5年ぶりのオフライン復活!「JAWS DAYS 2024」に見る、熱量の高いコミュニティの原動力とは

2024年3月7日(木)
Innerstudio 鍋島 理人

2024年3月2日、池袋サンシャインシティ 展示ホールAで「JAWS DAYS 2024」が開催された。5年ぶりのオフライン開催で熱気に包まれる会場からは、コロナ禍からのコミュニティの再生を感じ取ることができた。今やエンジニアの成長にとって欠かせない存在となったコミュニティ。その中でも最大規模を誇るJAWS-UGの熱量の秘訣はなんだろうか。JAWS DAYSのレポートと、コミュニティリーダーへのインタビューを通して探る。

5年ぶりのオフライン開催に沸いた
JAWS DAYS 2024

JAWS DAYSはJAWS-UG主催としては最大規模のイベントで、2011年以来、一部の年を除き、毎年3月に東京で開催されている。2020年のCOVID-19パンデミックによりオンラインへの移行を余儀なくされて以来、東京では5年ぶりのオフライン開催となった。

今年のテーマは“LEAP BEYOND”。「ビジネスとテクノロジー」「地方と都市」「学生と社会人」など、さまざまなバックグラウンドと価値観を持つ参加者が、同じ空間の中でコミュニティを飛び越えてコミュニケーションすることで、新しい可能性を生み出す場と位置付けている。参加登録者数は1080名を超え、実際の参加者数も約890名に上り、会場は大変な賑わいを見せた。

その熱気を支えるのが、16名の実行委員と100名ものボランティアスタッフだ。JAWS DAYSの運営は、全国から集うJAWS-UGのコミュニティメンバーによって、すべて自主的に行われる。会場ではセッションと展示だけでなく、ワークショップやディスカッション、さらに「re:Invent 2023」で話題になったカードゲーム「AWS BuilderCards」の日本語版の体験会など、バラエティ豊かな催しが用意された。また、オープニングでは退任直前のAWSジャパン代表執行役員社長 長崎 忠雄氏が応援に駆けつけ、会場が沸いた。

そこには、コロナ禍のブランクを感じさせない、エネルギッシュなコミュニティの姿があった。参加者とスタッフが一丸となって生み出す熱量の源は、どこにあるのだろうか。

テクノロジーへの情熱が
コミュニティを駆り立てる

そこで、本記事では2つのセッションを紹介したい。1つはKeynoteのJeff Barr氏によるセッションだ。クラウド黎明期からAWS、そしてJAWS-UGとともに歩んだBarr氏にとって、コミュニティとはどのような存在なのだろうか。

Vice President & Chief Evangelist, Amazon Web Services Jeff Barr氏

コンピューターの黎明期から、テクノロジーとコミュニティは切っても切り離せない関係にある。そのことを示すために、Barr氏は1975年のAltair 8800、商業的に成功した最初のPCのエピソードを紹介した。Popluar Electronics紙にAltair 8800の広告が掲載されたとき、「1人1台のコンピューター」というSFの夢物語が現実になったと、多くの人が熱狂した。

しかし最初のPCは組み立てキットであり、現代のPCのように買ってすぐ使えるものではない。組み立てるには電子工作のスキルが必要で、目的に応じて自分で追加の部品を買う必要もあるなど、ハードルは高かった。そこで、自然と情報交換の輪が広がり、コミュニティが生まれた。それが、シアトルのパシフィックサイエンスセンターで結成された、Altairのユーザーグループ「Northwest Computer Club」だ。このクラブは年齢や肩書は関係なく、ただPCが好きな人たちが集まっていた。当時若者だったBarr氏も、そこに参加していた。

その感覚は「AWSが登場したときの興奮と似ている」とBarr氏は言う。クラウドをどう使えば良いか模索しながら、テクノロジーが好きな人たちが自発的に集い、熱量の高いコミュニティを生み出す。それがJAWS-UGへと繋がった。Barr氏は歴史を振り返りながら、休日にも関わらずJAWS DAYSに集った参加者とスタッフの情熱を称えた。

そのJAWS-UGにもBarr氏は黎明期から関わってきた。2010年、AWSジャパン(当時はアマゾン データ サービス ジャパン)の小島 英揮氏に誘われ、Barr氏はJAWS-UGのキックオフイベントに参加した。その後、世界中のAWSユーザーグループと関わる中で、常にロールモデルとして思い浮かぶのは、日本のコミュニティの成功だという。

