インタビュー 第320回

AIがコードを量産する時代、「テストする人」はどう変わるか ――Tricentis Japanが語る品質保証の現在地

AIがコードを量産する時代にテストはどう変わるのか。リスクベーステストの考え方やエンジニアの役割の変化について、Tricentis Japanの東本氏に聞いた。

Think IT編集部

6:20

生成AIの普及によって、ソフトウェア開発の現場は大きく変わりつつある。コードを書くスピードが飛躍的に上がった一方で「テストする」という工程はその速度に追いつけていない。この非対称性が、エンジニアの役割に根本的な変化をもたらしている。

テスト自動化プラットフォームを提供するTricentis Japan(トライセンティス・ジャパン)でテクニカルダイレクターを務める東本 成紀氏に、AI時代における品質保証の現状と、エンジニアに求められる役割の変化について聞いた。

 「開発10倍、テストそのまま」という歪み

AIによるコード生成の普及は目覚ましい。開発スピードは5倍、10倍という単位で向上している企業も珍しくない。しかし品質保証の現場は、その変化に追いついていない。

「開発の部分はAIでかなり速くなっている一方で、テストの部分はそこまで追いついていない。スピードの非対称性みたいなところが出ているのが、今起きている問題だと思います」と東本氏は言う。

Tricentis Japan テクニカルダイレクター 東本成紀氏

さらに深刻なのは、コードの量が増えること自体が、テストしなければならない範囲を拡大させるという構造的な問題だ。「コードが増える、開発量が増えるということは、当然テストをしなければいけない範囲・量も増えてきてしまっている。なかなかそこに追いついてきていない」。

【出典】Tricentis独自調査(2025年末実施)

Tricentisが2025年末に国内で実施した独自調査でも、AIが生成したコードがソフトウェア障害のリスクを増やしていると感じていると回答したQA・テスト担当者は55%に上る。同調査では、開発担当者の71.5%が「生成AI普及後、品質保証の重要性が高まった」と回答しており、現場の危機感は数字にも表れている。

【出典】Tricentis独自調査(2025年末実施)

AIが書くコードは、技術的には「動くもの」ができていても、要件を満たしているかどうかは別の話だ。「エンタープライズのお客様だと、やりたいことができているのか、要件を満たしているのかというところの担保ができていない。そこに難しさを感じているとお伺いしています」と東本氏は話す。

 「全部テストする」からの脱却はいつ始まったか

「すべてを網羅的にテストする」という発想が限界を迎えたのは、実はAIの登場より前の話だ。その転換点は2010年代のアジャイル・DevOps普及期にあったと東本氏は振り返る。

「継続的なデリバリーが求められるようになると、2週間のスプリントとか、先進的なところでは数日間でリリースしていくということになってくると、従来の全検・手動テストの余裕は時間的になくなってきた」。

2018年にはGitLabのグローバルレポートで、すでに「テストが開発プロセスの遅延リスクになっている」という認識が示されていたという。こうした流れの中で生まれたのが、リスクに基づいて優先順位をつけてテストするという考え方だ。そしてAIによるコード量産が、この傾向をさらに加速させている。

リスクベーステストの実際

では、リスクベーステストでは何を基準に優先順位をつけるのか。東本氏は「大きくは2つのポイント」と説明する。

「リスクというのは、結局、実行される頻度と、ビジネスへの影響というところになってきます。まずはそれを考えましょうというところにはなってきています。加えて依存関係・複雑さというところも考えていきましょう、ということです」。

具体的には、毎日処理されるプロセスと四半期に1回のものであれば、まず前者からテストするのが明白だ。ダメージという観点では、支払いや顧客への対外的な影響が出るものと、社内の軽微な不具合や回避策があるものとでは、自ずと優先度が変わってくる。さらに、単一システムで完結しているか、外部モジュールや他システムとの依存関係を持つかという複雑さも判断基準となる。

左:リスク影響度を考慮していないテスト管理/右:リスク影響度を把握し、重要度を特定したモデル(【出典】Tricentis)

「どこのリスクが高いところなのかを見ながらテストする仕組みというのもありますし、各社それぞれの形でリスクベーステストをやられているのかなというところです」と東本氏は言う。

また、リスクベーステストは単なるテスト工程の話ではなく、要件定義の段階から紐づいているという点も重要だ。「しっかりとどういった要件に合わせてシステムを作っているのかというのが従来型のウォーターフォールのいいところで、やはりその手前の部分からしっかり作っていただくというのが一番重要」と東本氏は強調する。

 「コードを書く人」より「コードの質を判断できる人」へ

AI時代に価値が高まるのは、コードを生成できるエンジニアか、コードの質を判断できるエンジニアか。この問いに対して東本氏は、現時点では後者の価値がより高まっているという見方を示す。

「AIを使って、コードの生成は非常に高速に、大量にやりますよというところで、そのコードがしっかり要件を満たしているのかどうか、セキュリティ的に問題ないのか、あるいは長期的に運用に耐えられる作りになっているのか。こういったところに、人間の判断と視野が必要になるのかなと思います」。

ただし、単に「コードを読んで判断できる」というスキルだけでは足りない時代になりつつある。AIエージェントを使いこなすためのテクニカルな知識、高品質なアウトプットを出させるための仕組みや設計ができる能力も、開発者にもQAエンジニアにも求められてきているという。

