テック領域での起業・成功のファクターとは? 5周年を迎えた「DMM.make AKIBA」がこれからの挑戦者に伝えること
11月28日(木)、モノづくりプラットフォーム「DMM.make AKIBA」でビジネス向け5周年イベントが開催された。2014年11月に開設し、今年で5年目を迎えたDMM.make AKIBAは、モノづくり×コワーキングスペース分野において3000人以上の会員登録数を記録、活動企業は450社以上にもなり、日本最大級のモノづくり施設となっている。
様々なスタートアップや新規事業をサポートしてきたDMM.make AKIBAから、今後新しいビジネスを挑戦していきたい個人や団体に向けたテック領域の起業や成功のファクターに関して、各分野の著名人をゲストに招いた講演が行われた。
激変するテック領域で
起業や新規事業を考える
「起業」をテーマにしたセッションでは、DMM.comからCOO・村中悠介氏、CTO・松本勇気氏、DMM.make AKIBA入居企業からユカイ工学株式会社、CEO・青木俊介氏、モデレーターにDMM.make AKIBAエヴァンジェリト・岡島康憲氏の4名が、激変する時代において新しいビジネスを始めることについて議論した。
青木氏は以前から作ってみたかったものとして原子炉を挙げた。続けて「映画のアイアンマンも原子炉を核として動いているじゃないですか。ああいう格好良いものが作りたいなと思ったんです」と語り、会場は笑いに包まれた。原子力を使った新しいプロダクトを作る挑戦に関心が高いようだ。
松本氏は「安全でクリーンなエネルギーが作り出せるということですよね」と付け加えた。岡島氏は「先日フィンランドのイベントに参加した際、地球環境を壊さずにサステナビリティ(持続可能性)のあるエネルギーを確保するために、原子力を研究せざるを得ないという話題になりました」と、世界的に新たなエネルギー開発が話題になってきていると触れ、エネルギー分野の動きに注目が集まっている様子が伺えた。
「昨今は起業しやすい時代と言われているが、実際のところはどうなのか?」という問いかけに、村中氏は「資金調達はしやすくなったけれど、規模を大きくすることは難しくなっているという肌感があります」と述べた。次々と新しい取り組みが世に出る中で、世間がそれを受け入れやすい体制は整ってきているものの、そうしたスタートアップが求める良い人材や良い投資家を見つけることのハードルが高くなってきているということだ。
また、新たな取り組みを続けていく際に重要なのは「撤退ラインの明確化」であると松本氏はいう。DMMは様々な事業を増やしているが、なぜここまで事業を増やせたかといえば撤退ラインを明確にしているからだということだ。撤退ラインまでは自由に挑戦を続けるという戦い方で、臆せず新しいものを取り込み、良いものを継続している。挑戦をしていくために判断を見誤らないよう、自身にルールを課すというのは起業のうえで欠かせない考えとなりそうだ。
成功のキーとなるのは
「変態になる」「確率を上げる」こと
続いて、スタートアップ・新規事業の成功ファクターをテーマにしたセッションでは、合同会社DMM.com 会長・亀山敬司氏とビジネスデザイナー・濱口秀司氏の対談が行われた。
対談の冒頭で、成功のキーファクターとして「変態であること」、そしてストリートスマートが重要であることが語られた。濱口氏がいう「変態であること」とは、何かしらに大きなこだわりを持ち突き進んでいく力があることを意味している。大学院やビジネススクールに入って事業のやり方を学ぶと一様に同じような点ばかりに着目してしまうが、そうではなく自分だけのこだわりを持っている変態であることはとても重要だということだ。亀山氏もその意見に賛同し、事業を行なっていくにあたりストリートスマート(実践で学んでいく)であることを推奨した。
また、スタートアップや新規事業を起こすにあたって、一部で「100億円稼げる事業でなければやる意味がない」という風潮があることについて、亀山氏は「どれが当たるか分からないので、自由にやらせてみることが大事」だと話す。今では大きな利益を出しているブラウザーゲーム「艦隊これくしょん -艦これ-」も開始当初はまったく事業として期待をしていなかったそうだ。しかし、現場に事業を任せたことで、予想もしなかった結果を生み出したとのこと。こうした亀山氏の判断を濱口氏は「経営者としてニュータイプだ」という。