ここでBarr氏は世界各国のコミュニティにおけるイノベーティブな取り組みを紹介した。多言語国家であるベトナムでは、FacebookでStudy Groupを作り、初心者向けのコンテンツ翻訳に力を入れている。ネパールでは女性エンジニアをエンパワーするため、AWS認定エンジニアを増やすための「She Can」という取り組みが成功した。韓国では、学生によるAWSユーザーグループがコミュニティの継承と世代交代を円滑にした。グローバルでは情報発信する人を増やすべく、スピーカー初心者がフレンドリーな場で話せる「Open Mic Night」を行っている。

そして、日本からはJAWS DAYS 2024 実行委員長の早川 愛氏が、社内コミュニティによるイノベーションを紹介した。野村総合研究所(NRI)では8年前から毎週、社内勉強会が行われている。スキルアップを望むエンジニアが自発的に継続しており、JAWS−UGのメンバーもたくさんいる。勉強会を通して社内のスキル底上げだけでなく、部署を横断した繋がりや社外コミュニティへの参加も増えた。KDDIは社内エンジニアが部署を超えて繋がるTech-inと、社外のエンジニアも招いて外の世界と繋がるTech-onという2つのコミュニティを運営し、企業風土にコミュニティの文化を注入することに成功した。どちらの事例も、社内コミュニティを通して企業の中にいながら「外のモノサシ」を持つことに成功し、イノベーションを生み出す土壌を醸成している。

「コミュニティの魅力はテクノロジーが好きな人なら誰でも歓迎することだ」とBarr氏は言う。コミュニティはいつも、経営指標では価値を測れないような小さなオーディエンスから始まる。しかし、テクノロジーが好きで、繋がりたい、学びたいといったモチベーションを持つ人が集うことで、それが大きく成長していく。どんな小さなアウトプットでも、それがコミュニティの価値になると、Barr氏は強調した。

コミュニティに活気をもたらしたAWS芸人
「クラウドで遊び倒せ」

JAWS-UGの熱量の源を探るにあたって、もう1つ紹介したいのが、JAWS-UG初期のコアメンバーである渥美 俊英氏、竹下 康平氏、得上 竜一氏による、JAWS−UG初期の歴史を振り返るセッションだ。

左から、一般社団法人日本クラウドセキュリティアライアンス 渥美 俊英氏、一般社団法人日本ケアテック協会 竹下 康平氏、株式会社ハンカチ 得上 竜一氏

クラウドが登場した頃、JAWS-UGに集うエンジニアは、新しいサービスを使っていかに面白いものを作るか考えていた。中でも「AWS芸人」と呼ばれる人々は、技術力を駆使して全力で「おふざけ」に挑み、笑いと称賛を勝ち得ていた。以下、AWS芸人による、いくつかの「技術力の無駄遣い」を紹介しよう。

「AWS CloudFormation」が登場したとき、得上氏は「人間CloudFormation」という一発芸に挑んだ。逆説的にCloudFormationの便利さを伝えるものだが、流れるような作業を称賛する声も多く好評だった。後には、本物のCloudFormationとの対決も行われ、当時の勉強会会場を沸かせたという。

「Amazon Simple Workflow Service」が登場したときには、最適な使い道はオーケストラ演奏(?)なのではないかという仮説のもと「SWFオーケストラ」というデモアプリを作った。参加者の各PCにWorkerをダウンロードしてもらい、それをAmazon SWFで時間同期させる。各WorkerがMIDIで1台ずつ楽器を演奏し、オーケストラを再現しようという、遊び心に溢れた企画だった。

当時を振り返って、渥美氏は「JAWS-UGに集まる人は、とにかくAWSを使い倒すことを楽しんでいた」と言う。つまりコミュニティの原動力になっていたのは、「AWSって楽しい」という感覚だ。

