KubeCon North Americaサンディエゴで開催。12,000人と過去最大の規模に
クラウドネイティブなシステムを構築するためのオープンソースソフトウェアが集結するカンファレンスとして、KubeCon+CloudNativeConは2019年の時点で最もホットなカンファレンスと言えるだろう。過去のKubeConと比べても最大となる12,000人という参加者を集めて、KubeCon+CloudNativeCon North America 2019がサンディエゴで開催された。今回の記事では、初日午前中のキーノートセッションを紹介しよう。
最初に登壇したのは、CNCFのエグゼクティブディレクターであるDan Kohn氏だ。
Kohn氏のプレゼンテーションは興味深いものだったが、より注目すべきと感じたのは、次に登壇したCNCFのエコシステムのディレクターであるCheryl Hungs氏が語ったCNCFの成長に関する内容であろう。特にエンドユーザーのメンバーが増加していることを強調していたのは、ベンダー側だけではエコシステムが拡大しないという認識があるからだろう。次に示したスライドでは129社となっているが、すでに130社を超えていることを説明した。
またAWSから20万ドルに相当するクレジットが寄贈されたことを紹介。これは簡単に言えばCNCFがホストしているプロジェクトが利用可能なAWSの利用時間だ。オープンソースソフトウェアへのフリーライドを批判されているAWSにとっては、もっとも経済的に簡単な貢献をコミュニティに対して行ったと言えるだろう。
そしてCNCFの新規メンバーとしてARM、NetApp、Fidelityを登壇させ、それぞれ短いプレゼンテーションをさせた辺りは、新規のメンバーに対するおもてなしといったところだろう。
特にARMはこれからのエッジ側のコンピューティングにとって重要なプラットフォームとなるであろうという観測から、CNCFのメンバーとして各プロジェクトに対するARMサポートをプッシュする立場に就いたことは注目するべきだ。
その後に、KubeConだけではなくKubernetes関連のミニカンファレンスやCommunity Daysが世界各地で開催されることを紹介し、主要な市場である北米、ヨーロッパ以外にも配慮していることを示してから次の登壇者であるVMwareのBryan Liles氏にステージを譲った。
VMwareのBrian Liles氏は、ここ最近のKubeConではホストとして主に技術的な内容をプレゼンテーションする傾向にあるが、ここでは数多いプロジェクトの中から比較的地味なプロジェクトを選んでアップデートしたように思える。
最初に紹介されたのはCoreDNSだ。
CoreDNSが、シンプルであることをデザインフィロソフィーとして設計されていることが解説された。そして次に紹介されたのは、2019年11月にインキュベーションからのGraduationが発表されたVitessだ。
Vitessはもともと、YouTubeが自社のMySQLシステムを水平スケールさせるものとして開発されたという出自を持ち、2010年にはすでに本番環境に実装されていたという長い歴史がある。つまりKubernetesよりも長い期間に渡って、開発と運用が行われてきたソフトウェアだ。ここではSlackの社内のデータベースとして利用されていることが紹介された。
Slackのエンジニアのコメントでも紹介されたように、MySQLを複数の分散されたロケーションで利用するというのは世界規模でサービスを展開する企業には必須の要件である。その要件を満たすのはMySQLだけでは不可能であるが、Vitessはそれを実現しており、MySQLのインターフェースをそのまま使ってマルチロケーションのレプリケーションを実装している点では、従来のレガシーな資産を流用してクラウドネイティブなシステムに移行できる点が評価されていると思われる。
他にも中国においてアリババに次ぐ巨大なECサイトを運営するJD.comでのユースケースも紹介されており、Vitessの信頼性が実証されていることを紹介した。
次に紹介されたのはサービスメッシュのLinkerdだ。
ややビジーなスライドながら、Linkerdが2.4から2.8まで着実に進化していることが見てとれる。その後、KubernetesのパッケージマネージャーであるHelm、トレーシングのJaegerなどが紹介された。そしてこれも地味ながら、セキュリティという観点では重要なソフトウェアであるOpen Policy Agent(OPA)が紹介された。
ここでOPAの開発をリードするStyraのTorin Sandall氏が登壇し、より詳しくOPAを解説した。
特に注目するべきは最近、話題になっているJavaScriptを補完する形で登場してきたWebアプリケーションの記述言語であるWebAssemblyへの対応も解説された点だ。フロントエンドがますます高機能化している流れの中で、いっそうの高速化とサンドボックスによる安全な実行を実現するWebAssemblyは、これからのアプリケーション開発では重要なプロジェクトになると思われる。
その後、Kubernetesの中核的コンポーネントである分散データストアetcd、KubernetesのServerless-SIGでも仕様開発が進んでいるCloudEventsが紹介された。
そしてオープンソースソフトウェアという意味では常に中心的なプレイヤーであるRed Hatから、Erin Boyd氏が登壇し、CoreOSから継続的に開発が進んでいるOperator Frameworkを紹介した。
Operator Frameworkは、Kubernetes上のアプリケーション実装と運用のノウハウをコード化するライフサイクルマネージメントの領域のツールであり、Red Hatに買収される前からCoreOSが開発をスタートさせていたものだ。そして今ではRed Hatの強い支持のもと、着実に利用者を増やしている。
その後、2018年3月にCNCFにホストされたメッセージングのソフトウェアであるNATSが紹介された。NATSの開発をリードするSynadiaの創業者でCEOのDerek Collison氏は、ログベースのストリーミングを使ったメッセージングシステムであるNATSを紹介し、ユースケースとしてNetlifyやMastercardなどのコメントを紹介する形でその有効性を訴えた。
最後にMicrosoftのLachlan Evanson氏が登壇し、Microsoftが2019年8月にGoogleやAlibaba、Intel、ARMなどと発表したConfidential Computing ConsortiumとConfidential ComputingのKubernetesへの応用について紹介を行った。
Confidential Computing ConsortiumはThe Linux Foundation配下のサブグループとしてガバナンスが行われる組織になるが、そこで合意された仕様が今回のようにKubernetesでの実装になるという流れのようだ。
具体的な実装例として、Microsoftが開発するOpen Enclave SDKを使った例が紹介された。
今回のキーノートはCNCFがホストするさまざまなプロジェクト、そして最新の実装例などを駆け足で紹介した形になった。多くのプロジェクトのアップデートを短い時間内に詰め込んだ感は否めない。CNCFとして大きな方向性を示すというのではなく、最も参加者の注目が集まるタイミングでこれだけのアップデートを行うというのは例がないのではないだろうか、
またユースケースとしてユーザーが出てくることもなかったこともあり、若干物足らないという感想を漏らす日本からの参加者もいたことはメモしておきたい。ただKubernetes自体にはあまり大きなアップデートがなく、通常は陽の目を見ない地味なプロジェクトをまとめて紹介したということには意味があると思える内容だった。
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