オープンソースを活用する企業にオープンソースプログラムオフィスは必要か?
企業とオープンソースの関係
企業においてビジネスに直結するIT資産をどのように構築するのか? これについては多種多様な解答が存在する。しかしLinuxが1991年にホビーのソフトウェアとして始まってから30年経つが、Linuxはオープンソースソフトウェアの代名詞であり、今ではサーバーOSとして最優先に選択されるソフトウェアと言って良いだろう。
そしてLAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP)と呼ばれるオープンソースソフトウェアスタックはWebシステムを構築するデファクトスタンダードとなった。その後、仮想マシンから始まり、コンテナに辿り着いたクラウドネイティブを志向するシステムは、Kubernetesを土台として可搬性が高く、柔軟、かつスケーラブルなシステム基盤としてIT業界では大きな流れとなっている。
ITベンダーにサポートやバグ修正を依存することが難しい多様なオープンソースソフトウェアを、いかに活用し維持するのか? これはエンタープライズ企業だけではなく多くの中小企業、スタートアップが持つ課題であり、多くの選択肢が存在する。例えばRed Hatのようなディストリビューションを有償サポート付きで提供するベンダーに任せれば、システムの更新やバグ修正は保証される。一方で、システムインテグレーションを提供するベンダーにとって、ディストリビューション以外のオープンソースソフトウェアを利用した場合にユーザーの意図に従って維持していくのは難しい。
またベンダー側もオープンコアとして中核のソフトウェアはオープンソースとして公開し、付加価値の部分はプロプライエタリでクローズドなソフトウェアとして提供することで利益を上げるベンダーもあれば、オープンソースソフトウェアをSaaSとして提供し、その使用料によって利益を上げるパブリッククラウドベンダーもあり、多種多様だ。
今回の記事でベンダー側ではなく、エンドユーザー側からオープンソースソフトウェアを使うメリット/デメリットを考えたい。メリットは、もちろんソフトウェアのコストが最小限であることと常に最新の機能を享受できることだろう。一方のデメリットは、サポートやバージョンアップなどの更新に関わる人的コストだろう。頻繁に更新されるオープンソースソフトウェアを最新の状態に維持することを自社のエンジニアだけで行うのは、多くの労力が必要だ。またエンジニアがそのオープンソースソフトウェアを維持しているコミュニティにおいて一定の活動と発言力を持ち合わせていなければ、ビジネスを任せるソフトウェアとして信頼できるとは言えないというのがビジネスサイドの発想だろう。
また自社のエンジニアがコミュニティにコミットする活動を続けたとしても、それを自社のビジネスに対する貢献度として評価するのは難しい。エンジニアが一生懸命にバグを修正した結果が、実際には他社のビジネスを助けることになったということも有り得るだろう。
昨今の傾向として、社内向けに開発したソフトウェアをオープンソースソフトウェアとして公開する企業も増えている。CNCFが2021年の予測として発表した予測では、エンドユーザー主導のオープンソースソフトウェアが増えるとしており、LyftのEnvoyやIntuitのArgoCDなどが例として挙げられている。
言ってみれば、Kubernetesも元はGoogleが自社で使っていたコンテナオーケストレーションであるBorgをオープンソースソフトウェアとして公開するために仕上げ直したものであり、エンドユーザーとしてのGoogleの姿が現れた形でもある。日本でもNTTや楽天などのように自社製のソフトウェアをオープンソースとして公開している事例もある。それらのコミュニティ活動を維持するのも、営利企業にとっては負担だろう。
OSPOとは
前段が長くなったが、この記事ではエンドユーザーがオープンソースソフトウェアを使う、もしくは貢献する際に有効であるとされるオープンソースプログラムオフィス(OSPO)について解説し、企業でのオープンソースを利用する際のヒントを提示したいと思う。
今回の素材は、2018年10月に公開されたChris Aniszczyk氏とCapital OneのJag Gadiyaram氏によるプレゼンテーションだ。CNCFのCTOであるChris Aniszczyk氏は他にも多くの肩書を持つ人材だが、その一つがTODO Groupの共同創業者という肩書きである。TODO Groupは2014年に非営利団体として創業し、2016年にThe Linux Foundationの配下のコラボレーションプロジェクトと認定された組織だ。企業や非営利団体、政府機関などにおけるオープンソース活用を支援するための活動を行っている。
Chris Aniszczyk氏によるプレゼンテーション:Starting an Open Source Program Office (OSPO)
タイトルが示すように、このプレゼンテーションは企業においてOSPOを始める方法を解説するものだ。中盤にCapital Oneのプレゼンテーションを挟んで、OSPOの事例として紹介している。Capital Oneはアメリカの金融機関であり、IT系イベントではたびたびプレゼンテーションを行う先進的なユーザーだ。
IBMにおけるオープンソースソフトウェアの主導的な立場にいるJeff Borek氏も、過去のインタビューの中でCapital Oneが社内にOSPOを創設したことに触れている。
参考:IBMのオープンソースプログラムのトップJeff Borek氏が語るOSSについて(後編)
ユーザー企業によるオープンソースの事例
最初は、オープンソースソフトウェアが隆興した背景をいくつかの数値をベースに解説している。2018年のプレゼンテーションであることから今からみれば少し古いデータとなるが、オープンソースソフトウェアが大いに拡大していることを説明している。
また、エンドユーザー主導のオープンソースソフトウェアが公開されている例として示したのがこのスライドだ。Googleを始めとして、TwitterやFacebookなどの従来のITベンダー以外からも、オープンソースソフトウェアが発信されていることを示している。
スライドの中に記述されているTwitterの例は、以下のリンクから参照することができる。すでにHeronという名称のソフトウェアは見つけられないが、大小さまざまなソフトウェアが公開されていることがわかる。
参考:Twitterが公開しているOSSプロジェクト:Projects | Twitter Open Source
またTODO Groupが行ったサーベイの結果も紹介しており、その中では多くのIT企業がOSPOを作っていることやOSPOによってライセンスに対するコンプライアンスが向上することなどを紹介した。
このサーベイは2018年から始まっており、2020年までの結果については以下を参照されたい。
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