CMS導入、その後

2009年3月27日(金)
門別 諭

CMS導入の効果と浸透度を図る

 CMSの検討から導入まで行い、Webサイトを公開することができたら取りあえず一安心というところでしょう。CMSの導入完了後、しばらくは運用体制や運用方法が変わり、いろいろなところで今までと違ったことを行わなければならないため、バタバタとした状態になるかもしれません。そのため、運用がスムーズに行われるまでは次のことを検討するのではなく、新システムに対する理解度の向上と運用へのフィットに専念していくことが大切です。新たな展開はある程度運用が軌道に乗ってからでも遅くはありません。

 この間に、CMS導入の効果があったかどうかを検証する必要があります。外注費の削減であったり、運用の効率化であったり、サイト構造の統一であったり、100社あれば100通りの効果があると思います。導入にどのような効果を求めるのかは、システムの構築にせんだって定義しているはずなので、そのギャップがどの程度のものなのかを把握する必要があります。

 一点、ここで注意してほしいのは「運用の効率化イコール担当者の負荷軽減」ではない、ということです。担当者の負荷が増えたからといって、運用の効率化ができていない、ということではないのです。

 導入前と導入後は担当者の役割も変わっているはずですし、その業務内容もまったく異なるものになっているはずです。担当者の主観的な感想を比べてみてもさほど意味があるとは思えません。むしろ、作業に要する時間やコストなど、定量的な指標から比較を行っていくべきです。どの数字を比べるかについても事前に定義しておけば、公開後の評価も客観的に行うことが可能です。

 また、CMSの浸透度も合わせて確認する必要があります。浸透度と聞くと、CMSがどのくらい運用になじんでいるかということを思い浮かべるでしょう。もちろんそれも1つの指標になります。ここでいう浸透度とは、運用にCMSが密着しているということではなく、組織全体に対してどのくらいCMSがかかわっているか、という意味で用いています。

 企業におけるCMSは、さまざまなシステムの中央に置かれることが少なくありません。顧客にとっての最適な情報をさまざまなシステムと連携し、適切な形で提供することがCMSの最も重要な役割です。そのため、Webサイトのみを取り扱うのか、それともほかのシステムと連携する部分についても深くかかわるのかによって評価軸は大きく変わってきます。CMSをどこまで利用するのかは、企業によって異なります。CMSの最終的な位置づけをあらかじめイメージできていれば、企業における浸透具合はおのずと明らかになってくることでしょう。

ステップの確認と有効に機能し始めたCMS

 最後に、CMSの導入後にとるべきアクションについてお話しします。運用も軌道に乗り、CMS効果と浸透具合が明らかになったら、次に何をすべきかについての検討が必要です。

 CMS導入の初期段階において情報設計がうまくできていれば、運用開始後も容易に機能の拡張を図ることが可能です。だからこそ、ステップごとの実施内容と達成度を明確にしておく必要があるのです。第一段階で構築した部分がどのステータスにあるのかはこれで分かるはずです。また、構築したシステムが想定したものと異なっていた場合は前の工程に立ち戻ることができます。

 人間が行う作業である以上、どこかで見逃していたり当初の予定通りに動かなかったりすることが必ず起こります。そのため、予定していたものが実現されていない場合は、それがなぜ実現されなかったのか、どのようにすれば実現できたのか、レビューを通じて明らかにする必要があります。

 このことは今後の開発にとっても大変重要なことです。もちろん、最初の構築において申し分なく構築が行われ、事前に定義したものすべてが反映されるのであればそれにこしたことはないでしょう。

 しかし、なんらかの理由で定義漏れが起きていたり、うまく動作する予測だったが想定よりも難しい状況になったりということは予期しないところで起こりうるものです。このことはシステムにおいても同様です。完ぺきを目指すことと同時に、人間は必ずミスをする、システムは必ず停止する、という前提で対策を講じておくことも大切なのことなのです。

 CMSが企業にとって有効に機能し始めると、さまざまな副次効果を発見することができます。それは何も運用に限ったことではありません。一番分かりやすい例として、Webサイト上にコンテンツが増えた、コンテンツを投入する担当者からの問い合わせが増えた、などが挙げられます。

 「問い合わせの増加がなぜ効果なのか?」と思うかもしれません。しかしこれは見方を変えると、システムを使っているから問い合わせが届くようになった、とも考えられます。つまり、それまでは埋もれてしまっていた現場の声がちゃんと届くようになったと、喜ぶべき現象と言えるのです。さらにいえば、コンテンツ担当者が以前よりも頻繁に、簡単にWebコンテンツを手がけられるようになったことの副産物かもしれません。

 こういったことが表に出てくるようになると、良い傾向であると考えていいでしょう。Web担当者が知っておくべきこととしてまず、CMSにおけるコンテンツの作成はコンテンツ担当者が直接行った方がいい、ということが挙げられます。そして、Web担当者はコンテンツ担当者がより簡単にCMSを利用し、有益なコンテンツを発信することができるようにWebサイト全体の構成や、CMSの機能整備を行っていく必要があります。

 いくら良いコンテンツがあっても、見せ方が悪ければユーザーはコンテンツにたどりつくことができません。そういったことも含めて、Web担当者は何をしなくてはいけないのかをしっかりと理解してCMSと向き合う必要があります。CMSが浸透してきた際に、Web担当者が行うべきことは、これらマーケティングに近い部分になります。それが本来Web担当者が行わなくてはいけないことであり、そういう運用になることを目指してCMS導入を実践してみてください。

【参考文献】

『Webブランディング成功の法則55』生田昌弘/株式会社キノトロープ著 発行・株式会社翔泳社(2005)

『CMS構築成功の法則』生田昌弘+門別諭/株式会社キノトロープ著 発行・技術評論社(2007)

株式会社キノトロープ
株式会社キノトロープ 代表取締役社長
株式会社キノトロープスリーイント 代表取締役社長
IT技術を有効な成果につながるソリューションに変換してシステムを構築することで顧客に最適なソリューションを提供するITコンサルティングサービスを行う。FatWire社のContent Serverなど、各種CMSを活用したシステム構築を数多く手がけており、CMSに関するセミナーでの講演なども多数行っている。著書:CMS構築 成功の法則

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