パブリッククラウドを使ったDBaaSを展開するAivenの日本代表にインタビュー
Aivenはフィンランドに本社を構えるDatabase as a Service(DBaaS)のベンチャー企業だ。3大パブリッククラウドのAWS、GCP、Azureだけではなく、OEMとしてDigitalOceanやOHVcloudなどにもソリューションを提供し、ユーザーが必要とするデータベース構築から運用に関して、ユーザーが必要とするデータベース利用以外のさまざまな雑用を簡易化し、可用性も高めながらコストを削減するというビジネスを展開している。日本では2022年4月から本格的に業務をスタートしている。Aiven Japan合同会社の代表は、かつてOpenStackのディストリビューションベンダーとして名を馳せたMirantisの日本代表を務めた嘉門延親(かもん のぶちか)氏を迎えている。
今回は嘉門氏へのインタビューを通じて、Aivenの概要とその差別化ポイントなどを紹介する。
これまでMirantisの日本代表として何度かお会いしていますが、今回はAivenの日本代表、違いは何ですか?
そうですね、Mirantisの時はOpenStackをユーザーに使ってもらうというのがゴールでしたが、とにかく時間がかかりました。OpenStackのユースケースは、ひとつとして同じ構成がありません。それをヒアリングしながら、最適な構成をシステムインテグレーションとしてやっていくというのがとても大変でしたね。でもAivenのビジネスは非常にシンプルでわかりやすいし、コストも見えるので売りやすいです(笑)。
Aivenの特徴をひとことで言うとなんですか?
「データインフラをシンプルに」というのが会社としてのマントラなんですが、文字通りデータベースやビッグデータを使うための無駄なことを私たちが請け負って、ユーザーはシンプルにWebの画面をポチポチって操作するだけで、例えば1ヶ月かかっていた準備作業が10分でできるようになるというのが私たちの提供する価値になりますね。そしてそれをマルチクラウドで提供できることですね。例えばAWSで動いていたアプリケーションのデータベースをGCPにレプリケーションして、どこかのタイミングでマイグレーションするみたいなこともワンクリックでできます。今のところ、Kafkaをマルチクラウドで使いたいというユースケースが多いですね。
コストもそうですが、可用性についてクラウドプロバイダーでは99.95%の稼働率だったものがAivenを使うことで99.99%にするみたいなことがスライドにありましたが、それができる理由は?
パブリッククラウドを使いながらある一ヶ所の可用性を上回るのは、他のリージョンにまたがって利用する方式を取っていて冗長性を上げているからです。普通にパブリッククラウドを使っているだけだとその上には行かないですが、Aivenはマルチクラウドでの運用が可能なので、AWSが落ちてもGCPで実行するみたいなことが瞬時にできるからですね。
あとコストについても通常のパブリッククラウドだと、CPUのレベルとかコア数とかメモリーサイズとかだけではなくてデータの転送量に関しても課金されますし、IPの数とかバックアップの世代数についても課金対象になってしまうので、運用する側はコストが想定よりも高くならないように考えないといけません。しかしAivenのモデルだと、サーバーとキャパシティつまりCPUのレベルとメモリーサイズだけでネットワークのデータ転送量は関係ありません。そのため「気がついたらコストが跳ね上がっていた」ということがなくなります。あと別の観点でのコストになりますが、人的コストについてもかなり抑えられると思いますね。
それはどういうことですか?
これまでは、新しいデータベースやサービスを使おうとすればそのデータベース例えばPostgreSQLだとかKafkaについてかなり詳しいエンジニアがいないと使えませんでした。その点Aivenのサービスを使えば、アプリケーションのデベロッパーさえいればデータベースのインストールだとか運用だとかアップグレードなども全部Aiven側で担当しますので、そういう人的リソースが要らなくなるというのも大きいと思います。時間も短縮できますし。
AivenのDBaaSの対象となるのは主にオープンソースのデータベースになりますが、パブリッククラウドベンダーがオープンソースにタダ乗りして売り上げを上げているのにコミュニティに還元しないという不満があると思います。Elasticがパブリッククラウドでのサービスに使われることを防ぐライセンスに移行しましたし、先ほど見せてもらったメニューの中でもElasticsearchは提供不可になっていました。それはその影響ですか?