黎明期のJAWS-UGにとっての、もう1つの原動力が「クラウドで日本を変える」という使命感だ。そのきっかけとなったのが、2011年3月11日の東日本大震災、AWS東京リージョンが開設してから、わずか9日後の出来事だった。竹下氏は「3.11はテクノロジーを使って様々な人を支援したいという思いを抱いた転換点だった」と振り返る。Twitter(現X)上ではエンジニアによる活発な情報発信と議論が行われ、手を動かしながらIT面での支援が行われた。日本赤十字社のサイト復旧に始まり、災害支援情報や募金サイトなど、サービス立ち上げや負荷軽減をAWSで支援する取り組みに、JAWS-UGからも多くのメンバーが参加した。渥美氏は、このときの経験を通して「クラウドに確信を持った出来事だった」と語った。

最後に3人は、以下のような言葉で現代のJAWS-UGメンバーにエールを送った。

  • 渥美氏
    「サービス数が増えても、AWSが楽しいという感覚は変わらずコミュニティに受け継がれている。日本のITの遅れを取り戻し、日本を救うのはクラウドエンジニアだ」
  • 得上氏
    「仕事で触るだけではもったいないので、まずはAWSを使って遊んでみることを勧めたい。失敗を恐れずにチャレンジすると楽しいし、結局それがキャリアにも繋がる」
  • 竹下氏
    「当時はクラウドを使っていると白い目で見られたりもした。イノベーションには必ず抵抗があるが、それすらも楽しんでほしい」

JAWS-UGの今とこれから

ここからは、JAWS DAYS 2024実行委員長 早川 愛氏と元実行委員長・2024 アドバイザー 吉江 瞬氏に、今年のJAWS DAYSの運営についてお話を伺った。

左からJAWS DAYS 2024実行委員長 早川 愛氏、JAWS DAYS 2019元実行委員長・2024 アドバイザー 吉江 瞬氏

コロナ禍に襲われた5年間、多くのコミュニティが活動の足踏みを余儀なくされた。それはJAWS-UGにとっても例外ではなく、一部の支部は活動休止状態になってしまったという。吉江氏は「オンラインでは双方向のコミュニケーションがなく、コンテンツの視聴はできても、運営に関わったり、知り合いになったりするのが難しかった。新しいメンバーが入りにくい状況だった」と当時を振り返る。

今回のオフライン開催にあたっては、現地イベントに参加した経験がないスタッフもたくさんいたという。しかし、新規メンバーとJAWS-UGのベテランメンバーが協力して“LEAP BEYOND”のテーマを体現するような化学反応を起こせたという。具体例としてAWS BuilderCardsの体験コーナーや学生によるパネルディスカッションなどを例に挙げながら、早川氏は「メンバーからの思いがけない提案や、それぞれの得意分野がうまく噛み合って、想像以上に良いものをお届けできたと思う」と語った。また、今回のJAWS DAYSの準備をきっかけに多くの支部が活動を再開したという。JAWS−UGのどこかの支部が毎週のように活動している、コロナ禍以前の賑わいが戻ってきたように感じた。

2人に今回のイベントで印象深かったことを尋ねると、吉江氏は、サンシャイン60通りをJAWS DAYSの広告でジャックしたことを挙げた。「コミュニティイベントとしては初の快挙ではないか。運営メンバーやサポーターが一丸となって成し遂げたことに、大きな達成感を感じた」と吉江氏はコミュニティの熱量を称賛した。早川氏は実行委員の若手が書いたブログ記事を挙げ、「大変だったという声が多いと想像していたが、実際には『自分の知っている世界が広がった』など、ポジティブな反応が多かった。コミュニティの未来は明るい」と期待する。

JAWS-UG全体での今後の大きな活動としては、8月に4年に1度の24時間グローバルイベント「JAWS PANKRATION 2024」を、そして10月12日・13日に「JAWS FESTA 2024 in 広島」を開催する予定だ。

最後に、これからコミュニティに参加しようとする人に向けて、早川氏にメッセージをお願いした。

「オフラインで直接参加すると、登壇者に質問したり、自分から発信することもできる。すると、コミュニティの人々があなたを認識し、新たなコミュニケーションが生まれる。こうして別の価値観を持った人同士が集うことで、コミュニティや会社の壁を“LEAP BEYOND"して、新しいイノベーションに繋げていきたい」(早川氏)

著者
Innerstudio 鍋島 理人
ITライター・イベントプロデューサー・ITコミュニティ運営支援。Developers Summit (翔泳社)元オーガナイザー。現在はフリーランスで、複数のITコミュニティの運営支援やDevRel活動の支援、企業ITコンテンツの制作に携わっている。

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