Celtixの生まれ
オープンソースESB
1年ほど前のマサチューセッツ州のあるISV(独立系ソフトウェアベンダー)でのことです。
- なかなか、SOAもマーケットの動きは厳しいみたいやないか?
- そやねん。大手の製品がだいぶ出てきたしなぁ。SOAだけでは難しいかもしれん。なんか、いい手はないやろか
- ラリー。おはんはマーケティングやろう。なんか、考えんかい
- オープンソースはどないや。オープンソースのESBを出してSOAの導入の敷居を下げて、商用製品へのアップセルをねらうんや。EclipseにSOAのツールの共通化を提案してもええな
- ええかもしれんが、オープンソースと商用製品でマーケットを食い合ってしまうかもしれんぞ
- オープンソースもSOAと同じようなムーブメントになっているんや。他のベンダーもたくさん投資して、なかなか、うまくいっとるようだ。マーケットでのうちらの知名度も上がるで
- よっしゃ。やってみるべ。ところで、ラリー。それ、ほんまにひとりで考えたんか?
これは、フィクションですが、15年の歴史のあるISVがオープンソースに投資することを決めたいきさつは多少含まれています。
本連載で解説するのは、SOAの基盤であるESB(Enterprise Service Bus)のオープンソース版です。これはIONA Technologiesが主体となって、ObjectWeb(注1)というコミュニティから2006年5月にリリースされた「Celtix 1.0」というものです。
現在、各ベンダーがESB製品を提供してきていますが、ESBという言葉がまだまだ目新しく、ESBの機能や構成は様々な解釈と拡張を含むものとなっています。
利用者からすれば、オープンソース版のESBはSOA基盤の導入の検討を混乱させると思われるかもしれませんが、製品版をブラックボックスとして見ているだけはわからなかったことが、オープンソース版を覗くことで理解できるのではないでしょうか。
Celtixの誕生
Celtixが生まれた背景には、アイオナの商用版のArtixがあります。Artixは2004年から日本でも扱っていますが、SOAそのものがなかなか立ち上がってこない市場では、SOAのモチベーションを高める必要があると考えました。
当初はSOAの無料セミナーなどを行い、いわゆる啓蒙活動を実施しようとしましたが、そうこうしているうちにSOAそのものに対する市場の認識があ る程度できてきました。ただし、欧米に比べると、認識から実装のフェーズに入ったと声を高めるほど日本の市場は動いていません。
欧米のユーザ企業はITに関わる数千人のリソースを抱えている場合もあり、ユーザ側のエンジニアは現場で最新の技術に直接触れることができます。そ れに比べ、日本に多く見られるSIベンダーへの依存体質は、エンドユーザがSOAの導入を判断することが困難な状況を生み出しています。SOAは単なる新 しい技術というだけではなく、最終的にはITに関わる既存の組織構成を超え、企業内のプロセスと仕組みを作り替えなければならないという意味を持ってお り、ユーザ企業には重荷になる場合があります。しかし、もしユーザ側がそのことを十分に理解しているのであれば、SOAの導入は一歩進んだことになりま す。
ただし、いくら市場にSOAという言葉があふれていたとしても、読んだことと聞いたことがある程度では、半分程度の理解しかできないのは技術に関わ る者の常です。そこで、少しでも市場全体でのSOAの導入に追い風になるように、例えば、CeltixでSOA導入のプロトタイプを作っていただこうと オープンソースでの開発に貢献することになったのです。