の価格で提案してもかなわない可能性があると岩崎氏は明かす。

「その点、大手企業になると地方での単価差は少ないので、この先は少し大きめの会社向けの提案を強化するとか、いろいろ戦略を練っているところです。もちろん当社単独では地域に入り込んでいけないので、地元のSI企業などと積極的に組んでいこうと考えています。幸い福岡には昔からお付き合いのあるパートナーさんがいて、熊本の案件にも入っていただくなど、これから一緒にどんどんやっていきましょうというお話をしているところです」

中途採用も新卒も、即戦力よりむしろ
「入社してから育てる」ことを重視

開設準備室の発足から正式オープンまで、福岡支社では少しずつエンジニア採用を進めてきた。特に2021年は中途採用が多かったというが、人選にあたって岩崎氏が重視するポイントは何だろうか。

「まず一番気にしたのは、みんなとの相性です。やはり人間関係が最も仕事に影響してくるので、なるべく周囲とうまくやっていける人を選んだつもりです。同時に人材が偏るのも良くないので、色々なパターンの人を採るように心がけました。もちろん、そんな自分が思っている通りスムーズにいくことでもありませんが、よかったのは関東に比べればやはり人が採りやすいということですね。これは採用を通じて、強く感じていました」

本社のある埼玉をはじめ、関東圏だとシステムエンジニアやPCの技術者が足りないことにいつも悩まされていたという。だからといって、給与体系を安易に変えるわけにもいかない。同じ条件であれば、やはり福岡の方が採用しやすいのは明らかだ。

最近は給与の差だけではない。技術者の中には大都市でなく、あえて地方で働きたいという人も増えている。「今いる社員の1人は東京で働いていましたが、出身地の九州に戻りたいという意向があって、転職してきました。地方拠点は、そういう志向を持った優秀な技術者の受け皿になれる可能性があります」と岩崎氏は意欲を見せる。

中途採用がメインの場合、ある程度の即戦力を期待する企業も多いが、現在の福岡支社では、採用後に教育して伸ばしていくことを見込んで人選しているという。

「幸い、最初からいたメンバーがみんな経験者で、腕の立つ人たちでした。その後、外部から入ってきた人たちも、以前から一緒に仕事をしていたので、安心して任せられる経験者ばかり。それだけ基盤がしっかりしていれば、これから募集する人は即戦力じゃなくても大丈夫だと。むしろこれからは若手のメンバーを入れてどんどん育てていって、将来を担う人材になってもらおうと思っています」

福岡支社では、エンジニアをはじめ年間を通して社員の採用を行なっている。2022年の採用は予定人数を達成し、現在はすでに来期の募集に向けて動き始めているところだ。これまでは中途採用がメインだったが、今後は新卒も継続的に採っていく予定だという。

「今年初めて、新卒が1人入ってきました。来年度以降も、基本的には1~2名ですが、良い人がいれば、ぜひ採用したいと思っているので、気軽にアプローチしていただきたいですね」

チームの輪を重んじる岩崎氏は受け答えも明るく柔らかい

チームの輪を重んじる岩崎氏は受け答えも明るく柔らかい

「まずは知名度をアップ」を目標に、
地元での情報発信や交流を進める

企業が地方に拠点を展開する上では、地元自治体が受け入れ体制を整えているかどうかも、成功のための重要なポイントになる。現在は自治体側も地域の活性化や経済振興のために、さまざまな企業立地や誘致の助成金・補助金制度を設けているところが多い。福岡県でも、県内に新たに拠点進出する事業者を対象に「福岡市立地交付金制度」と呼ばれる助成の仕組みを提供しており、対象分野の1つに「知識創造型産業(ソフトウェア・コンテンツ開発等)」がある。福岡支社でも、この制度を利用しているという。

「現在はまだ申請中ですが、この制度は支社の開設当初から利用したいと思っていました。福岡市の担当の方も大変協力的で、現在の場所に移る際に移転先のオフィス見学に同行してくれたり、細かい要件の相談に乗っていただくことができました」

2年間の準備期間を経てようやく正式にスタートを切った福岡支社だが、今後の課題としては「まずは知名度を上げていくこと」だと岩崎氏は意気込む。そのためにも上で触れたように、もともと地元で営業してきた企業とのコミュニケーションを深め、共同プロジェクトなどの実績を作っていくことが肝心だと考えている。

「すでに現時点でも福岡市で複数のプロジェクトを回しているので、新たに参入するというよりも、プロジェクトの数をどんどん増やして、売上規模を大きくしていく。そうなれば社員数も必然的に増えていくので、そうした方向での充実を目指していきたいと願っています」

* * * * *

採用に関しての知名度アップにも積極的に取り組んでいく。それには実績を作ることが何より重要だが、プラスして自治体が主催する就職関連のイベントや大学生向けのインターンシップ説明会などにも積極的に顔を出し、「システムインテグレータの福岡支社」を印象付けていく予定だと語る岩崎氏。来年度は、ビジネスの面でも人材採用の面でも、福岡支社にとってさらなる加速の年になりそうだ。

続く後編では、福岡支社のメンバーから5人のエンジニアに、福岡で働こうと思った理由や会社、そして自分の仕事への想いなどを語っていただく。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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