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差別化が求められるいま、IT企業には「文系」が必要だ

2016年11月4日(金)
ReadWrite Japan

すべてのテクノロジーには伝えるべきすばらしいストーリーが隠されているが、いつもすばらしいストーリーテラーがいるとは限らない

テクノロジー企業が文学専攻の人材を必要とする理由

STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)を専攻した卒業生が世に求められているというフレーズは、徐々に使い古されたものになってきている。たしかに、こうしたスキルを持つ人材が必要であることは間違いない。現在、経済のエンジニアリング・スキルに対する依存が高まっており、そうした人材が必要であることを示した調査結果も存在する。

しかし、実はこれ以外にも必要なものがある。「文学」を専攻した学生だ。その理由は何だろうか?

技術は、生活やビジネスをより豊かなものにするために重要だが、同時にこれらが“なぜ重要なのか”を伝えるために、文系の伝達者が必要とされるのである。

世界に向けて強い印象を与えることを望んでいるスタートアップはもちろん、IT系企業というものはすべて、文学を専攻した人間を必要としている。しかも、おそらくは大量に。

ストーリーを伝える

私は、エンジニアリングを中心とするビッグデータ関連のスタートアップで働いているため、エンジニアリングの重要性は理解している。シリコンバレーでエンジニアリングに長けた人材を巡った争いが起きているのは当然だと考えているし、その争いはこれから激化していくとも考えている。

ただ、システムエンジニアリングとコンピューターサイエンスを学んだ卒業生の月給は、文系分野を学んだ学生の2倍だというバージニア大学卒業生の月給調査の結果には少し疑問を感じる。

優れた開発者は非常に価値があるが、あらゆるIT企業、そしてもちろんスタートアップにおいては「エンジニアリングがすべて」というわけではない。すばらしいハードウェアやソフトウェア製品を開発できるにも関わらず、製品の購入に関心があるカスタマーやクライアントの獲得に失敗している場合がじつに多いのだ。

Twitter と Google の元幹部である サントシュ・ジャヤラム氏が、新たに起業する Daemonic Labs に関連して「文学専攻の人間こそ、私が探している人材だ」とウォールストリート・ジャーナルで述べたのは、おそらくこうした理由によるものだろう。

ジャヤラム氏によれば、文学を専攻した人は「ストーリーを伝える」ことができるのだという。そしてこれが、次第に新興企業の成功と失敗を握る鍵となってきている。

「いまとなっては、想像できるものの多くを実現できるようになった。ビジネス激戦区は誰でもできるエンジニアリングから、ストーリーテリングへと変化しており、その真の才能を持っている人は数少ない。」

Tibco の会長兼 CEO で、エンジニアでもあるヴィヴェク・ラナディヴ氏は、「文系分野の学位はあらゆる商業を学ぶことよりも財産になる」とジャヤラム氏の意見に同意している。文系の卒業生は、コミュニケーション、つまりストーリーテリングの訓練を受けているからだ。

優れたストーリーテリングによって、資金援助を受けられるか否かが決まり、同時にクライアントを得られるかどうかも決まる。

エンジニアを雇用するのは難しい?

非常に優れた製品を持つすばらしい企業で働けて、私は幸運である。我々の製品は、開発者がデータを扱う方法を一変するだろうと固く信じている。

私がマーケティングの人間に対していつも言っていることだが、彼らが伝えるストーリーはたいてい「小さすぎる」。機能に焦点をあて、自社のデータベース製品が「何」であるかは語っているが、背景にある「なぜ」その技術が優れているのかという点については十分に伝えられていない。

この「なぜ」という質問に答えることに関して、文学を専攻した人間は非常に優れている。

書くことを通じてコミュニケーションを取る才能があるという点において、文学専攻の人には非常に価値があるのだ。しかし、いいライターを見つけることは驚くほど難しい。

本当に、本当に難しいのだ。

逆に文学を専攻する人間は、技術に苦手意識を持っている。私は文学を専門としていたため、このことはよく理解できる。1997年、日本の大手商社に勤務していた私は偶然シリコンバレーに住むようになったが、エンジニアリングが中枢を占め、他の何よりも称えられているこの地で、不安を覚えなかった日は1日もなかった。

文学を専攻する人間がエンジニアに混じって働いていたら、自分がブレンダン・アイクよりもアーネスト・ヘミングウェイに近いという事実は隠そうとするだろう。IT企業に自分がもたらした価値について、私がちゃんと認識できるようになったのは、ごく最近になってからだ。 それまでは文字通り何十年もの間、自分がエンジニアではないことを気にしていた。

文学の学位保有者求む

私は現在、ソフトウェアのスタートアップでマーケティングを担当しているが、優れた伝達者が必要であることは明らかだ。これは疑いの余地がない。しかし、依然として文学専攻の人々は、その書く能力を十分に活かしきれていない。

GitHub がエンジニアにとって新たなキャリアになるのと同じように、ソーシャルメディアやブログも、マーケティングを志す者にとってのキャリアである。書く能力があるなら、示すべきだ。

私が今後、従来とは異なる背景を持つマーケティング職の採用を検討しているのは、これが理由である。Eloqua やその他のマーケティング支援プログラムを熟知しているかどうかはさほど気にしない。それよりも、「興味深いテーマを構築し、数100語でそれをまとめられる能力」を重要視している。

テキストを通じたコミュニケーションと、それを通して1つの製品を差別化させる必要性が増えるにつれ、理想的なマーケティング職の候補者というのは、エンジニアというよりもテクノロジージャーナリストか、あるいはブロガーのような人間になるのかもしれない。

画像提供:Wikimedia Commons


本記事は、2013年の記事の再掲である。だが、当時よりもさらに差別化の求められる今、「なぜ」を「わかりやすく」伝える能力の価値はより高くなっている。

MATT ASAY
[原文4]

※本ニュース記事はReadWrite Japanから提供を受けて配信しています。
転載元はこちらをご覧ください。

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