「今、本当に求められるものって、月とか四半期ぐらいで変わってしまっているんだろうなという印象を受けています」と東本氏は言う。変化のスピード自体が加速しているのだ。

一方で「完全にAIにお任せで、何もタッチせずに」という状態は大きなリスクだと東本氏は指摘する。人間の業務経験や、言語化されていない文脈の理解、抜け漏れのチェックという部分では、まだ人間の判断が欠かせない。

テストの境界がなくなっていく

設計・実装・テストという従来のV字モデルは、現在の開発現場では機能しにくくなっている。その背景にはシステムの複雑化と、アジャイル・DevOpsの普及がある。

「単一のシステムで終わる仕事というのはかなりなくなってきている。何らかのシステムがあって、それが後続処理に使われるとか、BIツールに使われるとか、AIがそのコンテキストを読んでいたりする。影響範囲が分からなくなっている」と東本氏は言う。

リリースサイクルが短縮される中で、テストは開発の「後工程」から「同時進行」へと変わりつつある。「テストの境界が変化している」という表現に対して、東本氏は「境界がなくなってきている」という言い方の方が実態に近いという見方を示す。シフトレフトという考え方―設計段階からテスト要件を考え、後から発生するリスクを先に潰す―が求められているのだ。

V字モデルが機能した時代から継続的テストが必要な時代へ(【出典】Wolfgang Platz『Enterprise Continuous Testing』をもとにTricentis Japan作成)

「QAとかテストって、従来みたいな、このフェーズの箱でやればいいよねという仕事から、並行して全部考えていかなきゃいけないよねという形になってきている」。

組織として何が変わらなければならないか

テストエンジニアが「不具合を見つける人」から「プロダクトの品質を判断できる人」へと役割を広げるために、組織に必要なことは何か。東本氏は「役割の再定義」「権限の付与」「学習できる環境の整備」という3点を挙げる。

役割については、「手を動かしてテストを実行する」というものから、KPIの設計・ツールを活用した品質リスクの予防・管理という視座の高い仕事へと変わっていく必要があると言う。

権限については、日本では品質部門が十分な権限を持てていない現状を東本氏は指摘する。「海外だとQAリードという立場でツールを選定したり、組織を持って動いているお客様がいる一方、日本ではプロジェクトマネージャーが決めているケースが多い。権限が足りていないのかなというところで、しっかりとプロダクトの品質を判断できるよう、権限も付与してあげなければいけない」。

学習環境については、新しいツールやAIを試せる時間・環境がないと、変化に対応できないという問題がある。「年度に予算があって、この中でやりくりしてくださいとなると、学習したい・試したいけど予算がないからできないという形になってしまう。そういった環境も整えてあげなければいけない」と東本氏は言う。

【出典】Tricentis独自調査(2025年末実施)

また、品質を経営課題として捉えている企業ほどAI搭載ツールを本番環境で運用できているという傾向があり、経営の関与度が品質への投資姿勢に直結している実態も浮かび上がった。開発スピードが上がっているにもかかわらずテスト自動化に投資できていなければ、リスクは上昇するだけだ。「投資判断をどこに重点を置いているかというところが、そのままツールをどう使っていくかにも表れてきている」と東本氏は話す。

【出典】Tricentis独自調査(2025年末実施)

AI時代のエンジニアに求められるもの

最後に、品質保証に携わるエンジニアが市場価値を高めるために今から身につけるべきことについて聞いた。東本氏が挙げたのは「柔軟な対応力」と「AIリテラシー」の2点だ。

「DXもあり、AIもあり、さらに変化が来ているという状況で、変化のスピードと範囲がどんどん広がっている。どちらかというと求められているのは、対応力や幅広い柔軟性。今まで遭遇したことのない問題が出てきたときに、短期的な対応策と、今後の仕組みをどう作るかを考えていける力が必要になってくる」。

AIリテラシーという観点では、開発者が何をやっているかを同じくらい理解していれば、品質保証の側から先回りして問題を指摘できるという。「開発とテストの知識格差があると、また追い追いになってしまう。しっかりとAIのリテラシーをつけてやっていくことが必要になってくる」と東本氏は言う。

「コードを書けるかどうか」ではなく、品質を見極める眼と変化に適応する力。AIがコードを量産するこの時代に、エンジニアに問われているのはそうした能力なのかもしれない。

まとめ

東本氏との取材を通じて浮かび上がったのは、AI時代における「テスト」という仕事の本質的な変化だ。コードを量産できるようになった今、品質保証の現場に求められているのは、網羅的にテストをこなす実行力ではなく、何をテストすべきかを見極める判断力だ。

その判断を担うエンジニアには、リスクベーステストの発想、AIリテラシー、変化への柔軟な対応力が必要になる。そして組織としては、品質部門に十分な役割・権限・学習環境を与えることが、品質保証の現代化への前提条件となる。

「テストはテストの範囲でやればいい」という時代は終わりつつある。設計から運用まで、開発ライフサイクル全体を見渡しながら品質を組み込んでいく。そうした視座を持つエンジニアこそが、AI時代に求められる「品質を守る人」の姿と言えるだろう。

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