そうですね。なのでこれまでElasticsearchを使っていた顧客にはOpenSearchに移行してもらっています。先に質問として松下さんからもらっていた「Aivenはオープンソースにタダ乗りしているのにコミュティに還元はしないのか?」については、Aivenのエンジニアがオープンソースコミュニティの中でコードの提供や修正という労力の部分で還元をしているということになります。実際にOpenSearchのコミュニティでは、AWS以外に参加しているコントリビュータはAivenだけじゃないかなと思います。
ただそれだけではAivenのビジネスに必要な部分のコードを書いている、もしくは関連するところを修正しているということなのか、PostgreSQLのコアの部分に貢献しているのかはわかりませんよね? Aivenには使うデータベースやサービスを選択する画面があるんだから、例えばPostgreSQLのコミュニティには今月このくらいコントリビューションしましたみたいなことがドリルダウンできるビューがあっても良いかなとは思います。
そうですね(笑)
パブリッククラウドを使ってデータベースサービスをマルチに展開するとなると、データの移動についても技術的には可能になるということですね。例えばヨーロッパで運用していたアプリケーションが使う個人情報データベースをアメリカに移動するなんてこともできると。
GDPR(General Data Protection Regulation、EU一般データ保護規則)のことですね。そうですねAivenのサービスはマルチクラウドで瞬時にデータを複製することができますので、ユーザーがヨーロッパにある個人情報のデータベースを域外に移動しようとすれば技術的には可能です。Aivenにはそのデータの中身がなんであるのかを知る術はありませんので、あくまでもユーザーが自身の責任において実行するということになります。
Aivenのダッシュボードを見ますと、まず何のデータベース、データサービスを使うかを選んでそれから規模と実行場所、つまりAWSなのかGCPなのかAzureなのかを選択するという順序になっていてデベロッパーには直感的でわかりやすいと思います。他に何かユーザーインターフェースとして訴えたいところはありますか?
オープンソースソフトウェアの場合、どうしても脆弱性の発見とその修正、そして本番環境や開発環境への適用というのが必須になります。Aivenでも緊急度によってAivenがユーザーに注意を喚起したうえでその修正をAivenが適用するということが可能になっています。また手動で修正を適用することも可能ですので、運用の形態や影響度によって柔軟に対応することができるようになっています。その辺もすべてWebのユーザーインターフェースから実行可能です。
最後に会社としてのAivenについて何か伝えたいことがあれば。
フィンランドの本社に行ってみて驚いたことは、オフィスの中にサウナがあることですね(笑)。あれはちょっとビックリしました。あと男女の比率もかなり女性の比率が高かったですね。それも驚きの一つです。社員数は約600名で、アジアでは日本とシンガポールに拠点があります。
中国でのビジネスは?
中国には拠点もないですし、ビジネス自体もまだそこへ向かうという予定はないと思います。中国はやっぱりちょっと難しいですよね、参入が。
今回、ステッカーとTシャツをいただきましたが、AivenのカニのキャラクターはRustの非公式マスコットのFerrisにそっくりですね。
え? そうなんですか? (ここでFerrisについて調べる嘉門氏)あ、確かに良く似ていますね。Aivenのカニのキャラクターはいろいろ候補があった中、CEOの娘さんが「カワイイからこれにして」ということで決まったと聞いています。やっぱりカワイイのは正義ですね(笑)。あとこのステッカーもそうですが、Tシャツを作るにもサステナビリティに気を遣っているか?をちゃんとチェックされるんですよ。なので安い中国製のTシャツは使えなくて。そこまで徹底しているんですよ。
日本ではパブリッククラウドのユーザーに徐々に浸透し始めているというAivenのサービスだが、3大パブリッククラウドにとっては大口の需要家として高く評価されているという。イベントもオープンソース系のカンファレンスではなくre:Inventなどに参加しているのは嘉門氏のコメントを借りれば、「AivenはパブリッククラウドのVAR(Value Added Reseller)」だからだ。既存のパブリッククラウドのコスト問題やマルチクラウド移行に頭を悩ませているユーザーにとってはコストを下げ、可用性を上げつつマルチクラウドや各種データベースにセルフサービスで実装できるサービスは夢のようなモノだろう。オープンソースコミュニティへのタダ乗り問題も土台となるパブリッククラウドとは一蓮托生、コミュニティへの参加も積極的に行うことで反感を買わないように努力していることが見てとれる。リスクがあるとすればElasticのようなベンダーから敵視されること、パブリッククラウドが機能を模倣することくらいではないだろうか。今後の成長を注視していきたい。
Aiven公式サイト:https://aiven.io/ja/
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