AIは実社会でどのように活用されているのか⑦ー画像認識(5)(Image Recognition)
実用化の状況
実際、画像診断AIの実用化はどのくらい進んでいるのでしょうか。一般にAI活用は、①研究→②実証実験→③発売→④実用というステップで社会に浸透します。表2に日本におけるCAD取り組みの主なニュースリリースをまとめました。画像の種類によって進んでいる技術とまだ時間がかかりそうな技術があります。プレイヤーはかなり多く、“実用化に向けて研究・開発中”というリリースも多いため、ここでは薬機法承認、発売開始といったステップ③まで到達したもののみピックアップしています。
画像 | 企業 | 内容 | システム名 | リリース |
---|---|---|---|---|
内視鏡 | オリンパス/サイバネット | 浸潤がん診断(発売) 大腸炎症診断(発売) |
EndoBRAIN-Plus EndoBRAIN-UC |
2021/1/27 2021/1/27 |
内視鏡画像診断支援ソフトウェア(薬機法) | EndoBRAIN-EYE | 2020/3/2 | ||
富士フィルム | 内視鏡診断支援機能(発売) | CAD EYE | 2020/10/26 | |
NEC | バレット食道腫瘍検知大腸腫瘍(CEマーク) | WISE VISION Endoscopy | 2021/7/14 2021/05/28 |
|
CT/血管撮影 | 富士フィルム | 肋骨骨折検出(薬機法承認) | SYNAPSE SAI Viewer | 2021/10/7 |
キヤノンメディカルシステム | 超解像度画像再構成AI(販売開始) | PIQE ADCT |
2021/11/25 | |
エルピクセル | 胸部CT画像の読影を支援(販売開始) | EIRL Chest CT | 2022/4/4 | |
島津製作所 | 血管撮影画像処理にAI搭載(発売) | Trinias | 2022/4/11 | |
X線 | エルピクセル | 胸部X線画像の読影を支援(販売開始) | EIRL Chest Screening | 2022/4/4 |
島津製作所 | X線TVシステムの画像処理AI(開発) | SONIALVISION 4G | 2022/4/7 | |
MRI/MRA | エルピクセル | 脳動脈瘤の診断を支援(薬事承認) | EIRL Aneurysm | 2019/10/15 |
Splink | 脳画像解析で認知症診断支援(薬事許可) | Braineer Brain Life Imaging |
2021/6/15 | |
超音波 |
内視鏡
内視鏡は、オリンパス、富士フィルム、ペンタックス メディカルの3社で世界の9割以上のシェアを持つ医療機器で、CADの実用化も進んでいます。
オリンパスは、サイバネットシステムが薬機法承認取得した内視鏡画像診断支援システム「EndoBRAIN-EYE」を販売しています。2021年2月5日には、大腸内視鏡でリアルタイムに浸潤がんの診断をサポートする「EndoBRAIN-plus」と炎症活動性評価をサポートする「EndoBRAIN-UC」という2製品を出しています。
一方、富士フィルムは2020年11月30日に内視鏡診断支援機能「CAD EYE」を富士フィルムメディカルを通じて発売しています。この分野にはNECも参入しており、2021年5月と7月にバレット食道や大腸の腫瘍検知を行う製品「WISE VISION Endoscopy」がCEマークを取得して欧州で販売開始すると発表しています。
内視鏡分野では、薬機法やCEマークを取得して、発売までこぎつけているのが特徴です。
CEマークとは、製品がEUの基準に適合していることを示すもので、EU領域内の自由な販売・流通が保証されます。一方、薬機法は、2014年の旧薬事法改正に伴い名称が変わったもので、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品の品質、有効性、安全性確保のための法律です。この薬機法に基づいて厚生労働省から承認を得ることを、薬事承認や製造販売承認、薬機法承認などと言います。
X線
2014年に設立されたエルピクセルは、CADの分野で活躍しているベンチャー会社の代表格です。2020年8月には、胸部X線画像から肺がんが疑われる肺結節候補域の検出を行うEIRL Noduleを発売しています。2022年2月3日には、これに5つの計測機能を追加したEIRL Chest Screeningの発売を発表しています。
“匠の技をAIに”という取り組みは、多くの業界に共通するAI活用法の1つです。これをX線検査で取り入れたのが島津製作所です。放射線技師のノウハウを学習したAIを使って最適な画像を提供するソフトウェアを開発し、X線TVシステム「SONIALVISION G4」のオプションとして2022年4月7日から発売しています。これは撮影画像から最適な病変画像を抽出するスクリーニングにAIを用いたものです。以前に解説した“物体検知AI”に相当するもので、AIが診断をする“異常検知AI”ではありません。
CT
身体ごとドームの中に入って輪切り画像(断層映像)を撮影するCT(Computed Tomography)は、実はX線検査です。従来のレントゲン検査が一方向からX線を当てるのに対し、CTは周囲からX線を当てて3次元画像処理するため、より詳しく検査できます。CTのCADは以前から実用化が進んでいましたが、さまざまな用途にAIが使われ始めています。
キヤノンメディカルシステムズは、ディープラーニングを応用した超解像画像再構成技術を取り入れたCT装置を2021年11月25日から販売開始しています。超解像画像再構成とは、低解像度の画像から高解像度の画像を復元する技術のことで、刑事ドラマで監視カメラのぼやけた画面をはっきりさせる魔法のシーンを実現しているのがこれです。この製品は超解像度画像再構成技術にAIを活用したもので、画像診断そのものにはAIを利用していません。
富士フイルムは、AI画像診断プラットフォーム「SYNAPSE SAI viewer」を用いた肋骨骨折検出プログラムを2021年10月7日より発売しています。こちらもディープラーニングをワークフロー支援という設計技術に応用したもので、画像診断そのものにはAIを利用していません。
エルピクセルもCT向けソフトを出しています。2022年4月4日の発表では、AI画像診断支援技術「EIRL」を使った胸部CT画像読影支援システム「EIRL Chest CT」を発売開始しています。これは、観察対象領域(疑わしい部分)を抽出して、その体積と最大径を測定するもので、CADe(検知AI)の使い方になります。
島津製作所は、血管撮影システム「Trinias」を2022年4月11日に国内販売開始しました。こちらは、X線の照射線量を削減しても視認性を向上できるように、画像処理エンジンとしてAIを搭載しています。
MRI/MRA
脳の細胞に電磁波を当て、含まれる水を共鳴させて脳の画像を得る検査方法がMRI(磁気共鳴画像撮影法)です。ドラマなどでアルツハイマー病患者の脳画像を診ているシーンに出てきますね。一方、MRA(磁気共鳴血管撮影法)は同じ電磁波を使う検査ですが、脳血管のみを浮き立たせた画像です。こちらは、クモ膜下出血の原因となる脳動脈瘤などを見つけるのに使われます。
ここでは、ベンチャー企業2社の取り組みを紹介しましょう。エルピクセルは、2019年10月15日にMRI画像から脳動脈瘤の診断を支援する画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm」の薬事承認を得て発売すると発表しています。
もう1社は2017年に設立されたSplinkです。こちらは、2021年6月15日に脳画像解析プログラム「Braineer」が認知症診断を支援するソフトウェアとして薬事承認を取得したことを発表しています。
エコー(超音波)
エコー検査は、診察台に横たわってゼリーを塗って超音波を当てる検査で、受けたことのある人も多いと思います。超音波プローブから発した超音波が体内の臓器ではね返ってくるのを画像として映し出すもので、内視鏡と同じくリアルタイム検査です。
エコーのAI CADの取り組み事例を探したのですが、これといった実用化のニュースは見つかりませんでした。術者の技量レベルのばらつきや機種が多いことなどによる画像の多様性の高さが課題のようです。現在、日本超音波医学会がAMADの支援を受けて大規模なデータベース構築とAI開発を行っており、これからの実用化が期待されます。
おわりに
医用分野におけるAIの活用は、4年前に期待したレベルにはまだ到達していないようです。私も工場製品の異常検知システムに4年間携わっているので、次々にぶち当たる課題を克服していきながら実用化に近づいていく苦労がよく理解できます。
でも、ようやく早春の野山のように息吹が芽生えてるのを感じます。芽が出たらその後の成長は早いです。医用のCADと工場の異常検知の画像処理分野において、ほぼ同時にAIが実用化され花開く時代が確実に来ていると思います。
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