濱口氏から見た亀山氏の特徴は「事業は確率である」ことをしっかりと心得ているところだ。未来を予想してもその多くは当たらず、想像した未来がいっぺんにやってくることはない。計画したことではないところで大きく当たることもあれば、その横ですごい事業が立ち上がっていくこともある。それをすべて確率であると断言し、様々な手法を凝らして確率を上げていく様子はアメリカを中心に400社以上の経営者を見てきた濱口氏にとってもニュータイプであると感じられるそうだ。
例えば、今では当たり前のように使われているAirbnbも、最初から事業として成り立っていたわけではない。アメリカではリーマンショック期に政府から「家を2軒買う」ことを義務付けられていたそうだ。しかし2軒目を常に使うことはないため、家を貸すことは以前より文化として存在していた。しかし、借主を募集する情報サイトはとても使いづらいものだった。そこでAirbnbはサイトをクローリングするプログラムを作り、バケーションレンタルとして利用できそうな物件に当たりをつけて直接営業を行なった。またプロのカメラマンを雇い、きれいな写真を掲載することで成約数を増やすと、その成約率の多さをもって更に家を持つ人へ営業をかけていったそうだ。事業が成功するかは確率の問題であることを認識しながらも、いかに地道にその確率を上げるための試行錯誤をしていけるか。それを繰り返して実践できているかが重要だという。
「0から1を生み出すのは苦手だが、今までの経験から1あるものを広げることはできる」と語る亀山氏。新たな事業を始める際、プロダクトにどのような機能を乗せた方が良いか、どこに広告を出せば良いか、どのように営業すれば良いかなど、最初だけライバルとの戦い方を教えるそうだ。しかしDMM.make AKIBAを5年続けてきて、ハードウェア・スタートアップは難しいと実感しているとのこと。ハードウェアを世に出して利益を上げるには、その物自体を作るだけでなく物流・在庫管理・営業などの業務も外すことはできない。また、販売する物を作るためにも技適、特許、量産など多くの課題がある。それをスタートアップだけで解決しようとするのはあまりにもハードルが高いのが現状だ。だからこそ今はスタートアップが大手企業と組んでいけるような流れが主流となっていけば良いと考えているそうだ。
「どうしたら会社が生き延びていけるか」。それを亀山氏は常に考えている。2019年11月に発表された学費無料のエンジニアスクール「42」は話が出てすぐに実施することを決めたそうだ。以前から、ある程度会社の規模が大きくなったら教育などの社会貢献に繋がる取り組みに利益の10%程度を投入したいと考えていたことと、そうして外から人や物を入れることで自社の中では生まれにくい事業が生まれ、会社が生き延びることに繋がると判断したからだ。こうして新たな風を吹き込むことこそも、事業成功のキーファクターであると言えるのではないだろうか。
* * *
近年、スタートアップや新規事業、そして大企業とスタートアップのオープンイノベーションが注目されている。しかし、実際にそのプロジェクトをスタートさせること、続けること、さらには成功させ拡大していくには数多くのハードルがある。そのハードルを超えていくことは並大抵のことではないが、自分のやりたいことを突き詰め、信頼できる人を増やし、そして成功を信じて地道な努力を続けるという1つ1つの積み重ねが大事なのだと、このイベントを通して改めて感じた。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- アキバから世界へ!DMM.make AKIBAから誕生した注目のものづくりスタートアップ6社を紹介!
- IoTの活用には創造力が不可欠! DMM.make AKIBA主催「IoT女子会」レポート
- 不可能性・不確実性が高い領域に投資しイノベーションを起こす。日本中の大学ファンドがいま注力する「DeepTech」とは
- 暮らしを素敵にする最新IoTアイテム大集合! DMM.make AKIBA主催「IoT女子会」レポート
- FoodTechは生活にどのような変革をもたらすのか? 食×テクノロジーが実現する可能性とは ―第7回 IoT女子会レポート
- イケてる企業はダラスを注目!
- IoTは女子のキレイになりたい願望を叶えてくれるのか!? 第6回「IoT女子会 もっと魅力的な自分に出会いたい!」レポート
- “スタートアップ”の正しい意味を理解していますか?
- AirbnbによってAndroidアプリがさらにウェブに近づく
- Hologramの新しいIoTプラットフォームは幻想などではない