HashiCorpが日本での活動を始動。ゼロトラストのデファクトスタンダードを目指す
TerraformやPacker、Vaultなどのオープンソースソフトウェアを開発していることで知られているHashiCorpがオンライン記者会見を行い、日本での活動方針などをメディアに向けて解説した。
登壇したのはHashiCorpのCEOであるDave McJannet氏と日本法人のカントリーマネージャーである花尾和成氏だ。
CEOのMcJannet氏はHortonworks、VMwareなどで経験を積んだベテランであり、花尾氏もヒューレットパッカード、日本オラクル、ヴイエムウェアなどで営業を担当していた人材で、エンタープライズ向けの施策を実行するには充分な経験を持っている陣容と言える。
HashiCorpはポートフォリオとしてTerraform、Packer、Vagrantなどのインフラストラクチャー寄りの製品から、クラスター管理ツールで分散キーバリューストアとしても使われるConsul、クレデンシャル管理のVault、コンテナ以外にも対応するオーケストレーターのNomadなどを持っている。これらの製品は「クラウドを自動化するソリューション」として紹介されている。
HashiCorpは2012年にMitchell Hashimoto氏とArmon Dadgar氏によって創業された企業で、オープンソースソフトウェアとして製品を開発公開し、エンタープライズ向けのディストリビューションを企業向けに販売するというやり方でビジネスを進めている。
これまでのインフラストラクチャーはオンプレミス、パブリッククラウドそれぞれにツールが存在しており、ユーザーがプラットフォームごとに使い分ける必要があった。それを一気通貫してカバーできるのがHashiCorpの製品であると説明した時のスライドがこれだ。
ただ、今やコンテナ化はクラウドネイティブの最初のフェーズであり、それをオーケストレーションするのはKubernetesというのがほぼ常識として受け入れられている。この状況において「コンテナ以外もオーケストレーションできると」いうキャッチコピーのNomadを使おうというユーザーは少ないだろうし、サービスメッシュやマイクロサービス間のイースト~ウエスト通信にConsulを使うユーザーも少ないだろう。ユースケースの多さではコンテナのサイドカーによる実装は、Envoyがデファクトスタンダードと言っても過言ではない。ただし、インフラストラクチャーアズアコードのTerraformとクレデンシャル管理のVaultがオンプレミス、パブリッククラウドの双方で認知されているというのが日本でのHashiCorpの現状だろう。
日本代表となるカントリーマネージャーの花尾氏が説明を引き継いで日本市場における施策を解説した部分では、日本におけるデジタル変革においては「開発スピードの加速」「クラウド利用」「DevOps」がポイントであると解説し、多様化がテーマとなると説明した。
それを前提として日本市場においては「ゼロトラストモデルの実現」が今後のテーマであると説明した。
これまでのインフラストラクチャー関連のポートフォリオからは離れて、敢えてセキュリティの領域に踏み込んだ営業活動を行うというのが花尾氏の作戦ということだろう。
このスライドではすでに大きな実績を持っているTerraformが外されており、代わりにVault、Consul、Boundaryという3つの製品が挙げられている。Boundaryは新製品としてHashiCorpのWebサイトで紹介されているリモートアクセスのためのツールであり、Vaultと組み合わせて使うことを想定しているようだ。
また日本での施策についても説明を行い、メディア、コミュニティ向けマーケティング、業界をフォーカスしたエンタープライズ向けの営業活動、すでに実績のあるパートナーとの協業などが紹介された。
質疑応答では、これまでのインフラストラクチャー関連ではなくゼロトラストをテーマに挙げたセキュリティにフォーカスを移していくのか? という質問に対して、すでに売り上げでConsulがTerraformを上回ったことがあるとして、セキュアなシステムを実装するツールの強化を目指すと回答した。
またWaypointについてほとんど戦略として触れられていないことから、優先順位が低いのか? という質問に対しては、HashiCorpはすべてのソフトウェアをオープンソースソフトウェアとして公開するという方針を持っており、認知が拡がってある程度のユーザーが獲得できた後にエンタープライズ向けのディストリビューションを作るという戦略を紹介する形で答えた。Waypointについてはまだ公開が始まったばかりで、これから認知が拡がってくれば商用版としての戦略が推進されることになると説明し、Waypointについては長期的に見てまだビジネス戦略に載るようなフェーズではないことを説明した。これについては、Terraformの商用版の登場がオープンソースソフトウェアとして公開されてから6年後であるという実績が合わせて示された。
Waypointについては以下の記事を参照されたい。
参考:
ビルドからリリースまでを抽象化するツールWaypointをHashiCorpがリリース
ビルドからリリースまでを抽象化するWaypointにディープダイブ
全般的には、ポートフォリオの中で一番マネタイズが速そうなVaultとConsulにフォーカスして戦略を立てたという印象となった記者説明会だった。セキュリティに特化したベンダーがやるような、ポリシーやRBAC(Role Based Access Control)を中心に製品戦略を立て、差別化のためにプロアクティブなセキュリティ実装に機械学習などを活用するというやり方ではなく、あくまでも既存の製品を組み合わせた形の訴求となった。
HashiCorpといえばCTOであるMitchell Hashimoto氏の存在観が強い印象だが、国内のエンタープライズ企業に訴求するには実効力のあるソリューションを、ゼロトラストという流行りのキーワードと組み合わせることが有効というのが日本支社の戦略ということだろう。ただ、すでに多くのエンタープライズ企業においてクラウドネイティブなシステムはKubernetesが前提であると想定すると、VaultやConsul、BoundaryなどがKubernetesのエコシステムの中でどういう位置付けになるのかを訴求して欲しかった。
またコミュニティとユーザー会という単語が同じスライドに存在していることをみると、コミュニティはオープンソースソフトウェアのファン層、ユーザー会は商用版のユーザーという区別が存在しているようだ。エンタープライズ企業向けの営業としては妥当な発想だが、コミュニティを盛り上げながら商用版のユーザーを大事にするというのはオーバーヘッドが大きい割に得るものが少ない手法と言える。前職のヴイエムウェアでは、VMwareにおける戦略的ソフトウェアであるTanzuの担当もしていたというカントリーマネージャー花尾氏の手腕に期待しよう。
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