EMC、スケールアウトストレージの元祖、IsilonのエントリーモデルにSDSを追加

2015年11月30日(月)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
EMC、スケールアウトストレージのIsilonのエントリーモデルにSDSを投入。

エンタープライズ向けストレージ製品の雄、EMCは2015年11月16日に都内で「EMCアイシロン新製品発表記者会見」と同日夕刻に「EXPAND THE DATA LAKE~新製品発表パーティ」と称したイベントを開催した。これはEMCが2011年に買収を発表したスケールアウト型ストレージソリューションのIsilonの新製品発表というEMC本社が全世界的に行っているワールドツアーの一環として行われたイベントだ。米国では11月10日に行われている発表の日本国内向け告知である。

この中で注目すべきはEMCのIsilonグループが提唱する「ストレージのコア、エッジ、クラウド」という図式にそれぞれ3つの新製品を投入したということだろう。実際の3製品のデリバリーは2016年の第一四半期、つまり2016年1月から3月という少し間延びしたデリバリーのスケジュールだが、ここしばらくストレージ線品の発表の中では音沙汰が無かったIsilonのユーザーにとってはEMCの戦略の中で大きな柱としてまだIsilonが置かれているということを知ることができるだけでも一安心ということではないだろうか。

記者会見を行ったEMC本社のエマージングテクノロジー事業部、EMC Isilonプロダクトライン担当シニアバイスプレジデントのフィル・バリンジャー氏は、エッジ、コア、クラウドというストレージを構成する大きな3つの構成要素について「エッジはIsilonSD Edge、コアは従来のIsilonのクラスター、クラウドはパブリッククラウドとの連携」であると説明した。

Isilonビジネスの責任者、フィル・バリンジャー氏

図1: Isilonビジネスの責任者、フィル・バリンジャー氏

この中でエッジに位置付けされる新製品はその名も「IislonSD Edge」となり、従来のハードウェアとソフトウェアを最適化した形で提供するIsilonの方法論とは異なり、ハードウェアは一般的なホワイトボックスサーバーを使い、ソフトウェアだけでスケールアウトストレージを提供すると言うものだった。しかも驚くことに本番環境でなければ、ソフトウェアのライセンスフィーは無料というものでこれまでのアプライアンス型のIsilonからすれば随分とOSS的なモデルに変わったなと思われるかもしれない。しかし実際にはいくつかの制限がある。

  • ストレージの容量はIsilonSD Edgeクラスター全体で36TBまで。物理サーバーは3ノードから始まり、最大6ノードまで。つまりどれだけハードウェアにストレージ(SSDやHDD)を積んでいてもクラスター全体で36TBしか認識されない。
  • SyncIQなどの機能は無償版ではサポートされない。また無償版にはオフィシャルなサポート窓口は無く、コミュニティによサポートのみとなる。
  • IsilonSD Edgeのライセンスフィーは無料だが、Edgeが利用するハイパーバイザー、VMware ESXi及び管理コンソールであるvCenterのライセンスは必要。

つまり、完全に無償というわけではなく最大6台の物理サーバー、36TBの実効ストレージ容量という限られた構成を使うだけでもVMwareへのライセンスフィーが必要となるソフトウェアなのだ。しかしバリンジャー氏は「Isilonの既存顧客が持つリモートオフィスで必要とされるストレージは平均して10TB程度。なのでIsilonクラスターを入れるほどにはニーズが無いリモートオフィス、ブランチオフィスのニーズには適している」という。そして有償版のライセンスフィーもまだ確定していないとは言いながらも「かなり安くなる」と語った。

つまりは従来の製品ラインのIsilonでは遠隔拠点に入れるには高すぎる、大きすぎるという顧客のニーズを十分に汲み取ったうえでIsilonの定評あるOneFSという分散ファイルシステムの機能の基本部分だけをソフトウェアだけで実現してハードウェアはフェイスブックなどが利用するホワイトボックスサーバーを使う、という折衷案とみても良いやり方だ。

エッジに当たる遠隔の拠点(例えて言えば東京の本社に対する松江支店と言ったところだろうか)はソフトウェアだけでホワイトボックスのサーバーで36TBまでのストレージを提供、コアの部分は従来のIsilonで構成し、さらにパブリッククラウドとの連携を実現、というのが今回のEMCの発表のキモだろう。

ではそのコアと呼ばれるデータレイクの新機能とは何か?ここでバリンジャー氏はOneFSの次バージョンで実現される新機能のひとつとして「無停止によるアップグレード」と「システムのロールバック」を挙げた。これはシステムのバージョンアップの際にシステムを停止せずにアップグレードできること、さらにもしも不具合が起こった時などにすぐに元のバージョンに戻せるという機能だ。それを次のOneFSのバージョンで導入するという。次期バージョンの新機能はこれだけではないだろうが、今回のワールドツアーに合わせて出せるものをとりあえず持ってきたと言う感は否めない。なぜならどちらも頻繁に利用されるわけではなく(むしろ頻繁にそれが利用されるのはシステム管理者にとっては悪夢だろう)、有ったら便利だが本当に使い物になるかどうかは検証が必要という付加機能と言えるようなものだからだ。

新製品パーティは本社主導のアメリカンスタイル

図2: 新製品パーティは本社主導のアメリカンスタイル

実際には今回の目玉は「CloudPools」というIsilonクラスターからAzureやAWSなどのパブリッククラウドにシームレスにデータの移行を可能にする機能だろう。これはもともとIsilonが持っていたクラスター内での「SmartPools」をパブリッククラウドまで拡張した機能だ。つまりデータの特性に合わせて自動的にデータの配置を最適化する機能で、アクセスが頻繁かつ速度を要求されるホットデータはより高速なアイシロンのクラスターへ配置し、それよりもアクセスが低いウォームデータ、さらにほとんどアクセスが発生しないが保存が必要なコールドデータを速度は出ないが容量は大きい別のアイシロンクラスターに移動する自動配置機能でそれぞれのデータによってポリシーを設定することでデータの配置が行われる。これをオンプレミスのIsilonクラスターだけではなくAWSのS3やGlacierなどに拡張したもので、今回の発表ではMicrosoft AzureとAWS、それにVirtustreamに対応するという。Virtustreamは2015年5月にEMCが買収したクラウドプロバイダーで10月にはEMCとVMwareの50%づつの出資となり、今後はEMC/VMwareのクラウドビジネスの受け皿となる予定の企業が提供するサービスだ。日本でもユーザーの多いGoogle Cloud Platformへの対応を聞いたところ、今後対応を予定しているという。これも既存のIsilonユーザーの声を受けてパブリッククラウドへの対応を行ったということで、既存ユーザーをとにかく安心させたいという思いがみえる発表だった。

実際にデリバリーが始まるのが2016年の第1四半期ということでEMCの思惑通り、リモート拠点にSDSであるIsilonSD Edgeが導入されるのか、今後のSDSとしての機能拡張はあるのか、ホワイトボックスにOSSを使ったスケールアウトストレージが市場に溢れている今の状況でEMCの動向に注目したい。

※初出時の一部表記に誤りがございました、お詫して訂正致します。誤: VirtuStream正: Virtustream(2015/12/4:編集部)

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

連載バックナンバー

運用監視イベント

AppDynamics、2回目のユーザーカンファレンスで垣間見えた理想と現実

2015/12/15
アプリモニタリングのAppDynamics、2回目となるカンファレンスを開催。
開発ツールイベント

EMC、スケールアウトストレージの元祖、IsilonのエントリーモデルにSDSを追加

2015/11/30
EMC、スケールアウトストレージのIsilonのエントリーモデルにSDSを投入。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています