JKD v18.12開催、初日のキーノートで日本の先進的ユーザーが事例を発表
クラウドネイティブなエンジニアのためのカンファレンス、JKD v18.12(JapanContainerDays)が、2018年12月に都内で開催された。カンファレンス初日のキーノートは、ジェネラルセッションの日としてCNCFのCTO/COO、Chris Aniszczyk氏がクラウドネイティブなシステムの遷移やこれからのサーバーレス、VNFからCNFに至るネットワーク機能などについて概観を語った後に、日本の先進的なユーザーたちがキーノートに登壇した。メルカリ、Preferred Networks、LINE、デンソー、ZOZOテクノロジーズなどが自社の経験を元に、クラウドネイティブなシステムのための要点などを解説した。
JKD v18.12開催、CNCFのChris Aniszczyk氏がクラウドネイティブのトレンドを解説
Kubernetesのエコシステムに貢献するメルカリ
最初に登壇したのはメルカリの中島大一氏だ。メルカリは日本でも先進的なクラウドネイティブシステムを構築していることで有名だが、Kubernetesを活用したシステムを本番環境で運用している例として、トップバッターの役を務めた形になった。
中島氏は基礎的な話として、仮想マシンとコンテナの違いを解説。特にハードウェアのリソースを有効活用する観点で、より多くのアプリケーションに無駄なくリソースを割り当てることができることを紹介した。これは、オンプレミスでサーバークラスターを管理する観点からは当たり前とは言え、再度、参加者に向けて確認した形になった。
そしてメルカリにおけるKubernetesのポジショニングとして、デプロイメントの信頼性、ReplicaSetsによるセルフヒーリング、サービスに組み込まれたロードバランサー、そして高可用性を挙げた。
他方、Kubernetesが担うべきではない機能については、コードの管理とビルド機能、アプリケーションレベルのサービス、ロギングなどの監視機能、そして構成のための言語などを挙げた。
中島氏の指摘のように、これらの機能はKubernetes本体が提供することはないが、HelmやSpinnaker、GitHubやGitLab、Prometheusなどのエコシステムが拡大することによって、多くの機能が実装されていると言える。そういう意味では、Kubernetesはコアの機能だけに注力し、周りの機能はエコシステムを構成するプロジェクトやサービスに委ねているという形になる。
またなるべく同じような構成のインフラストラクチャーとKubernetes環境を用意し、それぞれのビジネスが要求するアプリケーションを実行するというポリシーで構成が設計されていることを紹介した。KnativeやKubeFlowなどをKubernetesの上に配置することで、抽象化を進めるという発想だ。
エコシステムという意味では、メルカリ自体がKubernetesのためのツールなどを開発し、オープンソースソフトウェアとして公開している。このように、メルカリがエコシステムの拡大に貢献しているというのは、主に消費者としての側面が強い日本のエンドユーザー企業としては注目するべき点だろう。
メルカリのオープンソースプロジェクト:https://github.com/mercari/
機械学習のタスクをKubernetes上で行うPFN
次に登壇したのは、Preferred Networks(以下PFN)の谷脇大輔氏だ。
谷脇氏はPFNの概要に続き、現在同社が利用しているオンプレミスのサーバー環境について説明した。これは国内では最大規模のGPUクラスターファームといっても良い規模で、NVIDIAのTesla P100が1024台、Tesla V100が512台という規模になる。その上でPFNが開発したChainerを始めとする多くのソフトウェアが実行されており、多種多様なワークロードを運用しているという。
そしてKubernetesを機械学習のプラットフォームとして使っているPFNとしての要件について、説明を行った。
PFNのエンジニアが効率よくサーバー資源を使えるように、マルチテナントな利用形態を実現しているとしてRoll Based Access Controlについて言及し、毎日数百から数千のジョブが実行されているというヘビーユーザーらしいノウハウも解説された。
これまでは仮想マシンベースでの学習、推論のためのGPUの活用という意味では、NVIDIAなどがOpenStackからの利用に関するプレゼンテーションを行っていたが、いよいよKubernetes上で機械学習が実装されてきたというトレンドを感じさせるプレゼンテーションとなった。
KubeFlowについては、Google、Microsoft、AWSなどがこぞって実装していることから、PFNとしてもKubernetes上での機械学習プラットフォームとして注目しているという。
自社製プライベートクラウドVerdaを紹介するLINE
次に登壇したLINEの西脇雄基氏は、LINEが利用するプライベートコンテナクラウドであるVerdaについて解説を行った。
Verdaは、LINEが構築したOpenStackの上にKubernetes as a ServiceとしてKubernetesを実装し、PaaSそして将来的にはFaaS(Function as a Service)を提供しようとするものだ。この方法論は、管理が面倒だというKubernetesを社内のエンジニアに拡大するために多くの企業が取り入れているものだ。
VerdaはインフラストラクチャーにOpenStack、その上にKubernetes、そのもう1階層上にPaaSとFaaSが配置されているという。またまだ開発は進行中ということで、2018年6月に社内向けにKaaSがベータリリースされたところだ。
クラスターの管理はRancher 2.xベースで運用し、FaaSに関してはKnativeを利用する予定だという。LINEのようにインターネットサービスが主要なビジネスになっている企業では、最新のテクノロジーをいち早く評価、利用している。そしてそれをこのような場で公開することは、エンジニアのモチベーションを向上させるとともに、採用面でもメリットがある。これは、他の企業にも真似して欲しいポイントだ。
さまざまな先進的な事例が見られたカンファレンス
この他にもIBM、デンソー、ZOZOテクノロジーズのエンジニアが登壇し、それぞれ先進的な事例の裏側にある苦労を公開したことは、現状でまだクラウドネイティブなシステムに及び腰の企業にとっては、参考になる情報ばかりだったのでないだろうか。
特にZOZOテクノロジーズの鶴見氏のセッションは、オンプレミスのレガシーなWebアプリケーションを残しながら、パブリッククラウドに移行するといういわば過渡的なハイブリッドクラウドを実践するもので、オンプレミスがフロント、専用線で接続されたパブリッククラウドがバックエンドに配置されるという形になっている。Microsoftベースのオンプレミス環境を残しつつ、最新の技術を使えるAzureを選択したという内容は、Windowsサーバーがまだ多く稼働している日本のエンタープライズ企業にとっては非常に参考になる情報だったように思える。
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